魔法練習
「いやあ、まさか気絶するとは思わなかったよ。あそこまでマズい茶は飲んだことがない。アレを茶と形容すると、茶に失礼というものか」
アラベルは苦笑した。
同時にエメリーヌも苦笑いしてしまう。
あまりに才能がないゆえに、自分の紅茶が人を気絶させるとは。
「やはり私はダメなのかしら……」
ヴィクトルの言葉で決意を固めたが、やっぱり令嬢魔法は使えない気がしてきた。
喜びと悲しみが二転三転する。
落胆するエメリーヌを見てアラベルは首を横に振る。
「いや? 別にダメと決まったわけじゃないさ。
ベルナデット王女も舞踏の才能がなくて、一時は『死の踊り』とさえ揶揄されていたからね」
その話は初めて聞いた。
かつてアラベルが指導していたベルナデット王女の悪評は、今や社交界でなかったことにされているのだ。
王族が令嬢魔法を使えないなど、なかったことにされて当然。
その過去に鍵が隠されているのかもしれない。
ベルナデット王女がどのように苦手を克服したのかを辿れば、エメリーヌもあるいは。
「どうやってベルナデット様は立ち直ったのでしょうか?
今は見事な舞踏の使い手として知られていますが……」
「彼女の境遇は今のエメリーヌ嬢と似ていた。周囲の人から冷たく見られ、精神が不安定で……見るに堪えない姿だったとも」
アラベルは瞳を閉じ、昔を思い出すように語る。
「だが、そこでだね。国王陛下の頼みで、アラベルが家庭教師として同じ時期に登用された。
そこでアラベルがまず試みたのは……他属性の使用。令嬢魔法の様々な属性を実践させてみたのだよ。するとどうだろう。
本流の舞踏の実力がみるみる伸びていったんだ」
他の属性。
エメリーヌは考えたこともなかった。
一般的に、母方の血筋に伝わる属性を令嬢は使う。
エメリーヌは先祖代々、茶会の使い手の家系。
だから当然のように茶会だけを鍛えていた。
「そうだね……まずは正装を使ってみようか?」
正装。
その名のとおり、着飾るための令嬢魔法。
見目、着心地、機能性の観点から評価される。
だが、エメリーヌは右も左もわからない。
「えっと……どうすればよろしいのでしょう?」
アラベルはおもむろに立ち上がり、エメリーヌに注視を促す。
命令に従い彼女はアラベルの行動を凝視した。
「──『腕輪』」
アラベルが掲げた手首に眩い光が走る。
光は円環となって纏わりつき、彼女の腕に収縮してフィットした。
出来上がったのは黄金の腕輪。
周囲には赤色の布がついており、輝かしい雰囲気を放っている。
ブレスレットひとつでアラベルがまるで別人に見えた。
それほどまでに出来が良いのだ。
「す、すごい……!」
「見た目はもちろん素晴らしいだろう? 腕に負担をかけないよう、羽のように重量は軽い。そして、精神を落ち着かせる輝きと、護身用の刃を仕込む機能性も完備している。
正装は他にもドレスやヒール、髪飾りなどを作れるが……いちばん簡単な形状はブレスレットだ。まずはここから始めよう」
アラベルはあらゆる令嬢魔法を熟知していた。
それぞれの領域の達人には敵わないが、あらゆる属性の指導ノウハウがある。
超優秀な家庭教師の指導のもと、エメリーヌは正装の練習を開始した。




