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廃嫡です、この愚物が!!


 時間は少し遡る。


「上妃陛下……? その、もう一度仰っていただいてもよろしいですか……?」


 ワイルズが呼び出された上妃ベルベリーチェの私宮には、祖父である上王陛下、父である国王陛下、母である妃陛下までもが揃っていた。


 祖母は上王陛下の側妃なので、ワイルズとベルベリーチェに血の繋がりはない。

 別にそれで可愛がられなかったということはないのだが、昔から怒るととんでもなく怖い人だった。


 そして今、ベルベリーチェは明らかに怒っている。

 とんでもない威圧感に晒されて、ワイルズはダラダラと冷や汗を流していた。


「今のままならお前の婚約を解消する、と言ったのです。頭だけでなく耳まで悪いのですか? ワーワイルズ」


 扇を広げ、その紫の瞳を冷たく細めたベルベリーチェは、歴代最高と言われる魔力と魔術の腕を持つ女傑である。


 最高権力者である父王すら、彼女が口を開けば滅多なことでは逆らえない実質的な支配者だ。

 しかも大概、彼女の言葉は間違っていない。


「先日、お前はディ・ディオーラを危険に晒し、あまつさえあの子よりも、隣国のバカ王女の身の安全を優先したと聞いています。そんな阿呆に、将来の王妃である彼女を任せれると思っているの?」

「いや、ですが……あの時は、スラーア、様を守らねば、国際問題に……」

「我が国が、他国の皇女一人守れなかったところで揺るぐとでも?」


 ーーーいや、そういう問題ではないのでは!?


 ワイルズが、ベルベリーチェの言葉に顔を引き攣らせると、彼女はますます不快そうに眉をひそめる。


「資料に目を通しましたが、成績を含む数々の物事で、未だディ・ディオーラに勝るところもない始末。それどころか尻拭いにばかり奔走させる、恥知らずの極み。あの子が体が弱いからと、王太子妃教育や公務の見直しを提言したと聞きましたが……」


 そこで言葉を切ったベルベリーチェは、さらに身に纏う圧を増す。




「ーーーお前が、余計な心労を掛けるのも原因では?」




 ワイルズは、全く反論出来なかった。

 ディオーラは、何か迷惑を掛けると、拗ねたり意地悪言ったりするけど、最後は笑って許してくれる。


 それに甘えていたと言われれば、その通りではある気がした。


「あの、でも、ディオーラは私のことが好きですから、きっとそれを迷惑とは……」

「……ワーワイルズ?」

「はぃッ!」


 地獄の底から響くような声に、ワイルズはビシッと背筋を伸ばす。


「女の好意にあぐらをかき、相手に負担を掛けることを反省もせずに甘え倒すようなドグサレは、この国の王足り得ません。お前は廃嫡しましょう」

「上妃陛下……そ、それが陛下の御意志なら受け入れますが」

「ますが?」

「ディオーラと結婚出来るなら、です。他のことはどうでもいいっていうか……」


 と、目を泳がせるワイルズに、上妃陛下以外の三人が、深いため息を吐く。


 ーーーなんだ!? 何か間違ったか!?


「我が孫ながら……」

「迂闊というか、この後に及んでバカ過ぎるというか」

「誰に似たのかしら……大公かしらね……」

「この抜け具合は、どう見ても貴方の血でしてよ、バロバロッサ」


 上王陛下、国王陛下、妃陛下の順に口にした言葉に、ベルベリーチェがパチン、と扇を閉じて上王陛下を睨みつける。

 妻に死ぬほど弱い上王陛下は、慌てて目を逸らした。


 なるほど、白髪混じりで威厳ある風な彼も、ベルベリーチェの前では非常に情けないようだ。


 ーーーディオーラと一緒にいる時の私のようだな。


 と、その姿を見てワイルズは思った。


 ちなみに大公閣下は、気が弱く政務に関しては凡才と有名な、ベルベリーチェと上王バロバロッサの実子で、国王陛下の異母弟である。


 ベルベリーチェは、上王陛下の態度とワイルズの発言で怒りの臨界点を過ぎたのか、ニッコリと笑って告げた。


王妃は(・・・)ディ(・・)ディオーラ(・・・・・)です(・・)。相手が誰であっても変わりませんし、王弟子であるキーメキメルなら、お前よりよほど偉大な王となるでしょう」

「じ、上妃陛下!? それは横暴です!!」


 王太子でなくなるのはどうでもいいとして、ディオーラを年下の従兄弟に取られるのは我慢できなかった。

 しかし、言い返してしまったことで、ついにベルベリーチェの額にハッキリと青筋が浮かぶ。


「お黙りなさいこの愚物がッ!! どこが横暴ですか!! 王たる決意もなく、婚約者に負け続けてもヘラヘラしているような根性甘ったれたお前などに、ディ・ディオーラは勿体無いのです!! 廃嫡されたくなければ、その腑抜けた(ツラ)と性根を叩き直して出直しなさい!! 学校卒業までに何らかの改善が見られなければ、その時こそ廃嫡と心得よ!!」


 ブン! とベルベリーチェが扇を振ると、突風が吹き荒れると同時に客間のドアが開き。


()ねッ!」

「うどぁああああああああッ!?」


 吹き飛ばされたワイルズは、そのまま吹き荒れる風に転がされて、上妃の私宮から外に叩き出された。


※※※


「……ベルベリーチェ様。流石に言い過ぎでは?」


 ワイルズが転げ出された後。

 バタン! と閉まったドアに目を向けて、国王フロフロストはため息を吐く。


「我が息子が甘ったれなのは事実ですが、アレはアレで優秀な面もありますよ?」


 実際、ディ・ディオーラは傷ひとつ負わずに戻っているし、賊どもは大半がワイルズによって首を刎ねられていた。

 ベルベリーチェは、片眉を跳ね上げて優秀な現王を見据える。


「陛下。貴方の時も言いましたが、心構えのない者が王位につくなど、本人のみならず民の不幸を招くのです。その程度のことは分かるでしょう?」

「ええ、もちろん」

「いつまでもアレでは困るのです。いえ、アレでも良いですが、アレなりの何かがないと、屋台骨が揺るぐのですよ」

「変わりますでしょうか?」


 次に問いかけてきた王妃に、ベルベリーチェは鼻を鳴らす。

 別に本当にワーワイルズを無能だとも、可愛くないとも思っているわけではないけれど。


 情けない、とは心の底から思っている。


「変わるかどうかは、今後のアレ次第でしょう。ねぇ、バロバロッサ」

「そうさのう……」


 上王たる夫は、顎ヒゲを撫でながらニヤリと表情を緩める。


「まぁ、反論するだけの気骨はあるバカ者じゃ。後はベルのヒントに気づくかどうか、だけと思うがのう?」


 その言葉に、大きく息を吸い込んだベルベリーチェは、眉根を寄せて吐き出した。



「ーーー十数年生きて、その答えに気づかないから、愚物なのです」


 

愚物、バカ者と散々な言われようですが、まぁ、大体ワイルズの天然愚か発言が原因ですね。


次回は守銭奴聖女、その次は幼女ディオーラ登場予定です!


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