表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/36

婚約破棄は唐突に

「エメリーヌ・フィネル伯爵令嬢! 今このときをもって、お前との婚約を白紙に戻す! お前は公爵家嫡男である私の婚約者でありながら、令嬢としての責務を放棄したことを認めるか?」


公爵令息、アンドレ・ジュアットは尋ねた。

金髪に、切れ長の青い瞳を持つ貴公子である。

今日はアンドレの誕生日パーティー。

パーティーの最中、会場の中心で婚約者の少女に詰問したのだ。


「──はい、認めます」


エメリーヌ・フィネルは伯爵令嬢である。

そして自他ともに認める『令嬢らしからぬ人物』でもあった。


決してマナーが備わってないわけではない。

公の場では完璧に振る舞うように躾けられていたし、取り立てて性格に問題があるわけでもない。


そして令嬢らしく見目も麗しかった。

アンドレと同じく金髪に青い瞳。

整った顔立ちと体型はエメリーヌの努力の賜物だ。


だが、彼女が『令嬢』として評価されないのには理由がある。


「令嬢魔法に関して、お前はまったく才能がない。それも認めるな?」

「はい、仰るとおりです」


──令嬢魔法。

この国では『令嬢魔法』を使える者こそ、真の淑女とされる。


令嬢魔法には様々な属性があった。

 『刃物(カトラリー)

 『正装(ドレスアップ)

 『茶会(ティータイム)

 『舞踏(バレエ)


……などなど、あらゆる属性がある。

エメリーヌはどの属性の令嬢魔法にも才能がなかった。


すなわち、この国では令嬢として評価されるに値しないのだ。

令嬢魔法を扱えない者は優雅ではない。

それが絶対的な評価尺度。


もちろん、小さいころから努力した。

血がにじむような努力を朝から晩まで。

それでも才能が開花することはなく、ここまで来てしまった。


「お前のような優雅でない者に、公爵家の婚約者となる資格はない。幼少期からいつか才能が開花すると思って連れ添ってきたが……もう限界だ。

 パメラ、こちらへ」


アンドレは周囲の見物人の中から、一人の少女をエスコートする。

淡い紫色の髪と瞳。

妖艶な雰囲気を醸し出す令嬢だ。


彼女の名はパメラ・セルネ。

誰もが名を知る公爵令嬢である。

そして高名な令嬢魔法の使い手でもあった。


「知っているか? パメラが『茶会(ティータイム)』の魔法で作る紅茶は世界一だ。

 エメリーヌが作る泥水とはわけが違う。彼女こそ俺の婚約者に相応しい」


パメラを抱き寄せるアンドレ。

二人が最近付き合っていることは誰もが知っていた。

もちろんエメリーヌも知っていたが、相手は格上。

異見などできるはずもなかった。


「というわけで、俺はパメラと婚約を結ぶ。

 エメリーヌ、わかってくれるな?」

「……はい。承知しました」


周囲の誰もが納得しているようだった。

エメリーヌ自身でさえ、自分が無才だと知っているのだから。


だが、こんな公衆の面前で婚約を破棄にする意味は?

ひっそりと伝えてくれればそれで良かったのに。


「……私はこれで失礼いたします。アンドレ様とセルネ様の末永い幸せを願っております」


エメリーヌは華麗に一礼し、踵を返した。

涙はこらえている。

仮にも伯爵令嬢、公然とわめくわけにはいかない。


自分がどこまでもみじめだった。

令嬢魔法の才能がないばかりに、こんなことになるなんて。


周囲の貴族たちが見物する中、一角からどよめきが上がった気がする。

だが、これ以上面倒事には巻き込まれたくない。


エメリーヌは早足に会場を去った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ