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【コミカライズ4巻発売中】うちの王太子殿下は今日も愚かわいい~婚約破棄ですの? もちろん却下しますけれど、理由は聞いて差し上げますわ~  作者: メアリー=ドゥ
第三章

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王のお話しをなさるそうですわ。【後編】


『自分がなりたい王と、麒麟が選ぶ王の姿が合ってるかを確かめに来たんですね』


 ワイルズがそう伝えると、レオニール殿下は笑みを深めて頷いた。


「そうです」

「レオニール殿下は、どのような王になりたいのです?」


 最近、『王って何?』ということを考える機会が増えていたこともあり、ワイルズはそう尋ねた。


 民や側近、父上らの話を聞くことはあっても、同じ立場の人間からそれを聞ける機会はそうそうない。

 イルフィールが留学してきたり旅行に行った時は、そういうことはあんまり考えていなかったのだ。


 だから、レオニール殿下がどう考えているのかに興味が湧いた。

 けれど、彼の返答はワイルズにとってかなり意外なものだった。



「そうですね……私は〝凡俗の王〟になりたいですね」



「ぼ、ぼん?」

「なりたい、というか、これから先は、そうなることが一番良いのではないかと感じている、ですかね」


 ワイルズが戸惑っているのに気づいたのか、レオニール殿下がそう言い添える。


「私の周りには、優れた人物がたくさん居ます。私より賢く、私より物が見えていて、私よりも王に向いているのではないかと思う人物が、本当にたくさん居るのですよ」

「あー……その気持ちは何となく分かります、ね」


 と、ワイルズは口を挟まずに黙っているサーダラ兄ぃに、チラリと目を向ける。


 魔獣が大好きなところは同じだが、自分よりも賢く、落ち着いている人だ。

 弟のウォルフは海が大好きで暇があれば浜辺か船の上にいるので、そんなに王になる器っぽくはないが、ヨーヨリヨ叔父上の息子であるメキメルも、性格はともかく自分よりも頭が良いのは間違いない。


 血は少し遠いが、ディオーラだって、ワイルズよりは遥かに女王に向いていそうだ。


 その全員が、王位継承権を持っている。

 ワイルズがそんな風に思っていると、レオニール殿下は苦笑しながら、話を続ける。


「まぁ、そんな私の周りでも一番王に向いていそうな相手には、先ほどのワイルズ殿下同様『志が低い』と言われそうではありますが、それでも私は〝凡俗の王〟でありたいのです」

「どんな理由で?」


 馬鹿にされるよりは、敬われたり認められる方が嬉しいのではなかろうかと、親しい人間にからかわれることの多いワイルズは思ったのだが。


 どうやら、レオニール殿下が言いたいのは、そういうことではないみたいだった。


「周りに賢い者が多いということは、その話に耳を傾ける方が良い方向に向かうかも、ということです。また、民が望む生活は民が一番よく知っているのですから、その話に耳を傾けるのは大切なことでしょう。勿論、国を潰さない為にあえて民の望みを退けることもあるかとは思います。ですが、全てが皆の思い通りになる訳ではなくとも、平和の中であればそのような王も、少しずつ国を良くすることは出来るかと思うのです」

「……凡俗、というより、それは良い王に思えますが。確かに王っぽくはない、かもしれないですけど」


 多分、レオニール殿下がやろうとしているのは、アガペロに聞いた昔話の中の、お祖父様のようなことなのだろう。


 アガペロのように魔獣狩りギルドを必要とする人がいるなら、上妃陛下の話を聞いてそれを作ろう、というような『王の姿』が、レオニール殿下の言う〝凡俗の王〟という話だ。

 お祖父様のように人を引っ張って巻き込んでいくような王とは確かに違うかも知れないが、やり方がそんなに劣っているとは思えない。


「そう、王らしくはないかなと思います。ですが私は、王に本当に必要な資質は、二つしかないとも思っています」

「たった二つですか?」

「ええ」


 レオニール殿下は、二本指を立ててパチパチ、と閉じる。


「その二つは、『最後にどうするかを決めること』と『決めたことに責任を負うこと』です」


 少しおどけて見せた仕草だが、彼の目は真剣だった。


「皆を纏めるというのは、多数決によって決めるのが、もしかしたら一番良いのかも知れません。ですが、最後にどうするかを決める者、が、皆の意見を取り入れて動けば、出来上がるものは然程違わないでしょう。一人で考えるか、皆と考えるか、票によって決めるか、話を聞いた者が決めるか、その程度の違いかと思うのですよ」


 レオニール殿下は手を下ろすと、小さく首を傾げる。


「そういう意味では、『麒麟に選ばれなくても王にはなれる』と思っておられる豪胆なワイルズ殿下は、十分に王に向いていると思いますよ。『責任を別の何かに預ける』ことをしとしない、素晴らしい心意気かと」

「そ、そうですか?」


 全然深く考えていなかったが、褒められて悪い気はしないので、ワイルズはにへらと笑う。

 

 ―――そういえば、アガペロにも似たようなことを言われたな。


『玉座をちょっと重いと思う程度なら、王に向いている』だったか何だか。

 もしかしたら皆、鈍感な方が王に向いていると感じるのかもしれない、とワイルズは思った。


「レオニール殿下、そしてワイルズ。お話が終わったようなので、発言しても?」


 サーダラ兄ぃの言葉に、レオニール殿下が頷く。


「ああ、話し込んでしまって申し訳ない。何か?」

「ええ……このままだと、また日が暮れてしまいそうなので」


 と、サーダラ兄ぃが『魔獣の大樹林』を指し示す。

 どう見ても、明らかにウズウズしていた。


「ーーーそろそろ、麒麟を探しに行きませんか?」

 

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