婚約解消……ですの?
「完敗だ」
学期末試験を終えた後、イルフィール様は苦笑しながらそのように仰った。
隣国に協力して叛逆を企んだ者たちは拘束。
自国のみならず、こちらの国の王太子と婚約者も狙ったとして、この件に関わった皇国の貴族たちも失脚したらしい。
首謀者が、一族郎党処刑の憂き目に遭った貴族たちの派閥は瓦解。
しかしイルフィール様は、その一族の中の一人の令嬢の助命嘆願を行った。
「……私の命が狙われていると教えてくれたのは、彼女なんだ」
そう告げたイルフィール様は、悲しそうな目をしていた。
「魔力もあり、誇り高い女性だよ。でも、平民になってしまうし、罪人の一族だからね。俺の妃にすることは出来ないんだけど」
きっとイルフィール様は、その方に心を惹かれているのだろう。
だから、ディオーラは告げた。
「あら、では丁度いいですわね」
「は?」
「愚かですわねぇ、イルフィール殿下。翻意の心配もなく、わたくしに迫った理由も解消できる優良物件ではございませんの」
ディオーラは、今回の件で敵を一網打尽にした功績を盾に、ベルベリーチェ上妃陛下に奏上した。
数日後には、そのご令嬢はホワホワール様のご実家の養子として認められ、イルフィール様の婚約者としてのお膳立てが整っていた。
「……何から何まで……」
「最初からご相談なさるべきでしたわねぇ」
コロコロとディオーラが笑うと、イルフィール様は深く頭を下げた。
その横では。
「まぁ!!! 王弟殿下の御子息ですの!? なんてワタクシ好みのお顔立ち! ワイルズ殿下よりもカッコいいですわ!!」
「ふ、不敬だぞ!? 本人が目の前にいるんだぞ!?」
王弟である大公様のご子息、ワイルズ殿下の従兄弟であるメキメル様に一目惚れしたスラーア様が、押せ押せで迫っていた。
ちなみにメキメル様、12歳になられたばかりなので、スラーア様とは4つ歳が離れているのですけれど。
魔法が少々苦手なワイルズ殿下と違い、剣はあまり扱いが上手くないものの天才と称される魔導師であらせられます。
背丈も今で殿下より少し低い程度なので、長身美麗な青年に成長することでしょう。
「ふん。中々美しい女だ。胸の大きさもオレ好みだから、成人したら嫁にしてやってもいいぞ」
「キャー!! 俺様!! 俺様ですわ!! ますます惚れますわー!!」
スラーア様の顎をクイッとして、肉食獣のような笑みを浮かべるメキメル様に、彼女の目は最早ハートが乱れ飛び状態になってしまっている。
「……メキメル! お、おま、お前その歳で顎クイ……私だってディオーラにまだしたことないのに!!」
「何だ、顔だけ王太子殿下はヘタレだったのか。まぁ知っていたが」
「誰が顔だけだぁあああああ!! 不敬で処するぞこの野郎!!」
「出来るもんならやってみろ、ヘタレ」
ギャイギャイと騒ぐ皆様を、あらあら、と見回して。
「丸く収まりそうで、よろしいですわねぇ」
「本当に。私も縁付けた彼女を守れるよう、一から鍛え直そうと思う。ワイルズ! 少し手合わせ願えないか!?」
数日後には帰国予定のイルフィール様は、晴れやかな笑顔で手を挙げると、殿下を引っ張って訓練所に行ってしまった。
そして、後日。
上妃陛下に呼び出されたワイルズ殿下は、その日からどんよりと沈んだ顔になり、政務が滞っているという連絡が彼の側付きの男性から伝えられる。
「あらあら、何事ですの?」
叛逆の事後処理で自分も政務に追われていたディオーラが問いかけると、返ってきたのは衝撃的な言葉だった。
「ベルベリーチェ上妃陛下が、『今のままならばディオーラ様との婚約を解消させる』とお伝えになったようでございます」
「…………え?」
それはディオーラにとっても、青天の霹靂だった。
一体何事!? という感じで引いたので、出来れば早く更新したいところです。
連載が多く、お待たせしてしまい誠に申し訳ございません。
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