表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/36

夜会

到着した夜会の会場は思ったよりも小さかった。

そこまで大規模なものではない……身内だけの夜会と聞いていたが、

想像よりも小さくてエメリーヌは安心する。


「ヴィクトル・ベランジェ公ですね。お待ちしておりました」


招待状を簡単に検め、使用人はヴィクトルとエメリーヌを屋敷に通す。

広間では数名……六人ほどの令息と令嬢が雑談していた。

みな顔立ちが整っており、高位貴族のみに許された衣装を着ている。


エメリーヌも貴族の端くれ。

顔を見るだけで、彼らの家格がわかった。

ほとんどが侯爵以上の階級らしい。

普段は言葉も交わせなかったような者ばかりだ。


緊張しているとヴィクトルがそっと背中を押す。


「大丈夫だ。彼らはみな、貴族としての責務を立派に果たす者。

 クロードが招くのは人格者と言える貴族だけだからな。

 才能の有無で人を差別したりしない」


ヴィクトルの言葉を聞くと自然と足が動いた。

エメリーヌは迷わずに、令嬢らしく毅然とした態度で彼に続く。


やがて貴族たちの中から、一名の貴公子が姿を現す。

ブロンドの髪を束ね、エメラルドの瞳でまっすぐにこちらを見ている。

衣装は王族にしか許されない青と銀縁のドレス。


クロード・ヴィヴィエ第三王子。

彼はそつのない微笑で二人を出迎えた。


「やあ、ヴィクトル! エメリーヌ嬢!

 お元気そうでなによりだ」


クロードの気さくな挨拶に対して、ヴィクトルは深々と礼をする。


「クロード殿下。ご機嫌いかがでしょうか」

「おいおい、なんのつもりだ?

 まさかエメリーヌ嬢の前だから恰好つけてるのか?」

「……まあ、堅苦しい態度はこのあたりにしておくか。

 まずは皆に紹介させてくれ。彼女が俺の婚約者となったエメリーヌ・フィネル嬢だ。アンドレの誕生パーティーに出席していた者は、悪い意味で知っていると思うが」


エメリーヌは恐る恐る頭を下げた。

だが、冷徹な視線は周囲の貴族からは感じられない。

それどころか同情を覚え、労わるような視線だった。


クロードが率先してエメリーヌに挨拶する。


「あの時は災難だったね……アンドレとセルネ嬢も趣味が悪い。

 公衆の面前で婚約破棄することはないだろうに。

 逆にヴィクトルがエメリーヌ嬢と婚約を結んだ理由は明白だね」

「うう……あの瞬間は思い出したくありませんわ。

 本当に、今でも動悸がしてしまいます」

「おっと、それはすまない!

 この話は以後しないようにしよう」


ヴィクトルは努力する人間が好きだからな、

とクロードが言うと周囲の者もしきりに頷いた。


「黙れ、人の婚約に口を挟むな。

 俺とエメリーヌが婚約者になった……その事実だけ把握してればいい」


ヴィクトルはきつい口調で周囲を睨む。

これだから『無情公爵』と言われるのだ。


もっとも、この夜会に参加している人はみな彼の本質を知っている。

過去を思い出して震えるエメリーヌを庇ったのだ。

なのできつい口調にも怯えず苦笑いするだけだった。


「ま、それくらいにしておこう。

 この夜会は身内だけのものだから、そこまで畏まらなくていい。

 好きに飲み食いして談話してくれ」


クロードが手をパン、と叩くと夜会が始まる。

正式な夜会ではないので、特にダンスも演奏もする必要はない。


夜会が始まると同時、ヴィクトルに数名の令息が話しかける。

どうしようかと迷うエメリーヌ。

そんな彼女にヴィクトルがそっと囁く。


「……あの青髪の令嬢は優しい。

 まずは彼女と話してみることだ。

 彼女は知っているか?」

「ええ、フェリシー・ペリアン侯爵令嬢ですね。

 何度かお話したことがありますわ」

「行ってくるといい。

 何か困ったことがあれば、俺のもとに来てくれ」


「はい」


ヴィクトルに促されるまま、エメリーヌは歩き出す。

近づいてきた彼女にフェリシーはすぐに気がついたようだ。

フェリシーは微笑を湛えてカーテシーする。


「ごきげんよう、エメリーヌ様。

 ええと……前々回の鑑賞会以来かしら?」

「ええ、あのときは一緒に演奏してくださってありがとうございました。

 そして、先日のパーティーでは情けないところをお見せしましたわ」

「あの光景には、さすがにわたくしも頭を抱えました。

 アンドレ公爵令息があそこまで見境のない殿方だとは。

 ……でも、驚きましたわ。まさかヴィクトル様の婚約者になるなんて」

「私もお話が来たときは驚いたものです。

 ですが……ヴィクトル様とは会話もしたことがなかったので、とても最初は不安でしたわ」


今にして思うと懐かしい。

無情公爵を恐れて嫁ぎに行ったあの瞬間が。


今では頼りになる婚約者様だ。

とはいえ、今も婚約破棄されないかヒヤヒヤする時はあるのだが。

どうしてもアンドレに婚約破棄された過去が尾を引く。


「安心してくださいまし、エメリーヌ様。

 あなたに才能がなくても、努力してきたことは誰もが認めていますわ。

 アンドレ様とは価値観が合わなかっただけ。

 令嬢魔法がすべてとされる社交界でも、わたくしやヴィクトル様、クロード様のように人間性を評価してくださる方はいらっしゃいます」


フェリシーの言葉に目頭が熱くなる。

そうだ、無才のエメリーヌを舞踏に誘ってくれる人は何名かいた。

味方が完全にゼロなわけではないのだ。


むしろアンドレのパーティーで、エメリーヌに同情的になった貴族も多いだろう。


「ありがとうございます……救われた心地ですわ」

「ふふっ……さあ、わたくしのご友人を紹介しましょう。

 エメリーヌ様と面識のない方もいらっしゃいますから、

 お互いに楽しくお話できるようにわたくしが取り持ちますわ」


フェリシーの案内により、エメリーヌは交友の輪を広げていく。

みな『無情公爵』の婚約者に興味があるようで。


どうやってヴィクトルの目に留まったのか、

普段のヴィクトルの様子はどんなものか……など。


多くの問いと答え、笑いを重ねて令嬢たちは仲よくなっていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ