参加なさいませんの?
「ぐぬぬぬ……何故負けるのだ!」
あの後、2回遊戯に興じ、ワイルズは一度『預言者』になったのだけれど。
「殿下……相変わらずあまり強くないですわね。『預言者』になった途端にそれを宣言してしまっては、『王のしもべ』に生贄に捧げられるに決まっているではないですか」
「何でだ!? 最初の遊戯で、あののんび……リオノーラ夫人は宣言していたではないか!」
「それは、殿下が『預言者』であると嘘をついたから告白したのです。誰も『預言者』だと嘘をついていない時は『王のしもべ』を見つけるまで黙っているのが定石ですわ」
『預言者』は『王のしもべ』が最優先で始末するべき対象なので、頭から一人だけ『預言者』だと宣言すれば、それは狙われるに決まっているのである。
「……わからん……」
「殿下は、別に頭が弱くはない筈なのですが」
どうにも、この手のことに関する理解が遅いのである。
「そうですわね……例え話を致しますと、わたくしが何か、重大な王家の秘密を握っているとしましょう」
「ああ」
「王家転覆を狙う反逆者が、メキメル様、ウォルフ殿下、わたくしの内『一人だけが秘密を握っている』と掴んでいるとします。よろしくて?」
「ああ」
「その秘密を握っているわたくしが、さらに『反逆者がいることを知り、見つけることが出来る』立場にいたとして。殿下は、わたくしがどう行動するのが最適だと思われますか?」
「身辺の警護を固め、秘密を握っているのを隠し、反逆者を見つけて捕らえることだろう」
「はい。つまり、そういう事なのです。『預言者』は秘密を握り、反逆者を探す者。『王のしもべ』は反逆者。しかし先ほどまでの遊戯には、護衛に当たる『神官』がいない状態なのです」
ディオーラはニッコリと笑い、ワイルズに告げる。
「だから、秘密を隠す……『預言者』の立場にいることは、反逆者を見つけるまでは黙っていないといけないのですわ。お分かりいただけまして?」
「なるほど!」
普通は、遊戯の方が簡単なので、ルールを覚えるのも難しくはないはずなのだけれど。
ワイルズは馬鹿ではないのだけれど、物事を関連づけて考えるのが苦手なのである。
最初に『婚約破棄をすれば無理をせず、ディオーラの名誉を傷つけない』などというトンチンカンな考えに至ったのと同じで。
その理由は単純で、『効率良く』という物の考え方が、ワイルズから最も遠い考え方だからだ。
効率よく物事を処理する場合、人は自分の経験に当て嵌めて『こうすれば楽に出来る』と考える。
しかしワイルズは三日三晩寝なくてもけろりとしているような、体力の権化だ。
どんなに膨大な仕事や勉強であろうと『やれば終わる・出来る』を1から実現出来てしまうのである。
やる気になりさえすれば。
それが、ディオーラに勝つためという負けず嫌いから来るものであっても。
面倒くさがりでワガママな性格をしているけれど、学業の成績が優秀なのはその辺りにも理由があった。
ーーー分かるように説明してあげれば、このように理解に至るのも早いのですけれど。
というか、グリフォンの飼育術を公開することを決めた件では先のことまで考えていたようなので、もしかしたら『考える』という行為自体を面倒くさがっている可能性も多分にあった。
「うむ。というか、護衛がいないというのは大変問題があるのではないか? なぜ最初から加えないのだ?」
遊戯の形を理解したらしいワイルズがヘジュケに問いかけると、オーリオが呆れた顔で口を挟む。
「難し過ぎて、殿下方がさらに混乱するからでしょうに」
「では、『民衆』を守ることの出来る『神官』も加えてやりましょうか」
「ゲームマスターを別の者に任せて、ヘジュケ様も参加なさっては? メルフィレス。貴女ならマスターを務められるでしょう?」
「あ、はい。もしヘジュケ殿下がよろしければ」
ディオーラが、この手の遊びを一番一緒にやっていた専属侍女に声をかけると、彼女は即座にそう応じた。
明るく天然っぽい振る舞いをするが、この侍女は大変賢いのである。
「なるほど。では、そう致しましょうか。ディオーラ様の侍女殿に任せても?」
「ええ。わたくしが提案したのですから、勿論」
ヘジュケの問いかけに、ディオーラはにこやかに頷いた。
というわけで、8人で本番です。




