自信がおありのようですわね?
「おーっほっほっほ! ディオーラ様、多少は成長しているようですけれど、随分とまぁお可愛らしい姿でございますこと!」
王城でお出迎えの為に会って早々、スラーア王女殿下はそのような事をのたまった。
目線がこちらの胸元に向いている。
内心ビキリと青筋を立てたディオーラは、スラーア様のお姿を眺めた。
豪奢な印象の美人で、金髪碧眼に縦ロール、そしてばいんぼいんと弾け飛ぶようなスタイルをなさっておられる。
身を包むドレスも素晴らしく派手だけれどよく似合っていた。
昔お茶会で多少顔を合わせた程度である為、こうして直接話すのはほぼ初めてだけれど、ワイルズ殿下を狙っているという情報から、嫌味だと理解して臨戦態勢に入った。
「お久しぶりでございます、スラーア殿下。今のドレスもお似合いですけれど、もっと慎ましやかな衣装を纏えばさらに素晴らしいと思いますわ。ご自身がとても魅惑的でございますもの」
ーーー下品ではしたない体と格好ですこと。
という意味合いの言葉を、扇を顔の前に広げたままオブラートに包んで申し上げると、スラーア殿下は小馬鹿にしたように鼻を鳴らして、こちらもバラリと派手な扇を開く。
「幼い御容姿に似合わず、しっかりなさっておられますわね!」
「あらあら、お褒めに預かり光栄ですわ。スラーア様もお歳以上に大人びておられますわね」
ーーーガキみたいな体して、調子に乗ってんじゃありませんわよ!
ーーー年増娼婦みたいな格好で、それでも王女ですの?
と、バッチバチに火花を散らしていると、横でワイルズ殿下が引き攣り気味になっており、イルフィール殿下は興味深そうにそれを眺めている。
お二人は同腹のご兄妹であらせられるはずなのだけれど、イルフィール様はスラーア様と同色なのは碧眼の瞳だけで、浅黒く日に焼けた肌に赤い御髪を備えておられた。
さらに着痩せして線が細く見えるワイルズ殿下と違い、広い肩幅と厚い胸板を備えたスタイルの良さ。
熊と呼ばれるほど大柄ではなく、洗練された印象の殿方だ。
聞くところによると、イルフィール様は文武に優れ、現在は王下騎士団にも属しておられるとのことで、仕草に少し粗野さがあるものの、全体的には『そこが良い』と言われそうな、貴公子然とした雰囲気を持ち合わせておられた。
「ワイルズ殿下? 殿下はこのような幼いお可愛らしさがお好みですの?」
「へ? あ、そういうわけでは……」
「仰る通りですわ、スラーア様。殿下は女性をご覧になる時、豊かな胸元よりも慎ましやかな胸元に惹かれることが多いのですの」
「おいディオーラ!?」
まさか自分の性癖がバレていると思っていなかったらしい殿下が、青ざめる。
ーーー本当に愚かですこと。
ワイルズ殿下が、小柄で愛らしく、特に頭の小さな女性に目を引かれるのはもちろんのこと。
金髪と黒髪なら黒髪が、瞳のお色は赤に近い方が。
肌が白と深いお色なら白い方が。
それぞれ女性の特徴として好ましいと感じておられるのは、視線を追えば明白だった。
ーーーまぁ、全部わたくしの特徴なのですけれど。
全体的にスリム系統のスタイルの良さと、個人的に装飾華美な服装が好ましくないこと、それなりに態度が大きいことから、スラリとした美人だと思われることの多いディオーラだけれど。
実は背丈で言うとかなり小さく、服装をそれなりにすると『愛らしい』と言われる系統の外見なのである。
ワイルズ殿下は幼女趣味というわけではなく、単純にディオーラのことが好き過ぎるので、同じような特徴を持つ女性に目を引かれる程度のことは、大目に見ているだけだった。
チリ、と目の奥に苛立ちを滲ませたスラーア様に、ニッコリと微笑みを返すと。
「ははは、やはりディオーラ嬢は魅力的な女性だな。貴女がこの国で成した業績の数々は、こちらの国でも聞き及んでいるよ」
と、会話がひと段落したのを見て取ったのか、スルリとイルフィール様が口を挟む。
「恐縮ですわ」
「特に魔術関係の業績は、私にとってはとても魅力的でね。是非留学の間、色々と語り合いたいと思っている」
「おい、イルフィール」
イルフィール様がこちらの手を取ろうと歩を進めると、ワイルズ殿下がムッとした顔で間に体を挟もうとして。
「ワイルズ殿下! ワタクシ、この宮廷のお庭がとっても見たいですわ! 少々お付き合い下さいませんこと!?」
「え? お? ちょ、スラーア嬢!?」
と、スラーア様が横から腕を取り、強引にワイルズ殿下を引っ張っていこうとする。
王族としてはとんでもない行動だけれど。
ーーーあらあら、そういうことですの?
イルフィール様がそれを嗜めないのを見て、ディオーラは口元を扇で隠したまま笑みを消し、小さく目を細める。
ーーー隣国は、最近、魔術の力が弱まっている、と。
そして、先ほどのイルフィール様の発言。
騒ぐスラーア様と殿下をひとまず放っておいて、チラリと彼を横目に見やると。
食えない笑顔のイルフィール様が、視線の意味に気づいて笑みを深めた。
「……わたくし、殿下の婚約者なので。スラーア様には少々、慎ましくしていただきたいところですわね?」
「うちは魔術関係は弱いけれど、魔鉱や魔導具関係の産業は盛んでね。魔術に優れるディオーラ嬢にとっても、そうした技術は有用だ。それにうちの産出するものが欲しいこちらの国にとっても、悪い話ではないんじゃないかな?」
ーーー彼の狙いは、ディオーラらしい。
暗に婚約者の交換と、結界関連の窮状を打破する為に自国へ嫁ぐことを打診されたディオーラは。
扇を下げて、ニッコリと笑みを浮かべる。
「政に関することをお決めになるのは、陛下やお父様ですわ。浅慮なわたくしではなく」
「そうか。色良い返事が貰えると私は思っているけれど」
ーーーイルフィール様がわたくしを欲するのは、恋情じゃございませんわね。
彼は、為政者の目をしている。
国益の為に、魔力の高いディオーラが欲しいのだろう。
「わたくし、騒がしいのはあまり好ましくありませんの。隣国にも、そうした女性が多いのでしょうね」
自国内のことすら御せぬ者が、ディオーラを欲しいなどと烏滸がましい。
「もう少しで静かになるだろう。その後に、魅力的な婚約者を手にしたいと思っているよ」
ただ、放置しているだけで、平定しようと思えばすぐに出来る、と。
「イルフィール様は大変魅力的な方ですわ。きっと引く手数多でしょう」
「私としては、白魚のような御手を取りたいね。今は少し色の淡い玉を抱えておられるようだが」
自分の方が男として魅力的だと。
その自信は買うけれど。
「イルフィール様は、審美眼がおありのようで素晴らしいことですわ」
ーーー本当に、愚かわいいわたくしの殿下に敵うのかどうか。
じっくりと、お手並み拝見と参りましょう。
腹黒タイプの王子様ご登場です。
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