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【コミカライズ4巻発売中】うちの王太子殿下は今日も愚かわいい~婚約破棄ですの? もちろん却下しますけれど、理由は聞いて差し上げますわ~  作者: メアリー=ドゥ
第三章

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麒麟を求めておられるそうですわ。


「少し前に、我が国の東部辺境騎士団と、バルザム帝国の南部警備隊から同じような報告が上がっているのを聞いて、調査を行っていたんですよ」


 夜中ではあるが、ワイルズはレオニール殿下らと、焚き火を囲んで話をしていた。

 サーダラ兄ぃは何か気になることがあるようで、先ほど魔獣が大量に居た場所で調査をしている。


 アガペロも、やっぱりチュチェの具合があんまり良くないらしいので、天幕に下がらせていた。


「魔獣達が、本来の生息域ではない場所で見かける事例が多くなり、大型のモノまで密集して移動している、という話だったのです」

「それで、レオニール殿下自ら?」

「一応、他にも理由はありまして」


 レオニール殿下は、少々苦笑しながら軽く頬を掻く。


「麒麟を目撃した、という情報があり、興味が湧いたので。それで、調査隊を編成するついでに同行することにしたんです。ワイルズ殿下は、麒麟について話を聞いたことは?」

「ある!」


 麒麟は魔獣というよりは、瑞獣ずいじゅうであると言われている。


 魔獣や朱雀のチュチェ同様に、獣にはない特別な力を持っているらしいが、優しい生き物で、優れた王のいる時代に現れるという言い伝えがあるのだ。


「わざわざ見に来たということは、もしやレオニール殿下も生き物が好きなのか!? ……ん、ですか?」


 ワイルズは、同好の士かと身を乗り出した。


 ただ、うっかり敬語を忘れてしまったので付け加えておく。

 レオニール殿下は、フェンジェフ皇国のイルフィールと違って、そこまで親しい付き合いがあるわけではない。


 それに、ディオーラの腕輪を用意してくれた恩人の一人でもあるので、あまり粗相をするわけにもいかない、という程度の気持ちは、ワイルズにもあった。


 ーーーマズかったかな? 


 そう思いつつ、チラッとレオニール殿下の顔色を気にしたが、彼は特に気分を害した様子はないようだった。

 ごく普通に、ワイルズの質問に答えてくれる。


「好き、というのとは、少し違いますが、嫌いではないですよ。ワイルズ殿下はお好きなのですね」


 何だか大人の回答を貰った感じだが、ワイルズはその言葉にコクコクと頷いた。


「麒麟の姿を見たのは初めてだったが、美しかったな!」

「見た? 麒麟をですか?」


 レオニール殿下が軽く目を見開くのに、ワイルズは大きく頷く。


「さっき、レオニール殿下が獅子王の咆哮で散らした、魔獣の群れの中にいたんですよ!」


 彼が来る前に起こった事を話すと、彼は真剣な表情で顎を撫でる。


「……魔獣が大樹林の中で妙な移動をしていたのは、それが理由なのか……?」

「確かに、付き従っているようには見えましたね! ウォルフはどうだ?」

「兄上の言う通りに見えましたね! レオニール殿下は、何か気になることでも?」

「ああ、いや。……瑞獣が魔獣を従える、というところに少し違和感を覚えただけですよ」

「何故です?」


 ワイルズはキョトンとした。


「麒麟が優れた王の時代に現れる特別な生き物なら、別に魔獣を従えるような力を持っていてもおかしくないのでは」

「だが、魔獣は人を襲います。麒麟は血を苦手とするじんの存在であるという話もありますし、魔獣のような存在は嫌いそうではないですか?」


 レオニール殿下の疑問に、ワイルズはますます首を傾げた。



「そんなもの、王も同じでは?」



「は?」


 逆にポカンとするレオニール殿下に、ワイルズはさらに言葉を重ねる。


「歴代の王の中にも、戦争が好きな王もいれば、嫌いな王もいますし。でも、国に兵士はいるし体は鍛えるでしょう」

「まぁ、それはそうですが」

「戦争は嫌いでも、兵士がいないと民は守れないのでは? ……あれ、少し違うか?」


 言っていることが少しズレている気がして、ワイルズは首を傾げた。


 王に関わる生き物、ということで、頂点に立っていることに疑問を持たなかったが、よく考えたら麒麟は獣である。

 人間の王とは少し違うのかもしれない、と考え直そうとしたが。


「その視点はなかったな……なるほど」


 何故だか、レオニール殿下は感心したようにワイルズの言葉に頷いていた。


「つまり麒麟も、何か守るものがあるから魔獣を侍らせている、と」

「え?」

「どうなさいました?」

「いや、守る為、ですか?」

「仁の王が、兵を従えているのなら、守る為。そう仰ったのはワイルズ殿下ですよ? 民ではなくとも、何か守るものがあると考えたのですが」

「う、うむ、確かに」


 確かにそうだが、そこまで深く考えての発言ではなかったので、少し戸惑いつつも、話を合わせておいた。


 レオニール殿下はどうやら、ディオーラのように頭の回る人なのだろう。

 なんか、彼女を相手にしている時と同じような感じの気持ちである。


「しかし、そうなると何を守っているんだ?」


 と、ワイルズが首を傾げたところで、サーダラ兄ぃが戻ってくる。


「サーダラ兄ぃ! 調べ物は終わったのか!?」

「終わったよ。そしてレオニール殿下、おそらく侍従の方々が到着なさったようですが、どうなさいます?」

「ああ、行きましょう。少しの間、近くに滞在させてもらっても?」

「結界の中に入っていただいて大丈夫ですよ。兵士に話は通してありますので」

「ご厚意に感謝します」


 レオニール殿下が頷いて立ち上がると、入れ替わりにサーダラ兄ぃが焚き火の側に座る。


「それで、何を調べていたんだ?」


 ワイルズがサーダラ兄ぃに尋ねると、彼はその魔眼を三日月型に細めて、嬉しそうに質問に答えた。


「麒麟が何でここに来たのか、気になってね。麒麟は鼻先を地面に擦り付けていただろう? 多分、その理由が分かった」

「理由? 麒麟は草を食べる生き物だったりしたのか?」

「草食かどうかは分からないけど、理由はこれだよ」


 と、サーダラ兄ぃは自分の指先を擦る。

 そこから、結晶化した何かが、焚き火の揺らめきを反射してキラキラと地面にこぼれ落ちた。


「……エリュシータ草の粉末。多分麒麟は、これを求めてきたんだ」

 

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