ダメですわ。
「誠にありがとうございました」
色々なことを片付けて、一週間。
ヘジュケ殿下が皇都に戻るディオーラ達に向けて、深々と頭を下げた。
流石に王と側近が魔性に乗っ取られており、ワイルズ殿下によって弑されたなどということを、公にするわけにはいかない。
しかしハムナ王のみならず『不死の王』が消えると同時にその力の恩恵を受けた『王のしもべ』まで全員消滅したとなると、隠蔽し切る事もできず。
結果的に、多くは通路の崩落によって命を落としたこととになり、それ以外の者は病死と発表された。
多少不自然ではあるけれど、仕方のないことだろう。
そしてイルフィール陛下の承認により、ヘジュケ殿下が玉座に座ることとなった。
今まで彼を蔑ろに扱っていた者らも、流石に主国の命令となれば従わない訳にはいかない。
皇都まではディオーラとワイルズ殿下、それにレイデンが護衛につく事となり、ヘジュケ殿下の暗殺を防ぐために陛下の〝影〟は残していくこととなった。
折り返し、信頼のおける者を、状況が完全に落ち着くまでは皇都から派遣する予定らしい。
「ご多幸をお祈りしておりますわ」
ヘジュケ殿下が助かり王位を継ぐのは運もあるけれど、イルフィール陛下を救う為に尽力し、その功績が認められたからである。
魔王の暗躍も今後起こることはなく、その封印に使われていた聖なる力も大地の恵みに向けられたことも確認されている。
砂漠の中にあったこの国も徐々に緑豊かになっていき、同時に国も盛えることだろう。
レイデン卿とリオノーラ夫人も、皇都に戻った後はライオネル王国に帰るらしい。
そうして、約束通り貰い受けた神獣……スフィンジェにディオーラが乗り、スフィンクスにイルフィール殿下が跨ると。
「ディオーラ、頼む、ちょっと、ちょっとだけ……」
「ダメですわ」
ワイルズ殿下が乗りたそうにおずおずと口にするのに、ピシャリと告げる。
「罰だと言ったでしょう。アトランテに帰るまで、乗るのも触るのも禁止です」
「お、横暴だぞ!! ディオーラ!」
「上妃陛下にご報告しても良いのであれば、存分にどうぞ」
「うぐぐぐ……!!」
葛藤する殿下は、今日も大変愚かしい様子で、ディオーラは満足である。
「さ、帰りますわよ!」
ヘジュケ殿下に見送られて、ディオーラ達はハムナ王国を後にした。




