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【コミカライズ4巻発売中】うちの王太子殿下は今日も愚かわいい~婚約破棄ですの? もちろん却下しますけれど、理由は聞いて差し上げますわ~  作者: メアリー=ドゥ
第三章

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殿下が、魔獣狩りギルドに入り込んだようですわ。


 ―――魔獣狩りギルド。


 それは上王陛下おじいさまと上妃陛下が主導して設立したという、魔獣退治を専門とする団体らしい。


「どんな仕事をするんだ?」

「……何で中まで付いて来た?」

「興味があるからだ!」


 ワイルズは、昔から遠慮というものがよく分からない。


 最後に残ったお菓子は他に食べたい者がいなければ食べるし、気になったことは口にするし、入ってはダメと言われないなら魔獣狩りギルドの中にも入るのだ。


「少々事情があって、魔獣が必要でな! 魔獣狩りということは狩った魔獣がここにいるんだろう?」


 ギルドの中は外見通り少々無骨で質素な建物である。


 頑丈な石造りであり、奥にある巨大な扉も、多分結界魔導陣の刻まれた分厚い鉄製なので、金自体は掛かっているように思えた。

 が、観葉植物もなければカーペットも敷かれていないし、照明も広さに対してイマイチ足りていないのか少々薄暗い。


 一辺の壁面にはベタベタと隙間なく、魔獣の姿とおそらくはそれが出現したのだろう場所の地図。

 別の壁面には模様を刻んだ木札があり、魔獣の紙が挟まれているものと挟まれていないものがチラホラある。


 入ったことのない場所なので、もの珍しさからキョロキョロしながらワイルズが質問すると、アガペロは眉根に刻んだシワを深くして、軽く舌打ちした。


「大体の魔獣は狩った時に殺して、基本的には解体したモンばっかりだ。小型の魔性ならそこら辺にいるがな」


 と、彼が指差した先に目を向けると、サラマンダーやハーピィと呼ばれる顔が人に似た鳥の魔性などが並んでいる。

 サイズ的には、大きなトカゲや大鷲くらいの大きさだ。


 ―――ペットくらいなら良いかもしれんが、小さいな。


 可愛いとは思うものの、魔獣園と呼ぶくらいの規模で展示するには物足りない感じである。

 出来ればスフィンクス達、最低でもグリちゃんくらいの大きさだと迫力があるので、そのくらいの大きさの魔獣が欲しい。


「だが、デカい魔獣も狩りに行くのは行くんだな! その魔獣狩りは誰でも出来るのか?」


 ワイルズが何気なく尋ねると、ギルド内の空気が何故かピン、と張り詰めた。


「ぬ?」


 周りを見ると、得物を持った屈強な男や、強気そうなお姉ちゃん達が皆ワイルズを睨んでいた。

 アガペロがため息を吐いて、顔見知りらしい彼らに対して口を開く。


「……物知らずのお貴族様だ。ピリつくな」


 ―――何でだ?


 見る感じ、全員ワイルズより強そうではないので、特に身の危険は感じないものの、睨まれた理由がよく分からなかった。


「滅多なことを口にするんじゃねぇ。魔獣狩りは命懸けで、狩れる魔獣の種類も人によって厳格に決められてるんだ」

「そうなのか?」

「当然だろう。考えて分からねぇか?」

 アガペロは、バカにするようなうっすらとした笑みを浮かべるが、その目は真剣だった。



「―――実力以上の魔獣と対峙すりゃ、人間は死ぬんだよ」



 ワイルズは、彼の言葉に目をぱちくりした。

 そして首を傾げる。


「魔獣、そんなに強いか?」


 すると、周りの殺気が膨れ上がり……彼らが動き出す前に、アガペロに胸ぐらを掴まれる。


「お?」


 ワイルズは、動こうとした〝影〟を手の動きで軽く制する。

 そういう行動を他人にされたことがなかったので予想外で驚きはしたものの、別に振り解こうと思えばすぐに振り解ける。


 それよりも。


「何で皆、そんなに怒っているんだ?」

「……物知らずにも、限度ってモンがあるんじゃねーのか。テメェがどこの誰だか知らねぇが、魔獣と対峙したこともないんだろうが!」


 ワイルズはその決めつけに、流石に眉根を寄せる。


「あるぞ」

「あ?」

「魔人王とかいうのも斬ったことがあるし、ハムナ王国で『不死の王』とかいうのとも戦った。そいつらよりも強い訳じゃないだろ? この間の魔獣大侵攻スタンピードの時の、一匹くらいの強さじゃないのか?」


 だったら弱いと思うのだが。

 そうワイルズが思っていると、周りの魔獣狩りらしい人々が一斉に怒鳴り始める。


「ふざけんじゃねぇぞホラ吹きがァ!」

「お貴族様だろうが、ブチ殺すぞクソガキ!」

「叩き出すぞアガペロの爺さん! 我慢してやる必要ねぇよな!?」

『……正直、この場の者らが怒るのも無理ないと思ってます』


 最後の一言は〝影〟がボソリと呟いた言葉である。


 が、額に青筋を立てていたアガペロだけは、鋭い目をしながらも反応がなかった。

 こっちの顔をジッと見た後に、次いで服装に目を向け、腰の『聖剣の複製レプリカ』を見て、最後に肩に乗るスザクを見る。


「どうしたんだ?」


 ワイルズが尋ねると、アガペロが襟首を掴んだ手を離した。


 襟元を触ると、生地が伸びたようで、ちょっとビロンビロンになっている。

 衣装係に、後で小言を言われるかもしれない。


 あの衣装係は……というかワイルズの周りの人々は侍女長も執事も両親も上妃陛下も皆そうなのだが……お説教が始まると、ネチネチと長いのである。


 が、そんなワイルズの内心は特に関係なく、アガペロが絞り出すように言葉を口にした。


「……テメェ、名前は?」


 彼の様子がおかしいからか、徐々に静まっていた場に、その声は妙に響いた。

 ワイルズは、そこで気づく。


「そういえば、名乗っていなかったか! 確かに、礼儀知らずだと思われても仕方がないな!」。

『そういう話ではないんですが……名乗るんですか……』


 何故かやれやれとでも言いたげな、だがどこか楽しんでいるような〝影〟の言葉は無視して、ワイルズは周りにもちゃんと聞こえるように、胸と声を張って名乗る。



「申し遅れた! 私は、アトランテ王国王太子、ワーワイルズ・アトランテだ!」



 そう名乗った途端、ギルド内の空気が先ほどとは別の意味でビシッと固まった。


「ぬ?」

「ワーワイルズ、アトランテ……?」


 何故かじわりと額に脂汗を浮かべて、アガペロが反芻はんすうする。


「そうだが?」

「バロバロッサ上王陛下の、孫……」

「うむ」

「フロフロスト国王陛下の、息子……?」

「その通りだ!」

「本物、か……?」

「私の名を勝手に名乗る者がいたら、流石に不敬罪で処罰せねばならんのでは?」


 周りからも、『嘘だろ……』『何でこんなところにいるんだ……?』というような、奇妙な戸惑いの言葉が流れてくる。


「そうか……だから、チュチュが……」


 と、肩のスザクの名前らしきものを呟いて、アガペロは深くため息を吐いた。


「そりゃ、アトランテ王族からしたら、魔獣なんて弱いモンでしょうね。数々失礼を、殿下」

「別に敬語になる必要はないぞ? 公務でもないしな!」


 アガペロの口調が改まったので、とりあえずそう言っておく。


「バカにされるのは腹立つが、物知らずの貴族なのは多分その通りだからな!」

『自覚あるんなら、もうちょっと丁重に振る舞ってくれていいんですが』


 ―――いちいちうるさいヤツだな。


 本当にこの〝影〟は饒舌である。

 そこで、アガペロが苦笑した。


「お若い頃の上王陛下にそっくりだな……」

「なんだ、アガペロはお祖父様に会ったことがあるのか?」

「昔、一度な。が、逆にアトランテ王族なら、もう少し国の中のことを知っていてくれないか」


 彼は、再び表情を引き締めて、周りを見回す。


「いいか。この魔獣狩りギルドは、上王陛下と上妃陛下が設立したものだ」

「ああ、それは知っているが」


 魔獣狩りギルドのこと自体は、入学前の家庭教師からも、貴族学校でも習っている。


 この国の政策の一部だったからだ。

 内容は歴史の一行程度で、別にテストにも出ないので聞き流していたが。


「お二人がなぜ、厳格に魔獣狩りの取り決めをしているのか、その理由は?」

「……あ〜……すまない」


 思い出そうとしても全然思い出せないので、ワイルズは視線を泳がせる。

 すると、アガペロは特に失望した様子もなく、淡々と正解を口にした。



「昔、魔獣狩りの村が一つ、無茶なことをして滅んだから、だよ」


 

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