ベルナデット王女
しばらくして、雑談するエメリーヌのもとにクロードがやってきた。
「エメリーヌ嬢。少しいいかい?」
「殿下、どうしましたか?」
「姉上……ベルナデットが君に会いたいとさ」
クロードの言葉に面食らう。
ベルナデット王女が自分に面会を希望している?
なぜ自分のような者に……?
「悪い話じゃないらしい。
ま、とりあえず会ってやってくれよ」
「承知いたしました。すぐ参ります」
「ありがとう。姉上は二階の貴賓室にいるから」
エメリーヌの傍にいたフェリシーも驚いた様子だ。
「ベルナデット王女殿下にお呼ばれするなんて……
すごいわね、エメリーヌ様!」
「どういう事情でお呼ばれしたのかしら?
とにかく、行って参ります」
「ええ、ごきげんよう」
仲よくなった令嬢たちに挨拶をして、エメリーヌは二階に向かった。
***
貴賓室を訪れると、中には優雅に座る女性の姿があった。
長く伸ばした黄金の髪。
明かりを受けて輝く彼女の姿は、童話に出てくる姫のようだった。
……いや、実際に姫様なのだが。
エメリーヌがぎこちない様子で挨拶すると、彼女は笑顔で手招く。
「あら、あなたがエメリーヌ嬢ね?
わたしはベルナデット。よろしくね」
「は、はい! エメリーヌ・フィネルです!
よろしくお願いいたします!」
「さ、座って?」
「失礼します……」
話したことのある王族はクロードくらい。
他の王族の方々は、とてもじゃないが近寄れない。
エメリーヌは初のベルナデット王女との対談に極度の緊張を覚えていた。
向かいに座ると、ベルナデットはティーカップを用意する。
そして優雅な所作で茶会の魔法を発動。
香りのよい琥珀色の液体が注がれた。
「イメージしたのは、山脈の向こう側で採れる茶葉よ。
茶葉は栽培している場の標高によって味を変えるの。
味が強めで香りの強い……虎茶をイメージしたわ」
「さすがです……!
令嬢魔法の名手として名高いベルナデット王女殿下、御見それしました!」
たしかベルナデットは舞踏が専門だったと思うが、
こうして茶会の魔法も使えるようだ。
勧められるまま紅茶に口をつける。
ふわりと甘く香ばしい味わいが口の中に広がった。
「わたしの令嬢魔法はアラベル先生の下で鍛えられたの。
そして……いま、エメリーヌ嬢もアラベル先生に指導を受けているのでしょう?」
「はい。とても教えるのが上手な先生で、授業に飽きがきません」
なるほど。
おそらくベルナデットは同じ教師を持つということで、エメリーヌを面会に招待したのだろう。
「先生は元気かしら?」
「ええ。とても元気溌剌で……ついていくのがやっとです」
「あの先生、変わってるというか……面白い方よね?
わたしが最初に受けた授業内容、なんだと思う?」
ベルナデットの問いに、エメリーヌは過去を想起する。
自分が最初に受けた授業は……正装の練習。
「専門外の属性の練習ですか?」
「いいえ、違うのよ。
アラベル先生ったら、『心を豊かにするぞー!』っておっしゃって……
わたしを王都のウィンドウショッピングに連れ出したのよ?
しかも王家の許可なしに、無断で!」
「そ、それは想像以上ですね……でもアラベル先生ならやりそうです」
貴族相手でも王族相手でも、アラベルは忖度しない。
純粋に教導だけを目標としたストイックな性格だ。
だからこそ多くの貴族に信用されているのだろう。
「令嬢魔法の秘訣は心の豊かさ。
エメリーヌ嬢もヴィクトルの婚約者になって……心に余裕が出来たりしてない?」
「そうですね……ヴィクトル様は正しく私を見てくださいます。
生活の質もずっとよくなりましたし、ストレスは減っているように感じますね。
少しだけ令嬢魔法も使えるようになりましたし」
「本当!? まだアラベルに指導を受けて、そこまで時間が経ってないわよね?
わたしなんて指導を受けて半年でやっと令嬢魔法が形になってきたのに……きっとヴィクトルにすごく大切にされているのね!」
「ふふ……ええ、丁重にもてなされている自覚はありますわ。
最初はとても怖い方だと思っていましたが、ただ本音を隠すのが苦手というだけで……ヴィクトル様の心根はとても優しいのです。
あの方がいるからこそ、私の心は豊かになっています」
幸福そうに笑うエメリーヌを見て、ベルナデットは心底驚いた。
ここまで婚約者のことを思い描いて、笑顔になれる令嬢はほとんどいない。
同じ教師を抱えているということもあるが、何よりもヴィクトルの婚約者を見てみたかったのだ。
無情公爵は今まで誰ひとりとして婚約者を作らなかった。
数多の令嬢に言い寄られるも、すべてを冷徹に突っぱねてきた。
そんなヴィクトルが王令を出させてまで婚約を結ぼうとした令嬢。
それがエメリーヌだった。
一見すれば何の変哲もない少女。
だが、内に秘めたる感情をヴィクトルは見抜く術に長けている。
おそらくベルナデットでも見透かせない特質が、エメリーヌにはあるのだろう。




