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【コミカライズ4巻発売中】うちの王太子殿下は今日も愚かわいい~婚約破棄ですの? もちろん却下しますけれど、理由は聞いて差し上げますわ~  作者: メアリー=ドゥ
第四章

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殿下の元に赴きますわ。

 

『―――お二人の愛に、祝福を』


 どこか遠くから、そんな女性の声が聞こえたような気がした。

 ディオーラは、体が何か暖かいものに包まれているような感覚の中で、意識を取り戻す。


 ―――え?


 目を開けると、痛みもなく周りの景色が見えた。

 しかも、今までよりも鮮明に色鮮やかに感じられる。


「これ、は……?」

「目覚めましたわ〜」

「ディオーラざまぁ〜〜〜〜ッッ! 良がったでずぅ〜〜〜〜!!」

「ディオーラ!」

「無茶苦茶し過ぎですわ!」


 見えたのは、心配そうなリオノーラ夫人と、涙でぐちゃぐちゃのフェレッテ嬢、ホッとしたような顔のアンナ様、そして怒った顔のオーリオ嬢だった。


 さらに、サーダラ様がフェレッテ嬢の、メキメル様がアンナ様の、ウォルフ殿下がオーリオ嬢の膝の上で、それぞれ意識を失って横たわっている。


「アマツミカボシは、どうなりましたの!?」

「まだ、上王陛下とフロスト陛下、そしてヨーヨリヨ公爵閣下が抑えておられますわ〜」


 リオノーラ夫人が、ディオーラの問いかけに答えてふんわりと笑う。


「ディオーラ様のお体には〜、おそらく精霊と女神様の奇跡が齎されたのですわ〜」

「奇跡……?」

「ええ〜。こちらをどうぞ〜」


 そう言って見せられた手鏡には、紅瞳ではなく……【銀環を備えた紫瞳】を持つ、自分の姿が映っていた。


「瞳が……?」

「ええ〜。おそらくその瞳が〜、本来持って生まれるべきであった〜、ディオーラ様の紫瞳しどうなのですわ〜」


 体を起こすと、ディオーラは魔導陣の外でリオノーラの膝に寝かされていたようだった。


「祝福……」

「はい〜、突然、目から血を流していたディオーラ様の体が光に包まれて〜、その後に〜、お目覚めになられたのです〜」


 目覚める前に聞こえた、誰かの声。

 あれは、女神様のものだったのだろうか。


 しかもディオーラは、目が見えるようになっただけではなかった。

 今まで、少しでも制御を誤れば暴走しかねなかった体の魔力流が穏やかなものになり、完全に自分の意のままになるような感覚がある。


 今なら、そう、上妃陛下の操るような、精密極まる最上級魔術ですら行使出来るような気がした。


「ディ・ディオーラ」

「はい、上妃陛下」


 こちらの様子に気づいたベルベリーチェ上妃陛下の静かな呼びかけに、ディオーラは答える。


 上妃陛下とリーレン妃陛下は、まだ聖結界を維持していた。

 ディオーラが、脇に置かれていた蛇腹刀を手に立ち上がると、上妃陛下が言葉を重ねる。


「ワーワイルズが戻った」


 言われてベル湖の方に目を向けると、上王陛下とフロスト陛下が交互にレイの背中の上で跳ねながら攻撃を繰り返し、アマツミカボシをその場に留めている。


 ヨーヨリヨ閣下は、青竜に乗って彼らの援護に回っていた。


 そしてワイルズは……アマツミカボシに呑まれる前と変わらない様子でバンちゃんの背に乗り、剣でアマツミカボシの放つ瘴気塊を斬り捨てていた。


 ―――殿下……!


 無事だったことに安堵していると、上妃陛下の少し棘のある声が聞こえた。


「ディ・ディオーラ。めよという言いつけを、破ったの?」

「申し訳ありません」

「が、目覚めたようで何よりじゃ。……体調はどうかの?」

生まれてから(・・・・・・)今までで(・・・・)、一番調子が良いですわ」

「ほう」


 労うような口調に変わった上妃陛下に、ディオーラが少し澄ました口調で答えると、お互いに不敵な笑みを交わす。


「では、どうする?」

「もう聖結界の維持は、わたくしがいなくても十分かと思われますので……」


 と、ディオーラは蛇腹刀を持ち上げ、ベル湖の方に向かって足を踏み出した。


「わたくしも、あちらに参戦致しますわ」


※※※


 ワイルズは、お祖父様や父上に斬られるのも意に介さず、こちらに狙いを定めているアマツミカボシの相手をしていた。


 いつの間にかレイデン卿やレオニール殿下もいるし、状況がどうなっているのかは、よく分からない。


 さらに。


 ―――何だ?


 ワイルズは、自分の体に少し違和感を覚えていた。

 何だかバンちゃんとの繋がりも強まっている気がするし、今まで苦手だった魔力の放出がちゃんと出来そうな気がする。


 頭の中にちらつくイメージ……岩で出来たゴーレムみたいな、鎧みたいな何か……が、作れそうな、そんな感じである。

 

 ―――やってみるか?


 斬り捨てたアマツミカボシの瘴気塊が一つ、ベル湖の王城ではない方の沿岸に着弾して、砂埃と岩の塊が宙を舞った。


『―――やってみろ、頑張れよ』


 と、どこか自分に似た声が脳裏に響いたような気がしたが、ワイルズは集中していた。


 宙にある岩の方に、バンちゃんを向かわせる。

 そして砂埃の中に飛び込んだ瞬間に、感覚的に使えそうなその魔術を行使した。


「〝集まれ〟!」


 ワイルズの声に応えて、砂埃と岩が、ワイルズとバンちゃんの方に引き付けられて来る。


『キュイ!?』

「「ワーワイルズ!」」


 驚いたようなバンちゃんの声と、何をしているのか、とこちらの動向に注目しているお祖父様達の声。

 だが、ワイルズがグッと【聖剣の複製レプリカ】を握った手に力を込めると、瘴気を含む岩と砂埃が変質(・・)した。

 大気中の瘴気と剣から放たれる聖気が入り混じるように渦を巻き、岩と砂埃がワイルズとバンちゃんの全身に、液体のように纏わりつく。


 やがて出来上がったのは……バンちゃんを覆う白地に黒の魔導陣が浮かぶ鎧。

 そして、ワイルズを覆う黒地に白い魔導陣が浮かぶ鎧である。


 さらに【聖剣の複製レプリカ】が変化した、槍のような長く黒い柄に、黒い片刃、白い狼の意匠が施された鍔を持つ偃月刀えんげつとう


「おぉ……この魔術、便利だな!」


 何だか、力が増した気がする。


 よく見ると、バンちゃんの翼を覆う鎧のところと偃月刀の狼の瞳には、それぞれ【呪玉】と呼ばれる宝玉が嵌まっていた。

 魔術を扱う際の魔力の媒介となる鉱物で、魔導陣と組み合わせると魔導具になるのである。


 つまりこの鎧と偃月刀は、魔導具なのだ。

 

『キュイ!』


 バンちゃんも、鎧に覆われて力の みなぎりを感じたようだった。

 羽ばたきに合わせて緑の【呪玉】が反応し、それまでにない速度でバンちゃんが飛ぶ。


 ワイルズが切り払わないと避けられなかった瘴気塊も、あっさり避けられるようになった。


「おお、速いなバンちゃん!!」


 ちょっと楽しくなったワイルズは、一度アマツミカボシの方に向かって飛んで貰い、手にした偃月刀で斬りつける。

 手応えがあり、剣の時以上に魔性の瘴気を削り取ったが……同時に、鋭くなった感覚で理解したこともあった。


「お祖父様!」

「何じゃ!」

「コイツ、多分死なない(・・・・)ぞ!? 不死だ!」

「……!?」


 一気に瘴気を削り取った筈なのに、黄金の骸骨を形成する瘴気量がすぐに同じくらいに回復したのである。

 しかもあの黄金の骸骨は、多分、浄化の魔術を使っても、聖剣を使っても倒せないくらいの量の瘴気が凝縮しているのだ。


「何故分かる?」

「直感だ!」


 父上の問いかけにワイルズはそう答えるが、実際そうとしか言えない理解の仕方だった。


「まぁ、分からんでもないの。確かに、これだけ瘴気を放ち、あれだけ我らに斬りつけられて少しの衰えもないのは、おかしな話じゃ」


 納得したようなお祖父様に、父上が苦い顔をする。


「あれは倒せない、ということでしょうか」

「今のままではの」


 その間も、アマツミカボシに対する攻撃の手は二人とも緩めていない。


「完全な不死ではございませんわね。カラクリがございますわ」


 聞き慣れた声が会話に割り込んできたので、ワイルズはそちらに目を向けた。

 

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