決着ですわ。
「ウォルフ殿下は追放されましたが、『王のしもべ』はまだ消えておりません。昨夜生け贄に捧げられた人物は……メキメル様です」
「ちっ! やってくれたな!」
「メキメル様、お行儀が悪いですわ」
ゲームマスターであるメルフィレスの宣言に、そう吐き捨てたメキメルに、ディオーラは溜め息を吐いた。
よっぽど悔しいのか、眉根に深く皺を寄せて、腕組みしている。
遊戯にムキになる辺りが、彼のワイルズと同じで少々幼い点だ。
メキメルが黙り込むと、メルフィレスが笑いを堪える気配を見せながら告げる。
「では、三日目の話し合いを始めて下さい」
「宣言を撤回します。私は『預言者』ではなく『民衆』です」
そう告げたのは、ヘジュケだった。
「あら、『預言者』を騙った真意をお伺いしてもよろしくて?」
「『預言者』を確実に残す為です。『預言者』は、三人目に宣言した者がそうである可能性が最も高いので、もし仮に生け贄に捧げられるとしたら私となると予測致しました」
それは事実である。
二人の『預言者』の対立であれば、片方が『王のしもべ』もしくは『狂人』である可能性が高いため、どちらかが追放されてしまう。
もし『王のしもべ』が追放された場合、『王のしもべ』側は『神官』の守りもない『預言者』を残す理由がないので、生け贄に捧げられてしまうのだ。
まして三日目で残り四人ならば、今日がほぼ最終日である。
「ですが、どうやら『王のしもべ』は『魔術師』を追放致しましたね」
「ヘジュケ殿下は~、メキメル様が『魔術師』だとお思いになられたのですね~?」
「ええ。私が『民衆』である以上、他に候補がおられませんので」
柔和に微笑むヘジュケは、ディオーラとリオノーラの顔をそれぞれに見る。
「私は、二人の『預言者』に今日の結果を教えていただきたいと思います」
「リノオーラ様が『王のしもべ』ですわ」
「ヘジュケ殿下が『王のしもべ』でしたわ~」
交互に答えると、ワイルズがむむむ、と眉根を寄せた。
「……一体、誰が嘘つきなんだ! 嘘はいけないことだぞ!」
「殿下、そういう遊戯ですわ」
今さら何を言っているのか。
ディオーラはニッコリと問いかける。
「勿論、わたくしはリオノーラ様に投票するつもりですわ。リオノーラ様は、ヘジュケ様ですわよね?」
「ええ~、それと~、わたくしはディオーラ様が~」
「ヘジュケ殿下はいかがですの?」
「そうですね。リオノーラ夫人でしょうか」
「殿下は『民衆』ですわね? 多分、この回の投票は殿下に掛かっておりますわ」
「な、何故だ?」
「だって、ヘジュケ殿下とわたくしがリオノーラ様に投票するんですもの」
「ええ。それで決まらなければ決選投票、それでも決まらなければサイコロに結果を委ねることになりますね」
残りは四人。
二人がリオノーラに投票するのなら、リオノーラとワイルズが票を合わせてヘジュケに投票しなければ、リオノーラの追放は確定する。
「ぐぬぬ……何故リオノーラ夫人なのだ!? ヘジュケも疑わしいのだろう!?」
「あら、殿下は最初、リオノーラ様に票を投じておられたではありませんか。疑わしいとお思いになったのでしょう? わたくしは殿下を信じておりますから」
と、ディオーラは扇を口元に広げる。
「あの~」
「ねぇ、ヘジュケ殿下」
「そうですね。私はディオーラ様も疑ってはおりませんので、必然的にリオノーラ様になります」
「な、なるほど?」
殿下がなんとなく納得しかけたところで。
「では、時間となりました。それぞれに投票をお願い致します」
と、メルフィレスが宣言する。
ーーー上手くいきましたわね。
ディオーラは、少々ズルい手を使った。
リオノーラの発言がゆったりしているのを逆手にとって、その発言を遮り続けたのだ。
疑わしき人物に発言をさせないこと。
禁じられてはいないけれど、あまり良いとは言えない。
けれど、ディオーラとしては少々、この状況でしか味わえない楽しみを味わいたかったのだ。
「では、ディオーラ様から」
「リオノーラ夫人に」
「リオノーラ夫人」
「ヘジュケ殿下ですわ~」
「ヘジュケ殿下」
「リオノーラ夫人に」
「最後に、ワイルズ殿下」
メルフィレスの問いかけに、ワイルズは少し悩んだ後。
「……リオノーラ夫人に」
と答えた。
「では、リオノーラ夫人が追放となりました。この瞬間……」
メルフィレスはピクピクと、抑えきれないおかしさを口の端に滲ませている。
メキメルが呆れ顔で天を仰ぎ、レイデンは特に表情を変えず、ウォルフは興味津々で結果を待ち、オーリオは扇を口元に当てている。
「『王のしもべ』側の、勝利です」
「は!?」
ワイルズが呆然とするのに、ディオーラは内心で高笑いした。
「あぁ……殿下は、本当に」
ーーー愚かですわねぇ。
こういうワイルズが、本当に愛しいディオーラは、存分にその顔を愛でる。
「待て、何でそうなる!? リオノーラ夫人が『王のしもべ』じゃないのか!? 一人しか残ってないんだろう!? 誰が『王のしもべ』なんだ!?」
「私です」
「それと、わたくしですわね」
と、手を上げたのはヘジュケとオーリオ。
「『神官』はレイデン様、『魔術師』はメキメル様、ウォルフ様とワイルズ殿下は『民衆』ですわね。そしてリオノーラ夫人は『預言者』ですわ」
「はい~」
負けたとしても、さほど気にならないのだろう。
ニコニコとリオノーラ夫人が頷くのに、ワイルズは納得いかなそうにディオーラの顔をバッと見る。
「ディオーラ、お前、分かっててヘジュケに勝たせただろう!? 何でだ!?」
「何でって……」
ディオーラは扇を広げて、上目使いにワイルズを見る。
そんなもの、残った役職を考えれば分かりきっているのだけれど。
「ーーーわたくし、『狂信者』ですもの」
「……あ」
「リオノーラ夫人は気付いておられましたわよね?」
「はい~。最後だけ、ちょっと露骨でしたわね~」
「なん、何だとぉ!?」
そんなワイルズに、ディオーラはニッコリと笑みを浮かべた。
「殿下のそういうお顔が見たかったのですの。ふふ、上手くいって嬉しいですわ♪」
上機嫌のディオーラと対照的に、その日は寝室に下がるまで、殿下はとっても不機嫌だった。




