エンディング
一年後。
貴族学校を卒業して、この日を迎えたディオーラは……教会の中で、ウェディングドレスとヴェールに身を包んでバージンロードを歩いていた。
披露宴は大々的に行うけれど、誓いの儀式自体への参列者はさほど多くない。
最上級の格式を持つ王宮内のチャペルは、席が左右に五列程の、あまり広くない場所だからだ。
右側の席の末席には特別に招待され、慣れない服装に身を包んだアガペロが一人と、この場で一番身分が低いけれど共通の友人として招待されたフェレッテ様がご両親と共に、カチコチになって座っている。
流石に『影』を招待することは出来なかったけれど、ディオーラ的には尽力してくれた彼にも見て欲しかったので、アガペロの影に潜んで貰っていた。
反対側、左の末席には、ライオネル王国南部辺境騎士団長ご夫妻である、レイデン卿とリオノーラ夫人。
その一つ前、右の四列目に、侯爵令嬢のフェレッテ様とご両親、サーダラ様とそのご両親。
右の三列目に、ヨーヨリヨ公爵と聖女アンナ様、ウォルフ様やメキメル様など、王家の親族がた。
そして他国からの王族来賓として、左側の三列目に、ハムナ王国国王であるヘジュケ陛下。
左側の二列目に、イルフィール皇帝陛下ご夫妻と、先日玉座を継がれたライオネル王国のレオニール陛下。
残念ながら、【整魔の指輪】を作って下さった夫人、イオーラ・ライオネル王妃殿下は、ご懐妊の為、欠席となっている。
右側の二列目に、帝国の使者である宰相閣下ご夫妻や、大公国の大公ご夫妻。
ディオーラやワイルズとはあまり関わりのない方々だけれど、国家として事業提携をしており、ライオネル王国やフェンジェフ皇国と同等の『格』がある国家の来賓である。
そして最前列右に国王陛下ご夫妻と、上王陛下ご夫妻、左にディオーラの母が座っている。
ドレスの裾は、メルフィレスが持っていて、手は父に握られていた。
壇上には、当然ワイルズ殿下が真っ白な礼服を身に纏って立っていた。
落ち着いた表情を『作って』いるけれど、緊張しているのがディオーラには丸わかりである。
ーーー大丈夫かしら。
ワイルズは、こういう公的な場では『何かやらかす』ことが、実はあんまりないのだけれど……今日はちょっと予感がした。
父の手を離して、殿下の手を取り、メルフィレスが裾を広げた後に、父に従って席を移動し、脇に移動して控える。
神父様の文言を聞き、婚姻届に署名を行い、最後に問われる。
「汝、ワーワイルズ・アトランテ。生涯、妻ディ・ディオーラ・アトランテを愛することを、女神に誓いますか?」
そこで、ワイルズが口を開く。
「誓いましゅ」
噛んだ。
予想通りに。
ーーーやっぱり噛みましたわね。
以前のプロポーズで、同じことをされた経験がなければ、笑いを堪えきれなかったかもしれない。
背後からヒシヒシと、皆の『やったな』という気配が伝わってくるし、ワイルズは多分今、全身から一気に汗が吹き出しているだろう。
ーーー本当に、わたくしの殿下は、いつまでもわたくしの殿下ですわ。
けれど神父様は流石だった。
こういう事態も多く経験なさっているのだろうし……流石に王族の宣誓ではないかもしれないが……全く表情を変えることなく、続きを口にする。
「そして汝、ディ・ディオーラ・アトランテ。生涯、夫ワーワイルズ・アトランテを愛することを女神に誓いますか?」
「誓いますわ」
そうして向き合い、ワイルズがぎこちなくヴェールを上げてくれた。
案の定、額にじんわりと汗が滲んでいるけれど、ディオーラは皆から見えない側の目をパチリと閉じた。
ーーー大丈夫ですわ。
後で怒られるかもしれないけれど、皆、そういうところを知っているのだ。
少しホッとした様子を見せたワイルズは、ディオーラの手からグローブを抜いて、置かれていた指輪の箱を手にすると、中からそれを取り出した。
もう必要ないものになった、イオーラ妃殿下から頂いた【整魔の指輪】の呪玉を、許可を頂いてルビーと共に嵌め込んだ結婚指輪である。
そっと指に嵌め込まれた後、口付けを交わして、祝福の拍手を受けた。
そのまま披露宴の前に外での会食となり、参列者の皆様のご挨拶した後。
「殿下。ここ、覚えておられます?」
王宮の庭。
初めてワイルズに『婚約を破棄する!』と言われたところであり、落ち込む殿下にその理由を尋ねた場所でもあった。
「……忘れた」
「愚かですわねぇ。嘘はよくないですわよ? わたくしを誤魔化せるわけないでしょう」
ディオーラは、目を逸らしたワイルズに、ふふ、と笑う。
「ディオーラは、王太子であるこの私を最後まで舐めたままだ」
「舐めてませんけれど、本当に愚かだと思っていますわ」
あの時と似たようなやり取り。
「ですけれど……同時に、その愚かしさを可愛いとも、思っておりますの。今までも、これからも、ずっとですわ」
「上から目線で、不敬な態度だ……でも、その……頼りにしている」
ワイルズは、凄く嫌そうながら、そんなディオーラの『お遊び』に付き合ってくれる。
「それと、頼りにされるように、もっと頑張る……」
「今までもずっと、殿下は一生懸命でしたわ。だから、今まで通りに頑張っていただければ大丈夫です」
「頑張らなくていい、じゃないんだな……」
「ええ。それは勿論。わたくしと共に頑張りましょう」
―――本当に愚かわいいですわねぇ、殿下は。
「殿下にだけ頑張れ、とは言いません。わたくし、きちんと弁えておりましてよ?」
「……知ってる。なぁ、もういいか?」
どうやら自分の過去の恥を責められていると思っているらしく、情けない顔をするワイルズに、ディオーラは首を横に振った。
「殿下。分かりませんの? ちゃんと殿下からも、言って欲しいのです」
「あ〜……」
目を泳がせたワイルズは、しばらく口をパクパクさせた後、ちょっと耳を赤くしながら、こう言ってくれた。
「愛して、いる。……末長く、宜しく頼む」
「ふふ。ええ、よろしくお願い致します。わたくしの、愚かわいい殿下……」
Fin.
完結です! ご愛読ありがとうございましたー♪
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