殿下が、戻られたようですわ。
「うぉ!? ディオーラ!?」
ワイルズは耳を押さえながら、思わず言い返す。
「い、言われなくても今はシャキッとしてるぞ!? ただ、帰る方法が分からんだけだ!」
まるでサボって寝ているみたいな言い方は、非常に心外である。
ちょっと慌てながら、ワイルズはエイワスに声を掛けた。
「聞こえただろう!? ディオーラが怒ってるから、さっさと戻りたいのだが!?」
すると少し沈黙してから、エイワスは懐かしそうに呟く。
『……女神と魔神は、こうした者をよく好む……変わらぬな、其方は』
「は?」
『其方は『四凶』。その魂を持ちながら、常に強大なる魔性であるよりも、人であることを求め続ける者。そして終に、聖女と魔性の血脈に生まれ落ち、聖魔の力を併せ持つ者』
「お?」
『戻そう、〝愚かしき狼〟ワーワイルズ・アトランテ』
「お前が戻せるのかよ!?」
『是』
「だったらさっさとしろよ!!!」
エイワスを包むフラスコ形の光が徐々に広がって、その分、闇が遠ざかっていく。
『最後に問う。真に力を拒絶するか? その力をもってすれば、〝太古の【魔王】〟天津甕星を降すことも、容易く叶おうというのに』
「何度も言わせるな! いらん!」
『是。が、其方が力を求めぬ時は別の力を与えるよう、命じられている。……其方の伴侶に、紫瞳を齎そう』
「何?」
ディオーラの話だと思ったので、ワイルズは眉根を寄せる。
光が強まって眩しいのが半分くらいだったが、それ以上に、何か大事なことをエイワスが言った気がしたからだ。
「どういう意味だ? ディオーラに何かするなら、お前も斬るぞ!?」
『害を与えるつもりはない。不足の赤瞳を、不足なき銀環の紫瞳に。己の『力』ではなく、伴侶に宿る本来の『力』を取り戻すが、其方の選択の結果なり』
「お前の言い回しは、本当にいちいち難しい! つまり!?」
『伴侶の瞳を癒そう。……そして最後に一つ、其方に、今を生きる者が知る由もなき真実を、伝えよう』
ついに、目も開けてられなくなるくらい光が強まっていく。
『其方の伴侶は、瞳の欠落さえなければ、精霊の名を冠する、女神に祝福されし魂。今の世においては、イ・オーラ、リオン・オーラ、そしてディ・オーラの三者』
ちょっと発音が変だが、全部聞き覚えのある名前だった。
イオーラは、この間会ったライオネル王国のレオニール殿下の妃である。
紫の瞳を持ち、【整魔の指輪】を作ってくれた女性だ。
リオノーラは、ハムナ王国に行った時に共闘した、レイデンの妻である。
ノロノロ喋るが、めちゃくちゃ賢いらしい。
最後の一人は、言わずもがなディオーラ……ワイルズの大事な婚約者だ。
『輪廻の内に、一度真なる紫瞳を持って生まれ落ち、〝精霊の愛し子〟と呼ばれた魂なれば。瞳の枷が失せれば、世界を包む程の幸福を齎す存在へと変わろう』
「ディオーラは別に赤い瞳のままでも、私の世界に目一杯幸福を齎しているが!?」
ワイルズはカチンと来て、眩い光に耐えきれずに目を覆いながら、言い返していた。
「今がダメみたいな言い方をするな! ディオーラは今でも、十分凄いのだ!」
『……』
「お前の言ってることは全然意味が分からんが、なんかディオーラを健康にしてくれて、もっと凄くなるんだな!?」
『是。しかし力は要らぬのではなかったか?』
どこか笑いを含んだようなエイワスに、ワイルズはふん、と鼻を鳴らす。
「ディオーラが健康になるなら、大歓迎だ!」
ワイルズが、後ろに引っ張られるようにエイワスの気配から離れるのを感じて腕を下ろすと、光球に包まれたエイワスの姿が遠ざかって行っていた。
「それに関しては礼を言っておくぞ! ではな!」
ワイルズは、ブンブン、と手を振りながら視界が闇に包まれ……今度は徐々に、何かが近づいてくる。
ベル湖である。
―――おい、ちょっと待て!?
闇の奥からどんどん広がっていく景色の中……ワイルズは、ベル湖に向けて頭から一直線に落下していた。
※※※
「空中に放り出すな〜〜〜〜ッ! バンちゃ〜〜〜〜ん!」
咄嗟に愛竜に呼びかけると、やっぱりバンちゃんは近くに居た。
『キュイ!』
目を向けた先から、こちらを追いかけるように急降下してくるバンちゃんに手を伸ばす。
すれ違い様に手綱を握って、急上昇に合わせてその背に跨った。
「どうなってる!?」
多分、ワイルズが落ちて来たところにいたのは、アマツミカボシである。
見てみると、なんか黄金に染まって、漆黒の骸骨だった時よりもかなり小さくなっている。
そこで、呼びかけられた。
「ワイルズ!」
多分ずっと戦っていたのだろう、お祖父様が霊亀のレイの背中の上から、こちらに向かって【聖剣の複製】を投げて寄越した。
こちらを刺し貫くつもりかと思えるような速度の投擲で、パシッと柄を掴んだワイルズは、もしかしてちょっと怒っているのでは? と冷や汗を垂らす。
「無茶苦茶する上に、いつも遅いのじゃ、このバカ者が!」
「流石にちょっと理不尽では!?」
一応、自力……と言えるかどうかは微妙だが……ちゃんと脱出して来たのに。
「そういえば、ディオーラは!?」
さっき怒鳴られたことを思い出して、遠くにある王城の方に目を凝らすと……何故かリオノーラ嬢がいて、光に包まれたディオーラがその膝の上で横たわっていた。
「ディオーラ!?」
「後にせんか!」
「ワーワイルズ、動けるのであれば手を貸せ!」
お祖父様と父上に同時に言われて、ワイルズは慌ててアマツミカボシの方に目を戻す。
すると、黄金の骸骨もこちらを見ているような気がした。
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