わたくし達なら、簡単なことですわ!
ワイルズが目を向けた先には、ディオーラがいた。
グリフォンのグリちゃんに乗って、こちらに向かって来ている。
「ディオーラ、危ないぞ!?」
「今更ですわ。それに、どうやら女神様はわたくしのことを認めて下さったようで……」
と、ディオーラが自分の頭上で蛇腹刀を振るう。
「こういうことが、出来るようになりましたの。……〝八咫鏡〟」
ヒュン、としなった刃が弧を描いて空を割くと、ベル湖の湖上に魔導陣が浮かび上がり、その中心から太い青の光線が天に向かって伸びて、アマツミカボシを包む。
とんでもない浄化の魔術である。
黒い煙を上げながらも、アマツミカボシは消滅する気配を見せないまま、浄化の魔術が収まる……が。
瘴気の雲が浄化の魔術によって消えると、空から陽光が差し、魔性の全身が焼けるように青い炎に包まれる。
『ゴォゥァアアア……!』
初めて、アマツミカボシが苦悶の声を上げた。
すぐに上空が瘴気雲に包まれて陽光が遮られ、青い炎も消える。
「ということですわ」
「どういうことだ!? 何で陽の光で燃えた!?」
意味が分からずにワイルズが首を傾げると、ディオーラはコロコロと笑う。
「愚かですわねぇ、殿下。見て分かりませんの?」
「愚かって言うな! 分からんから聞いてるのだ!」
「ただの光ではなく、陽の光『だから』燃えたのですわ。アレの不死性が保たれるのは、陽の光が差さぬ場所だけなのです」
ディオーラは、そう説明してくれた。
「瘴気に関わるものは、全て元々、陽の光に弱いですもの。魔獣や魔物であっても、昼間は死なぬまでも力が削がれ、夜や闇の中では力を増す。ゴーストのような本体を持たぬ『魔性』であれば、その反応はより顕著になりますのよ」
「あ」
勿論、それは魔獣に関わることなので知っていた。
改めて説明されれば、なるほどその通りである。
アマツミカボシも魔性であり、何故攻撃以外にも瘴気を垂れ流しているのか、その理由も分かった。
魔性が、ディオーラに対して危機感を覚えたように差し向けて来た触腕を斬り払いながら、ワイルズは頷く。
「つまり、アレは魔性の中でも特に日差しに弱いということだな!」
「ええ。だから無限の瘴気で、天を覆っているのです。夜になる前に雲に穴を開け続けて、陽光の中に閉じ込めれば、倒せますわね」
「それだけの魔術を放ち続けることが、可能なのじゃな?」
バロバロッサ上王陛下の問いかけに、ディオーラはニッコリと頷いた。
「わたくしが、先ほどのように瘴気を払い、穴を維持しますわ。閉じ込めるのは、陛下がたと殿下にお任せ致しますわね」
「良かろう。聞こえたな、フロスト、リヨ、ワイルズ」
「もうしばらく足止めすれば良い、と」
「微力ながら、ディオーラ嬢を補助しますよ」
「割と簡単なことだったな!」
―――やっぱり、『四凶』とかいうのの力は、いらんじゃないか!
ワイルズは、エイワスに心の中で舌を出す。
別に一人でアレを倒せるような力や知恵がなかったとしても、ワイルズにはディオーラやバンちゃん、家族や友人がいるのである。
皆で力を合わせれば、一人よりもずっと色んなことが出来るのだ。
そこで、さらに声が上がった。
上妃陛下の、風の魔術で拡声されて届いたのは。
『俺たちも混ぜろ〜!』
『今回、全然良いトコなかったからな!』
『最後くらいはちゃんと役に立ちたいですね』
どうやら目を覚ましたらしい、ウォルフ、メキメル、サーダラ兄ぃである。
後ろで『安静にしろ』とか『また乗っ取られたらどうするのか』と騒いでいるアンナ様やオーリオ嬢、フェレッテ嬢の声が聞こえるが、三人とも聞いていないようだった。
グリちゃんとは別のグリフォン達に跨って、こちらに向かってくる。
「……殿下だけでなく、他の方々も愚かですわねぇ……」
と、ディオーラが蛇腹刀を振るうと、ちっこい聖結界みたいなのが、三人を覆う。
「これで大丈夫でしょう」
「……なぁ、ディオーラ。私は魔術のことは分からんのだが、本当に何か、めちゃくちゃ凄くなってないか?」
「ふふ、わたくし、『瞳さえまともなら、上妃陛下に劣らない』そうなので」
と、ディオーラは、今までと少し色合いが変わった、銀環のある紫瞳で上目遣いをする。
「お褒めいただいて、嬉しいですわ♪」
そうして。
結果的には、ベル湖周りの地形が少し変わってしまったことと、何人かの貴族が怪我をした以外には特に大きな被害もないままに、戦いは終わった。
ディオーラが浄化の魔術を連続で発動し続け、瘴気雲が再び集まる前に吹き飛ばして、陽光を差し続ける。
ヨーヨリヨ叔父上とメキメルが、魔術で瘴気の触腕や瘴気塊の攻撃を潰し。
サーダラ兄ぃが【魔眼】の力で動きを鈍らせ。
ワイルズ、ウォルフ、お祖父様、父上の四人で、移動しようとするアマツミカボシの本体を陽光の中に封じ続けた。
そして遂に、黄金の骸骨が崩れ落ちて、最初に現れた黒水晶のような『核』が姿を見せる。
ワイルズはU字を描くように、湖面ギリギリまで下降させたバンちゃんと共に急上昇し、手にした偃月刀で、唯一実体であるらしい黒水晶を刺し貫いた。
そのまま瘴気の雲も聖結界も突き破って、青い炎に包まれたそれと共に、上昇し続ける。
「これで……終わりだ!」
そうして、本物の雲すら超える高さに到達したところで……パキィン、と黒水晶が砕けて、そのまま黒い煙になって消え去った。
第四章はここで終わりですー♪
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