あら、横恋慕ですの?
「オーリオ様。どうなさいましたの?」
学校での優雅な茶会の時間。
『懐き薬婚約破棄事件』で、フェレッテ様への注意を任せたオーリオ・ザッカーマ公爵令嬢の悩ましげな様子に、ディオーラが問いかけると。
「隣国から、従兄弟たちの短期留学がありますの……」
と、オーリオ様は随分と嫌そうに答えた。
「まぁ。イルフィール殿下とスラーア殿下が?」
ディオーラは頭の中にある、隣国の貴族年鑑を参照した。
イルフィール第一王子と、スラーア王女は、年子の兄妹で貴族学校に通う年齢だ。
「ええ。そろそろ正式に通達されるはずですわ。最近あちらは、少々きな臭いのです」
それはディオーラも知り及ぶところだった。
なんでも最近、魔術師や力の強い聖職の数が減っており、国を守る防御結界が弱まっている影響で、魔物が多く現れるらしい。
それが、『側妃の産んだ第一王子を王太子に』と望む王室のせいだ、という気運が高まっているらしい。
現王妃の息子である第二王子勢力の策略っぽいけれど、証拠はないという。
「私の母同様、叔母である側妃様は元々伯爵令嬢で、貴族筆頭侯爵の後ろ盾がある王妃様に比べて立場が弱いので」
こちらの公爵家に嫁いだオーリオの母も心を痛めているらしい。
「暗殺や暴動を懸念しての、一時避難というところですわね?」
「仰る通りですわ」
「あのぅ……そのような国家の重大事を、わたしの前で話すのはちょっと……」
と、頬を引き攣らせているのは、このお茶会のもう一人の参加者であるフェレッテ嬢だった。
「そもそも、なぜわたしがこの場に?」
「あら、だって貴女はもう、公爵家か第二王子に嫁ぐのが決まっておりますもの」
ディオーラが答えると、フェレッテ嬢はまたしてもヒィ! と悲鳴を上げた。
「わ、わたしには無理です! 学院に進んで、一生魔法生物の世話をしようと思ってますのに!」
「泣きそうな顔をしてもダメですわ。今のままでは貴女は『ワイルズ殿下に薬を盛った』という醜聞で貰い手がつかず、社交界は針の筵」
「わたくしたちがこうしてお茶会にお誘いするのも、貴女に瑕疵はないと示す為ですし」
「い、一生独身で構いません!」
「そうなると修道院行きですわ。魔法生物のお世話は出来なくてよ」
「オーリオ様の仰る通り。大丈夫ですわ。オーリオ様のお兄様なら、貴女と同じく魔法生物学に造詣が深い方。研究を止められはしませんから」
もはや決定事項なので、第二王子よりは次期公爵だろう、と、今の彼女の言葉を聞いて決まった。
「圧倒的無慈悲ですぅ!! わ、わたしに選択権はないんですかぁ!?」
「ですから、第二王子か次期公爵と」
「そういう選択の話じゃないですぅ!!」
今にも泣き喚きそうなフェレッテ嬢の、嗜虐心煽る可愛らしいお顔に、ディオーラはニッコリと微笑む。
「貴族令嬢ともあろう者が、何かがご自身の思いどおりになると思っておられるなんて、愚かですわねぇ」
「王子妃教育級の高位貴族教育の手配は、既に終わっているので、諦めなさいな」
「それに陛下も、『愚息が迷惑をかけたから』と承認しておられますし」
「多分、そうなるとわたくしが第二王子妃ですわね」
オーリオ様が、音も立てずに優雅にお茶を一口すする。
テーブルに、はしたなくも突っ伏してしまったフェレッテ嬢は放っておいて。
「何でこんなことに……殿下ぁ〜……」
「まぁ、わたくしの愚かわいい殿下に近づいてしまったことが運の尽きということですわね〜」
ディオーラも微笑んで、話を元に戻した。
「それで、お二人のご留学に対して、オーリオ様は何を思うところがございますの?」
「このようなこと、あまり言いたくないのですけれど。……イスフィール様はディオーラ様に、スラーア様は王太子殿下に、それぞれ懸想しておりますのよ……」
そう、オーリオ様が苦い顔で仰られて。
「……あらあら、それはまぁ」
と、ディオーラが笑みを浮かべたまま、冷たく目を細めると。
「……ひぃ」
空気を察して顔を上げたフェレッテ嬢が、怯えたように身を縮こめた。
隣国から現れる刺客!
口説かれるディオーラと、突撃ラブハートを喰らうワイルズ!
二人の関係はかき乱されて、一体どうなってしまうのか!?
……あらあら、この二人に手を出そうだなんて、愚かですわねぇ。と思われた方は、ブックマークやいいね、↓の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価等、どうぞよろしくお願いいたします!