二日目ですわ。
「オーリオ様は追放されましたが、『王のしもべ』はまだ消えておりません。昨夜生け贄に捧げられた人物は……レイデン様です」
ゲームマスターであるメルフィレスの宣言に、レイデンは黙って肩を竦めた。
ーーー流石ですわね。
今回の『王のしもべ』は、狡猾できちんと目端が利くようだ。
レイデンはおそらく『神官』である。
彼はどちらの陣営にもつかず、皆から黒く見られるように動いた。
そういう動きをする必要があるのは『預言者』や『民衆』を『王のしもべ』から守る役職なのだ。
『神官』の守り方は二種類。
一つは自分はきちんと潜伏し、狙われやすい人を護衛する形だ。
その場合、自分が何度も『民衆』を守れる可能性がある代わりに、他の人が狙われてしまうリスクと、守る対象を外してしまう可能性がある。
もう一つは今レイデンがやったように、自分にヘイトを集めるやり方。
その動きをすると『神官』であることを悟られてしまう代わりに、確実に一回は自分以外の『民衆』を守れる。
何故なら、『王のしもべ』は誰かが『神官』だと分かった場合、真っ先に始末しないと『預言者』は守られ続けて、正体を看破されてしまう危険があるからだ。
今回のゲームは人数が少ない上に初日で『預言者』が名乗り出なかった為、レイデンは何度も『預言者』を守れるメリットよりも、確実に一度は守るメリットを取ったのだ。
「では、二日目の話し合いをお願い致します」
「次の生贄投票はウォルフ様にしていただくよう、皆様にお願い申し上げますわ」
メルフィレスの宣言直後にディオーラがそう口にすると、ワイルズとウォルフが驚いたようにこちらを見る。
「何故だ、将来の義姉上!?」
「追放されたのがオーリオ様であり、生贄に捧げられたのがレイデン様だからですわ、ウォルフ殿下」
ディオーラの言葉に、リオノーラは特に何かを感じた様子はなく、メキメルも至極当たり前という顔をしている。
「先ほど、殿下とオーリオ様は対立し、レイデン様はリオノーラ様寄りではありますが中立を保っておられました。もしウォルフ様側が『王のしもべ』であった場合、まだ二人残っていることになりますもの」
二日目は、『初日に追放された陣営の対立陣営』から追放者を決めるのは、基本である。
一つ目の時のように、よほど片方の陣営が『王のしもべ』側であるという確信がない限りは、保険を掛ける意味合いがあった。
「それでいうと〜、ディオーラ様を追放するという手もございますわ〜」
「あら、何故ですの?」
リオノーラがニコニコと口を挟むのに、ディオーラは問いかける。
「お二人の投票は〜、オーリオ様の決選投票の前にわたくしに向いていたからですわ〜」
彼女のいう通り、ヘジュケ・オーリオvsウォルフ以外に、リオノーラvsディオーラの対立軸もある。
そのリオノーラは最初オーリオに投票しているので、ディオーラは対立陣営、とも取れるが。
「ですけれど、わたくしは決選投票でオーリオ様に投じておりましてよ。追放するのなら2回ともリオノーラ様に投じたワイルズ殿下ではなくて?」
「おい!?」
いきなり売られたように思ったのだろう、ワイルズ殿下が目を剥く。
「いいえ〜、ワイルズ殿下は『民衆』ですから〜、投票は致しませんわ〜」
「あら、何故お分かりになるの?」
「それは〜、わたくしが『預言者』だからですわ〜」
「何だと!?」
ニッコリと告げたリオノーラに、ワイルズ殿下がさらに狼狽える。
「奇遇ですわね、リオノーラ様。わたくしも『預言者』ですの」
「はぁ!?」
ディオーラがさらにそう重ねると、もはや首振り人形と化した殿下が、またこちらに目を向けた。
「なるほど……」
そのやり取りを眺めていたヘジュケが、面白そうに笑いを堪えながら手を挙げる。
「ワイルズ殿下。私も『預言者』です」
「……!!!」
ーーーあら。
まさかここにヘジュケが乗ってくると思っていなかったディオーラは、彼の真意を探ろうとジッとその目を見る。
「この遊び、『預言者』は一人なのでは!?」
「ええ、ウォルフ殿下。つまり、この中の二人か、もしくは全員が嘘をついている、ということですわね」
扇を広げたディオーラは、ふふ、と口元を緩ませる。
かなり面白くなって来た。
「メキメル様。この状況をどう見まして?」
「それぞれ、誰がどういう役職だったか、ゲームマスターに聞いた理由も含めて言ってみろよ。リオノーラ夫人は?」
「最初は〜、ワイルズ殿下が『民衆』だと知りまして〜、次にオーリオ様と対抗なさっていたウォルフ殿下に関する預言を受けましたの〜。ウォルフ殿下も民衆でしたわ〜」
「なるほど。ディオーラは?」
「リオノーラ夫人は『民衆』。同じ理由でウォルフ殿下の預言を受けて、『王のしもべ』でしたわ」
「ふん。で、ヘジュケは?」
「ワイルズ殿下が『民衆』。ディオーラ様も『民衆』です」
全員の預言を聞いて、メキメルは何度か頷いた。
「なるほどな。じゃ、ワイルズは残しだな」
「何でですの?」
「オレはヘジュケが偽だと思ってる。で、残り二人の『預言者』がワイルズは『民衆』だと言ってる。『預言者』全員が偽で『王のしもべ』と『狂信者』なら、もう勝てねーから、その可能性は捨てる」
メキメルは論理的だった。
『王のしもべ』と『狂信者』が三人とも残っているのであれば、残った六人中三人が『王のしもべ』側なので、投票を合わせたら3票になる為、もう『民衆』側にほぼ勝ち筋がないのである。
「つまり、追放されたオーリオ様を確定で『王のしもべ』と見るのですわね?」
「おう。だからオレの中では、ヘジュケがもう一人の『王のしもべ』だ。だから内訳は、ディオーラかリオノーラが『狂信者』と本物の『預言者』だろ。だからワイルズは白だ」
「……兄上、メキメルが何言ってるか分かりますか!?」
「と、当然だろう」
王子兄弟がそんなやり取りをしているが、メキメルは無視した。
ーーーワイルズ殿下が『民衆』で確定、ということは……。
多分、次に生贄に捧げられるのはワイルズだろう。
白確定の人物を『民衆』側が追放することはなく、誰が『王のしもべ』でも生贄に捧げて怪しまれることもないので、格好の餌食なのだ。
ーーーけれど。
「では、ワイルズ殿下を軸に『魔術師』を見つけないといけませんわね」
この試合は、『魔術師』を生き残らせてはいけないのである。
『王のしもべ』が二人残っていないと仮定するのであれば、オーリオは『魔術師』である可能性がない。
となると『王のしもべ』をここで追放してしまった場合、レイデンが『魔術師』でない限り、生き残った『魔術師』の勝ちになってしまうのだ。
「わたくしは、レイデン様が『神官』であった可能性が高いと思っておりますの。であれば、わたくしの『預言』ではウォルフ殿下が『王のしもべ』ですので、メキメル様が『魔術師』ということになりますわね」
『魔術師』は目立ってはいけない存在だ。
現在残っている六人の内、ディオーラ、ヘジュケ、リオノーラの三人は『預言者』を宣言する、という目立つ行動をしている。
残ったワイルズ、ウォルフ、メキメルの内、ワイルズは『民衆』で確定。
ということで。
「やっぱりわたくしが最初に言った通り、ウォルフ殿下を追放するのが良いのではないでしょうか? だって、『王のしもべ』と『魔術師』両方の疑いが掛かっているのですもの。それにわたくし目線では、ウォルフ殿下が『王のしもべ』ですので、オーリオ様は白ですわ。このタイミングで、『王のしもべ』は一人確実に追放しておきたいところですの」
「あ〜、なるほどな?」
メキメルが悪い笑みを見せて、リオノーラとヘジュケに目を向ける。
「ってことだが、異論は?」
「私は、特にないですね」
「残念ですけれど〜、論理的には正しいですわね〜。個人的にはヘジュケ殿下かメキメル様に投票したいところですけれど〜」
リオノーラの発言の意図は、ヘジュケが『王のしもべ』である、という疑いが一番濃いからだ。
が、先ほど同陣営のオーリオを追放しているし、どちらにせよ『魔術師』は『王のしもべ』が生贄に捧げるか、投票で追放しなければならないので、ヘジュケには投票出来ない。
そしてメキメルとウォルフを比べると、疑いが濃いのはウォルフ側なので、ウォルフへの投票が一番論理的に正しいのだ。
「オレは『王のしもべ』でも『魔術師』でもないぞ!!」
と、ウォルフ様は主張したけれど。
ワイルズ殿下を含む満場一致で、ウォルフ殿下は追放されてしまった。
現在の状況
【対立】
預言者を宣言:ヘジュケvsリオノーラvsディオーラ
メキメル→ヘジュケを疑う
【中立】
ワイルズ(『民衆』確定)
【追放/生贄】
オーリオ、ウォルフ/レイデン




