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【コミカライズ4巻発売中】うちの王太子殿下は今日も愚かわいい~婚約破棄ですの? もちろん却下しますけれど、理由は聞いて差し上げますわ~  作者: メアリー=ドゥ
第二章

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『王のしもべ』ですの?


「今日も王国の夜が明け、朝がやって参りました。『王のしもべ』は、昨晩生贄を拐わなかったようです」


 ヘジュケが、穏やかにそう述べた。


 この遊戯は、『狼と羊』同様、いくつかのパートに分かれている。


 主に、『王のしもべ』を見つける為の議論時間。

 その後、誰が『王のしもべ』だと思うかを一人一人述べて、追放する為の投票を行う。

 最後に、生き残った『王のしもべ』がいれば、生贄を捧げる為に再びゲームマスターとの対話時間で、遊戯から消える人物が決定される。


「それでは、議論時間に移りましょう。今回、多くの『民衆』に怪しいと目された人物は……ワイルズ殿下です」

「ぬなぁっ!?」


 明らかに狼狽えた声を上げて、殿下が視線を彷徨わせる。


「なっ、何故私が怪しいのだ!?」

「カードを引いた後から、明らかに狼狽えているからですけれど」


 これは遊びなので、ディオーラは皆の前だけれど遠慮しなかった。

 殿下の愚かわいさは、遊びでもで手合わせでも何でも良いけれど、勝敗が決まる対決をする時が一番愛でられる。


 基本的に負けず嫌いなので、すぐにムキになるからだ。


 ーーーけれど、あまり早く勝負を決めてしまうと、面白くないですわね。


 ほぼ確実にワイルズは『王のしもべ』なのだけれど、ディオーラはさりげなく助け舟を出すことにした。


「殿下は、『王のしもべ』ではありませんの?」

「と、当然だろう! そそそんな疑いそのものが不敬だぞ!?」

「これは遊戯ですから……ですが、殿下は『民衆』ではないでしょう? もしかして『預言者』ですの?」


 『預言者』は最初に、ゲームマスターから一人だけ、誰がどの役職かを聞くことが出来る。

 それが『民衆』であればその人物を疑わなくて良いし、もし『王のしもべ』であればそれを指摘出来る人物だ。


「『預言者』……そう、それだ! わ、私は預言者だぞ!」

「なるほど……では、どなたが『王のしもべ』、あるいは『民衆』か、ご存知ですわね?」

「あ、ああ」


 と、ディオーラが言った時に、ワイルズの目がすぅ、と弟のウォルフに流れた。

 しかし、さらに言葉を重ねるより前に。


「あの〜」


 のんびりのんびり、ニコニコしているリオノーラが手を挙げた。


「どうなさいました? リオノーラ様」

「わたくしも〜、『預言者』ですの〜。ワイルズ殿下とお揃いですわね〜」

「にゃにゃ、にゃんだとぉ!?」


 ワイルズは、リオノーラの宣言にさらに声を張り上げる。


「『預言者』が、二人もいるわけないだろう!!」

「でしたら、どちらかが嘘をついていますわね」

  

 リオノーラの完璧なタイミングでの告白に、ディオーラは思わず笑みを漏らす。

 どうやら彼女は、そののんびりとした動きや口調に見合わず、この手の遊戯が上手い感じがした。


 何故なら、今回の遊戯の場合、どちらかが『王のしもべ』であることが確定するからである。


 『民衆』『王のしもべ』『預言者』しか役職がない場合。

 自分が疑われた時に『預言者』である、と嘘をつく必要があるのは『王のしもべ』だけである。


 参加者が7人で、うち2人が『王のしもべ』なら、『預言者』を含む『民衆』側は残り5人。

 この議論でワイルズかリオノーラを追放すると、夜になる。

 

 そして残った『王のしもべ』が1人を生贄に捧げると、参加者が5人に減る。

 もし追放されずに残ったのが『預言者』であれば、ゲームマスターに疑わしい人物の役職を聞いた『預言者』によって『王のしもべ』側はもう一人の正体がバレる危険があるので、『預言者』を生贄に捧げなければならない状況だ。

 

 そして『預言者』が生贄に捧げられれば、『王のしもべ』は生贄にはならないので、先に追放されたほうが『王のしもべ』で確定する。

 もし正体がバレるリスクを背負って『王のしもべ』が別の人物を生贄に捧げても、先の投票で生き残ったもう1人を追放すれば、確実に『王のしもべ』1人と『民衆』3人になる。


 そして次の生贄が捧げられ、残りは『王のしもべ』1人と『民衆』2人。


 間に一度、議論時間があるので、最後の議論と合わせてその間にもう一人の『王のしもべ』の正体を探ればいい……のだけれど。


「わたくしは〜、ゲームマスターからディオーラ様が『民衆』だと伺っていますわ〜。投票で追放されなければ〜、次の夜の時間に〜、ウォルフ殿下の役職をお伺いしますわ〜」


 と、リオノーラがのんびりのんびり、発言した。

 

 ーーー詰みですわね。


 ディオーラは、思わず目を丸くする。


「ぬぬぬ、ぬぁんでウォルフなのだ!? のんびり女!」

「殿下?」

「……リ、リオノーラ夫人」


 さらにワイルズが狼狽えて口にした言葉をディオーラが諌めると、彼が言い直す。


「えっと〜、先ほど正体を指摘された時に〜、ウォルフ殿下を見ましたので〜。わたくしは〜、本物の『預言者』ですから〜、ワイルズ殿下がウォルフ殿下の役職をご存じなら〜、それはおそらくウォルフ殿下が『王のしもべ』で〜、ワイルズ殿下の仲間だからですわ〜」

「完璧な推論ですわね。リオノーラ様を正とした場合は、ですけれど」


 ディオーラがそう口にすると、リオノーラはニコニコしたまま首を縦に振る。


「そうですわね〜、ですから〜、この後の展開次第ですけれど〜、わたくしとワイルズ殿下が退場した後に〜、どちらが正であるかを確定していただいて〜、ウォルフ殿下かディオーラ様を追放すれば〜、おしまいですわね〜」

「……すまない、リオノーラ。どういう意味だ?」


 レイデンがそう問いかけると、リオノーラはディオーラを見て首を傾げる。


「ディオーラ様であれば〜、お分かりかと〜」

「ええ。もし仮にリオノーラ様が『王のしもべ』であった場合は、ワイルズ殿下が本物の『預言者』となりますわね。その場合、リオノーラ様が庇ったわたくしの疑いが一番濃くなりますわ」


 リオノーラの宣言により、ワイルズとウォルフ、リオノーラとディオーラの間に関係性が生まれたのである。


 この四人を『王のしもべ』は生贄に捧げられない。

 捧げてしまうと、どちらが『預言者』であるかが確定してしまうからだ。


 ディオーラから見ると、自分を『民衆』と看破したリオノーラは『預言者』なので、ワイルズとウォルフを追放すれば勝ちである。

 残りのメキメル、オーリオ、レイデンが生贄に捧げられた場合は、ディオーラから見ると、残り五人の内リオノーラとディオーラ、そしてウォルフの役職が確定する。


 もし彼が『王のしもべ』なら、そのまま彼に投票して、残り3人の内1人でも支持を得れば、ゲームエンド。

 『民衆』の勝ちとなる。


 もしウォルフが『王のしもべ』でないとするのなら、『民衆』側であることが確定するので、残り2人にリオノーラ、ディオーラ、ウォルフで投票すれば勝ちとなる。


 のだが。


「も、もし仮に私が『王のしもべ』だとしても、何故ゲームマスターにウォルフの正体を訊くことになるのだ! 意味が分からんぞ!!」


 仲間まであっさり見破られたワイルズは、自分が失言していることにすら気付いていない。


 ーーー愚かですわねぇ、殿下。ゲームマスターに『尋ねる』と言っている時点で、リオノーラ様が『預言者』と認めているようなものですわよ。


 ディオーラは、思わず扇を広げて笑いを堪えつつ、ワイルズに再度告げる。


「リオノーラ様のおっしゃる通りですわよ。『ゲームマスターに誰の正体を聞いたのか』という質問の後に、ワイルズ殿下はウォルフ殿下をご覧になったのです。そのタイミングで見れば、誰の正体を知っているか丸わかりではないですか」

「ぐぬっ!?」

「フェイクであれば大したものですけれど。……まぁ、ワイルズ殿下ですから」

「何だその含みは!?」

「あーあ、まるで勝負になってねーじゃねーか。オレはワイルズに投票するぞ」


 当然のように、遊戯の条件をきちんと理解しているメキメルがそう告げて、オーリオも追従した。


「ですわね。明らかにリオノーラ様達の方が論理的ですわ」

「ありがとうございます〜。レイデンは〜、どうなさいますの〜?」


 問いかけられたレイデンは、リオノーラとワイルズの表情を見比べた後、ウォルフの方を見る。


「ウォルフ殿下は、『王のしもべ』であらせられるか?」


 あまりにもド直球の質問だった。

 普通なら、否定してしかるべき場面だけれど。


「そうだ!」


 と、ウォルフが力強く頷いた。

 それを受けて、婚約者のオーリオが眉根を寄せて頭痛を感じたようにこめかみに指を添える。


「ウォルフ殿下……それを認めてしまっては遊戯が成立しませんわ……」

「なんと!? そうなのですか!?」

「あなた、遊戯のルールをちゃんと聞いていまして?」


 結局。

 ストレートに投票でワイルズとウォルフが追放され、『民衆』側の勝利になった。


 ヘジュケは、そのやり取りの間中、堪え切れないように笑みを漏らしており。


「アトランテ直系の方々は、非常に素直なのですね」


 と、バカにした様子もなく、最後にそう口にした。

 

全く勝負になりませんでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アトランテ直系はエンジンはフェラーリなのにそれ以外はワゴンRですね笑
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