表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/76

あなたとなら幸せ。


 会いに行くと、ディオーラは本当にベッドにいた。

 座ってはいたものの、明らかに顔色が悪い。


 しかしワイルズは、やっぱり彼女を前にすると素直になれなかった。

 押し付けるように見舞いの花束を渡すと、ふん! と鼻を鳴らして指を突きつけた。


「見つけたぞ、お前の弱点を! 体の頑丈さはオレの勝ちだ!」


 ディオーラは、そんなワイルズに向かって眉尻を下げて悲しそうに微笑んでいた。

 何だかいつもと違う感じに、とてもイライラした。


「おい、なんか言えよ!」

「……ええ、殿下の勝ちですわね」


 愚かですわねぇ、と、ディオーラは言わなかった。

 なんだか他人行儀で、しかも負けを認めた。


 ーーーこんなの、ディオーラじゃない。


 ワイルズは思った。

 もっと生意気で、上から目線で、勝ち誇ったような顔をして。


 それで、鬱陶しいくらいに纏わりついてきて。


 ーーーこんなの、ディオーラじゃ。


「あっさり負けを認めるなよ! もっとあるだろ! 『あらあら、体が頑丈なのにわたくしに一度も勝てないんですのね』とか、あるだろ!?」


 ワイルズが吼えると、彼女は驚いたように目を丸くした。


「いいか、お前が来ないと全然詰まらないんだ! オレを退屈させるような真似をするな! 病弱とか言わないで、元気になれ! このオレの婚約者なんだから、それくらい簡単だろ!」


 ギュッと眉根を寄せたワイルズと、手の中にある黄色いヒヤシンスの花束を見比べて、ディオーラは小さく首を傾げる。


「殿下。……本当ですの?」


 ディオーラの目線と言葉の意味に気づいたワイルズは、カッと頬を赤くした。

 そのまま背を向けると「知らないぞ! 花言葉なんか知らないからな!」と、ドスドスと部屋を出て行こうとして。


 ドアの前で振り向くと、口元を緩ませているすっごく気に入らなくて、可愛い顔をしているディオーラに、吐き捨てるように口にした。


「お前が会いに来ないなら……こ、これからオレが会いに来るからなっ! 無理したせいで会えないなんて言うなよ!? 分かったな!?」


 そして返事を聞く前に、バタン! とドアを閉めた。


 ……見舞いの相手に対する不遜な態度や指差し、言葉遣い、足音を立てたこと、ドアを自分で閉めたこと。

 王族として礼儀が全くなっていないと、後で従者にめちゃくちゃ怒られたけど、どうでも良かった。


「そんな事より、ディオーラはあの後、どうだったんだ!?」

 

 と、気になっていたことを尋ねると、従者は怖い顔をしたが……すぐにため息を吐いて、答えた。


「泣いておられたそうです」

「え……?」

「殿下に嫌われていなくて、良かったと。……もう少し、優しくして差し上げたらどうですか。そして、人前での態度を改められませ。あれでは、皆との交流を始めた時に、殿下のせいでディオーラ嬢まで貶められることになります」

「ぬぐっ……!」


 礼儀作法や人との接し方、それがどういう影響をもたらすのかを、教師の役割も担っている従者にコンコンと諭されて。


「殿下は優秀です。やれば出来るのですから。ディオーラ様と共に過ごすようになられて、勉学や鍛錬が大変上達されました」


 ぐうの音も出ないワイルズに、彼は真剣な表情で言葉を重ねる。


「ウォルフルフ第二王子殿下は為政者には向かず、王弟子キーメキメル様は、まだ素養がお分かりになりません。この国の未来の為に、王太子として、またディオーラ様に対して恥ずかしくない立ち振る舞いを身につけられますよう、どうか、切にお願い致します」


 そう言って頭を下げられて、ワイルズはギュッと拳を握った。


「分かった。頑張れば、ちゃんとディオーラの為になるんだな!? 本当だな!?」

「間違いなく、なりますとも」

「じゃあ、さっさと教えろ! もう説教はいらん!」


 その後、ワイルズは、ほんの少しだけ変わった。


 ディオーラが登城するのではなく、ワイルズが会いに行くようになった。

 今まで、手をつけられない悪ガキだと言われていたが、表面上は大人しくなり、そのお陰で優秀な第一王子と呼ばれるようになった。


 でも、元気になったディオーラは、今まで通りになって、ワイルズは彼女に対してだけはどーしても、態度が改められなかった。

 ディオーラが、貶すだけではなくて、褒めてくれるようになって、ペットを一緒に飼ったり膝枕をしてくれるようになった。


 相変わらず彼女には負け続けだけれど、あんまり腹が立たなくなった。

 そしてある日、好きな花が変わったのだとディオーラが言い、花の名前を聞いて、ワイルズは不貞腐れたように顔を背けた。


 でも、ディオーラには照れているだけだとバレていて、凄く居心地が悪かった。


『わたくしの一番好きな花は、あの日、殿下がくれた黄色のヒヤシンスですわ』

 

 黄色のヒヤシンスの、花言葉は。



 ーーー『あなたとなら幸せ』。



 

というわけで、ディオーラとワイルズの出会い編でした。


大嫌い、会いに来るな、と怒られたことがとってもショックだったディオーラちゃん。


その後、ワイルズはディオーラに気遣うようになって、直接勝負することがなくなり、故に剣術でも負け星しかないというお話。(学校の総合武術大会にディオーラが参加した結果、決勝で当たってワイルズが手を抜いた、ということはありました)


不器用なワイルズくん、相変わらず愚かで素敵! と思われた方は、ブックマークやいいね、↓の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価等、どうぞよろしくお願い致しますー!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 可愛い!
[良い点] ワイルズ殿下が甘酸っぱい(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ