初日が終わりましたわ。
「わたくしは〜、ディオーラ様が何らかの役職をお持ちだと〜、思っておりますわ〜」
「ふふ。そう仰るリオノーラ様こそ、何らかの役職をお持ちなのでは?」
ディオーラは、リオノーラの挑戦を正面から受けて立つことにした。
「どうしてそう思われますの〜?」
「ヘジュケ様がわたくしを怪しまなかったのと同様、わたくしも、特に怪しいと感じた人物はおりませんでしたの。けれど、リオノーラ様はわたくしのわずかな変化を見抜き、おかしいと感じた……つまり、特にわたくしを注意して見ていた、ということになりはしませんか?」
「あら、あら〜? 言われてみれば〜、そうかもしれませんわね〜?」
「では、何故わたくしに注視したのか。……それはリオノーラ様がなんらかの役職をお持ちであり、わたくしか、他の誰かの役職を知っているから、では?」
もし彼女がディオーラの役職を知っているのなら、おそらく注目する必要はない。
つまり、他の誰かの役職を知っているから、その人物を排除して残りの人物の様子に集中することが出来た、と取れる。
「わたくしは、リオノーラ様がおそらく『預言者』か『王のしもべ』であると思い始めておりますわ」
ゲーム開始前に他の人物の役職を知れるのは、その二つだけであるからだ。
けれどリオノーラは、ゆっくりと首を傾げ、微笑んだだけで表情から何かを読み取ることは出来なかった。
「残念ですけれど〜、わたくしは『民衆』ですわ〜」
「お二人のやり取りも興味深いですが、時間があまり取れません。まだ話していない他の方の話も聞きたいですね。特にレイデン氏やメキメル様に関しては、今回一言も話しておられませんが?」
ヘジュケがやんわりと話を振ると、レイデンがメキメルに目を向ける。
するとメキメルは、ふん、と鼻を鳴らした。
「ライオネルの騎士団長殿は律儀だな。こんな遊びの時まで序列を気にしなくていい。遊戯の興が薄れるだろうが」
「申し訳ありません。でしたら、私の方から。ここまでのそれぞれの対応から、おそらくヘジュケ殿下とオーリオ様、ウォルフ殿下とリオノーラは同陣営であると予測します。ワイルズ殿下とメキメル様、ディオーラ様については現状不明ですが……ディオーラ様は、リオノーラと対立しております。この三名の中に、おそらく『魔術師』が一人おられるかと」
「やるじゃねーか。ちょうどオレも、お前を含めた他の三人の中に『魔術師』がいると思ってるよ。ついでに、ヘジュケかオーリオが『預言者』じゃねーかと思ってる」
ーーーメキメル様はヘジュケ側について、レイデンは黒くなりに来た、と。
ディオーラは、状況の整理だけをしたレイデンの言葉に、目を細めた。
彼は、おそらく『魔術師』ではない。
この手の遊戯は極端にシンプルに考えると『誰を信じて、誰を疑うか』という話である。
人は、『味方である』と表明した人物を信頼……つまり『白く』見る。
『あなたを疑っている』と口にした人物を『王のしもべ』ではないかと疑い返す……つまり『黒く』見る。
メキメルはヘジュケ側に白さをアピールし、レイデンはどちらの陣営にもつかなかった。
そうなると、レイデンは両方の陣営から疑われることになる。
『魔術師』は最後まで生き残ることが目的となる為、追放されてはならないし、『王のしもべ』に狙われてもいけないのだ。
潔白になれば生贄にされてしまい、疑われ過ぎれば追放されてしまうので、『王のしもべ』よりもさらに、立ち回りは慎重にならざるを得ない難しい役職である。
ーーーおそらくレイデンは『民衆』側……けれど、『預言者』ではない……。
現在の対立軸は、ヘジュケ、オーリオと、最初に彼らに疑われたウォルフの間で一つ。
彼から話を逸らしたリオノーラと、矛先を向けられたディオーラの間で二つ。
リオノーラと対立している為、ディオーラ自身はどちらかといえばヘジュケ寄りになる。
故に、ヘジュケ・オーリオ側かウォルフ・リオノーラ側のどちらかが『王のしもべ』陣営である可能性が高い。
『預言者』は、名乗り出ず潜伏中。
これは、最初のターンを生き残る為の沈黙。
故に自ら黒くなりに来たレイデンは、少なくとも『預言者』ではないし、『魔術師』でもないのである。
「話し合いの時間は終わりです。誰が『王のしもべ』であるか、それぞれ目星は付けられたでしょうか? ……では、投票の時間に参りましょう」
懐中時計を手にしていたゲームマスターのメルフィレスが告げ、全員が口をつぐむ。
「では、時計回りに、ヘジュケ殿下からお願い致します」
「ウォルフ殿下に」
ヘジュケは今のやり取りで意見を変えなかったようで、ウォルフに一票。
「続いて、オーリオ様」
「ウォルフ殿下に」
確実に絆がある彼女は、ヘジュケに合わせたといったところだろう。
「では、ウォルフ殿下」
「うむ! ヘジュケに!」
ウォルフは、最初に疑ってきた相手に投票し返した。
彼のことなので、『オーリオに投票するのは嫌だ!』という理由でかもしれない。
「では、ワイルズ殿下」
「……リオノーラ夫人に」
ワイルズは、別の人物に投票した。
多分、表情から察するに誰に投票していいか分からなかったのだろう。
ーーーそれなら、ウォルフ殿下と合わせてヘジュケ殿下に投票すればよろしいのに。まだまだですわねぇ。
ディオーラは、微かに笑みを浮かべる。
現在、ウォルフに2票、ヘジュケに1票だったので、ヘジュケに票を投じればフラットになるのだ。
今回の投票については、おそらくこの二人に票が集まるだろう。
と予測して、ディオーラは場を乱すことにした。
「では、ディオーラ様」
「リオノーラ様に投票致しますわ」
これで、リオノーラが2票になり、ウォルフ殿下に並ぶ。
「あら〜?」
「ふん」
どうやら、意外そうに声を上げるリオノーラと、面白そうに鼻を鳴らしたメキメルは、ディオーラが場を荒らすとは予測していなかったのだろう。
これでリオノーラは、メキメルの投票次第ではヘジュケに票を投じるしかなくなる。
「では、メキメル様」
「そうだな……」
メキメルは、少し考える素振りを見せて、腕を組んだまま顎を撫でた。
この投票によって誰かの票を増せば、確実にメキメルがどちらかの陣営につくことになる。
「オレはヘジュケだ」
ーーーどうやら、完全にヘジュケ側につく、という訳ではなさそうですわね。
ここでメキメルがウォルフに投じれば3票になるので、リオノーラとレイデンが彼を疑っていない場合、票を並べる為に、ヘジュケに投票するしかなくなったのだけれど。
メキメルはこの投票で、完全にヘジュケ・オーリオ側になるつもりはない、という意思表示をしたとも言える。
ヘジュケ2票、リオノーラ2票、ウォルフ2票、となると、彼女らの選択は難しくなる。
「では、レイデン様」
「……オーリオ様に」
彼は悩んだ末、そう口にした。
どうやら、理由は分からないけれど、リオノーラに選択を預けつつ、ヘジュケ側と対立するつもりのようだ。
ーーーなるほど。
ディオーラは、彼の行動の意図をほぼ察して、最後のリオノーラに目を向けた。
相変わらず、のんびりとした様子のリオノーラは、特に迷うこともなく答えを口にする。
「オーリオ様に投票致しますわ〜」
「……この場合、どうなるんだ?」
ワイルズは、ヘジュケに問いかける。
ヘジュケ、ウォルフ、オーリオ、リオノーラの得票が並んだのだ。
ディオーラ自身も彼女の意図を察せず、思わず眉根を寄せる。
ーーーオーリオに投じるなら、ヘジュケ殿下に投じれば終わりですのに。
わざわざ遊戯を長引かせようとしているのか、と思いながら彼女を見つめると、リオノーラは視線に気づいたのか気づいていないのか、お茶を口にしていた。
「この場合は、4人で決選投票となりますね。投票されなかった4名が再度投票を行い、追放する相手を決定して下さい」
「なるほど」
「では、ワイルズ殿下から」
「ちょっと待て。……いや、やっぱりリオノーラ夫人に」
「はい、ではディオーラ様」
「オーリオ様ですわ」
「おい」
どうやら、ディオーラが先ほど投票を合わせたから、リオノーラに合わせてくると思ったのだろう。
半眼になっている彼に、ニッコリと微笑みかける。
ーーー殿下は、本当に甘いですわねぇ。
ディオーラは、先ほどは投票数を合わせるためにリオノーラに投じただけだ。
「続いて、メキメル様」
「オーリオだ」
「……覚えてらっしゃい」
王弟子であるメキメルと、皇国の血が入った公爵家令嬢であるオーリオは、立場はほぼ対等である。
オーリオの威圧を、メキメルは涼しい顔で受け流す。
「では最後に、レイデン様」
「オーリオ様に」
ここでさらに票を割らず、レイデン自身は最初の投票通りに、かつ、確実に決着をつける選択をした。
初日の追放者は、最初に疑われたウォルフではなく、疑った方であるオーリオになった。
ここまでの関係性
【対立】
ヘジュケvsウォルフ
ディオーラ・ワイルズ(民衆?)vsリオノーラ(預言者or王のしもべ?)
【中立】
メキメル レイデン(リオノーラ寄り?)
【追放】
オーリオ




