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【コミカライズ4巻発売中】うちの王太子殿下は今日も愚かわいい~婚約破棄ですの? もちろん却下しますけれど、理由は聞いて差し上げますわ~  作者: メアリー=ドゥ
第三章

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生まれ変わったようですわ。


 光の爆発が収まって目を開いたワイルズは、空に浮かぶそれを見た。


 大きく広げた翼を包むのは、先端が白く根元に近づくにつれて赤い炎の羽毛。

 それが、キラキラと金色の火の粉を散らしており、鶏冠トサカは青く染まって優美に靡いている。


 毛並みの下にある肌は黒く、頭と胴体は朱雀の時のまま、首は竜のように長く、尾は大きく広がる孔雀クジャクのように極彩色の色合いをしていた。


「チ……チュチェ?」


 ワイルズがそう呼びかけつつも確信できなかったのは、その大きさのせいだった。

 未だ天を舞う青龍程ではないが、7メートル程の体躯。


 美しく巨大な炎の鳥が、そこに居た。


「兄上達〜〜〜〜〜ッ! 無事か〜〜〜〜!?」


 そこで背後から声が聞こえ、振り向くとウォルフが三叉槍トライデントを手に崖を駆け上がってくるのが見える。


「お前、残してきた者たちの護衛はどうしたのだ!?」

「ライオネルの兵士たちも含めて、一旦船に全員避難させた! この台地、生きてる! 動き出してるから避難しないとヤバいかと思って言いに来た!」


 大地が生きている。

 それ自体は、ワイルズも気づいていた。


 だが。


「動いてるのか!?」

「今、海に向かってる!」


 そう口にしたウォルフは、そのまま天を舞う青龍を見上げて、気さくに手を挙げた。


応龍(・・)、久しぶりだな! オレのこと覚えてるか!?」


「「「応龍?」」」


 ワイルズと、レオニール殿下と、サーダラ兄ぃの声がハモる。


「あれは、青龍ではないのですか?」

「青龍はあんなに大きくないですよ! あれは応龍です!」


 四象ししょうと呼ばれる魔法生物達は、生息地域こそ狭い希少生物だが、それなりに数がいる。


 だが、その上位種であるというモノらは、いっぱいは居ない。

 麒麟も、王を選ぶ時に現れる、という時以外は、ほぼ目撃情報がないのだ。


 サーダラ兄ぃが、目を見開いて地面と、寝そべる麒麟と、天空と、と忙しなく目を走らせ、興奮した様子で口元を覆う。


「麒麟と、応龍……なら、この大地は……霊亀れいき……!」


 レイキ。


 その名前を、ワイルズは見聞きしたことがある気がしたが、咄嗟に思い出せない。

 ウォルフも同じらしく、首を傾げた。


「レイキ、というのは?」

四霊しれいの一種だ! 歳経た玄武げんぶと呼ばれる亀に似た魔法生物の上位種……! この場に集っているのは、四象ではなく、四霊だったのだ!」


 興奮した様子で叫んだサーダラ兄ぃは、ファイアルビーの瞳でこちらを見下ろしている炎の鳥を食い入るように見つめる。


「朱雀は、仔を産まないと言われている。寿命が尽きれば灰になって崩れ落ち、その中から新たな個体が生まれるのだそうだ……そして稀に、何らかの要因で上位種となる個体がいると言われていた……そう、そういうことだ。そういうことなんだ!」

「ど、どういう事なのだ?」


 あまりに興奮し過ぎているサーダラ兄ぃにちょっと引き気味になりながらワイルズが問いかけると、彼はバッとこちらに目を向けた。


「分からないか!? 麒麟と同じなんだ!」


 サーダラ兄ぃに肩を掴まれて、ワイルズはブンブンと揺さぶられる。


「チュチェは、鳳凰ほうおうに成ったんだ!!!!」


「ほ? う? おぉ!?」

「そうだ!」


 グラングランと揺れながらワイルズが言うと、そのままサーダラ兄ぃにグッと押し出される。


「麒麟はいつ現れる!? 応龍だけは目撃情報が多いのに、霊亀や鳳凰の目撃情報がほぼないのは何でだ!? その秘密が、今ここに全部揃っているんだ!」


 サーダラ兄ぃが魔獣を語る時特有の早口で、一気にそう口にする。


「霊亀は大地に擬態している、というか、あまりにも巨大で歳経たことで甲羅の上が苔で覆われるどころか樹林になっているんだ! だから見当たらなかった! 『現れては消える島』の昔話を聞いたことがあるだろう! あれはきっと霊亀の話が元になっているんだ! そして、鳳凰は!」


 と、サーダラ兄ぃがチュチェ(?)を見上げて、両手の拳を握り締める。



「鳳凰もまた、王を選ぶ(・・・・)という伝承のある、朱雀の上位種だ!」



 言われて、ワイルズは灰を両手で受けた姿勢のままのアガペロと顔を見合わせた。

 そこからチラリと鳳凰を見上げると、彼女……多分チュチェならそう……と、目が合う。


「……チュチェ?」


 改めてそう呼びかけると、鳳凰はその声に反応したようなタイミングで、ふい、とアガペロの方を見た。


 そして、ゆっくりと舞い降りると、彼の頬に顔を寄せて嘴の先をスリ、と擦り合わせてから。

 足を折ってワイルズの前に座り、その巨大な額が胸元に押し当てられる。


「わぶっ……!」


 炎の毛並みは、やっぱり熱くはなかった。

 そのままやっぱりゆっくりと頭を離したチュチェは、また大きく翼を広げて、『フュゥルゥーーー』と鳴き声を上げる。


 そして敬燐けいりんの光が、ワイルズに降り注いだ。


「おめでとうございます、ワイルズ殿下」

「お、おめ?」


 呆然としていたワイルズは、そう声を掛けられてレオニール殿下の顔を見る。


 彼は、まるで自分のことのように嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 ちょうど、麒麟にレオニール殿下が選ばれた時のように、逆に背中をバシン! と叩かれる。


「ワイルズ殿下もまた……瑞獣ずいじゅうに、王として選ばれたのですよ」

 

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