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フロンティア in the Frontier ~ブレテ島とマノミの狩人~  作者: よっしー
ファジールへようこそ
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日夲は主に4つの島からなる。危険な動物は最も大きい本州に集中している。フロンティアは本州の中でも、一番危険な地域に居を構える。保管施設からは車で5分の距離だ。


フロンティアに属する能力者は、サラリーマンである。9時から18時まで勤務し、その間に依頼をこなす。依頼がなければ、基本的に身体を鍛える。能力の向上は必須だ。新人は一定の基準を満たすまで、依頼を受けられない。ひたすら鍛える。その間も給料はもらえるが、過酷な鍛練に見合うかは分からない。依頼をこなせるようになれば、給料は跳ね上がる。


会社に戻ったナオミはPCと向き合っている。報告書を作成中だ。勤め人の義務である。ハルは素晴らしい才能を持っているが、まだまだ粗削りだ。実践をすることで課題が見え、成長につながると考えられる。将来が楽しみである。少々被害を出したが、ダイオウミミズクは無事捕獲。ナオミはカフェで持ち帰ったフローズンドリンクを飲んだ。


「お疲れ様」


背中に声をかけたのはユキエだ。開拓に夢中のキヨタカに代わり、フロンティアを仕切っている。彼女も能力者で、実力はナンバー2と言われている。キヨタカとはフロンティア設立以前からの付き合いで、一時は恋仲と噂されたが、即座に否定した。年齢は不詳である。ナオミは椅子を回して振り返る。


「お疲れです」

「あら、美味しそうね?」


ユキエは黒髪をハーフアップで結んでいる。細身のスーツで上品だ。来客もしばしばあり、フロンティアの顔として申し分ない。ユキエも何か飲み物を持ち、ナオミの横を通り過ぎた。


「STABAです。新しくできたとこ」

「奇遇ね。私も」


顔の横で振って見せる。ユキエはきっとチョコレート味だ。席に着いてカバンを置いた。キヨタカの居室はあるが、ユキエは平社員と同じ部屋で作業している。


「市の依頼はどうだった?」

「特に問題なく。詳細は報告書に書きました」


テツが事務室に入って来た。肩にタオルを掛けている。シャワーを浴びてさっぱりした様子だ。ユキエがテツに気付いた。


「テツ、ちょっといいかしら?ナオミも」


ナオミはドリンクを持って立ち上がる。テツは滴る水を拭いて、ユキエの席に集まった。


「ファジール共和国の依頼は覚えてる?」

「ナオミが参加したやつですね」


ファジール共和国は300余りの島々からなる。日夲の北にあり、飛行機で3時間ほどだ。赤道に近く、観光業が盛んである。フラシニア諸島の東部では有数のリゾートだ。植民地時代にサトウキビのプランテーションが始まり、それも主要な産業に発展している。近年では衣類の生産も活発だ。


住民は主に、先住民ファジール系と植民地時代の移民系に分かれる。独立以降も2つの民族間には軋轢がある。政治面で影響力のあるファジール系が人口の半数を占める。移民系は経済や技術に強い。政治的対立で何度かクーデターが起きているが、対立改善の姿勢も見せている。国内は安定に向かっているようだ。


そこで注目されたのが、ファジール共和国の東端にあるブレテ島だ。ファジール共和国で最大の面積を持ち、3000mを超えるビニマ山がある火山島だ。注目される理由は、未開拓なことである。凶暴な動物と険しい自然で、全くの手付かずだ。国としては開拓したい。


最近の調査で原住民の存在が確認され、接触が試みられた。開拓に慎重なファジール系は、原住民の文化や知識は開拓に有用と考え、原住民と協調路線を取っている。ナオミは以前、その接触に護衛として参加した。ユキエは手で髪を触る。


「進展があってね。次は現地調査したいって」

「現地調査ですか?」

「ええ。原住民と森に入って、本格的に調査するそうよ。その護衛役ね」


ナオミはブレテ島に行ったときを思い出した。彼らは自分たちをマノミと呼ぶ。マノミはいつから住んでいるかは不明だが、少なくとも数百年は経っている。彼らは川沿いに集落を作り、そこで暮らす。身体は頑丈で、警戒心が非常に強いが、文明人に対しては寛容だった。サバイバルの能力や知識も間違いない。おそらく氛を使う能力者もいる。ナオミはドリンクを持ったまま腕を組む。


「私とテツで?」

「うん。経験のあるナオミと、同期で実力のあるテツに行ってほしいの。来週から、期間は一週間」

「了解。任せてください!」


即答するテツにユキエは微笑み、ドリンクを手に取った。ナオミも了解と頷き、一口飲む。しかしユキエは持つだけで、飲もうとしない。


「ただね、まだ迷ってるの」

「何をです?」

「新人を一人、同行させようかと思って」


ナオミは一瞬動きを止めた。


「ハルですか?」

「そうよ。二人はどう思う?」


互いに顔を見合わせた。ブレテ島は未開の島である。その価値は高い。アメルティマとストラティカの周囲には、まだ未開の島は多い。しかしフラシニア諸島とサノース諸島からは遠く、開拓の需要は低い。諸島内はほとんど開拓されている。その状況でブレテ島は未開である。仮想大陸として、最も相応しいと考えられる。さらに原住民のサポートを受けて調査できる。恵まれた条件だ。テツに迷った様子はない。


「おれは良いと思うぜ。何かあったら、おれが守ってやる」


ナオミはテツを信用している。一緒に依頼をこなした回数も一番多い。テツと一緒ならハルも安心だ。


もちろん不安もある。動植物に対して不確定要素が多い。事前情報だけでは準備不足だ。前回とは違い、森に入る。どんな動物がいるかはほぼ分からないと言っていい。原住民がいるとはいえ、予想外に強い動物が出たら、守り切れないかもしれない。一度入って、情報収集してからでも遅くないだろう。


しかし、未踏の地へ入る経験は、何物にも代えがたい。特殊な条件だが未踏は未踏だ。ナオミも経験はほとんどない。だからこそ味わって欲しい。何の情報もなく、自分の力で未知をかき分けて行くあの感覚。能力者として大成するきっかけになる。経験は早い方が良いだろう。ナオミはテツに微笑み、ユキエを見た。


「私も良いと思います」

「分かった。ハルを同行させましょう」


ユキエは椅子を回し、PCにパスワードを打ち込む。


「詳細はまた連絡するわね。話しは以上よ」

「楽しみだな!」


テツはナオミの肩を叩く。ナオミはそうねと頷き、ドリンクを飲み切ってゴミ箱に捨てる。席へ戻ると、残っていた事務作業に着手した。


会社は2階建てで、1階には2階まで吹き抜けの道場がある。頑丈な設計でかなり広い。ハルは会社に戻ったあと、そこでダイオウミミズクの反省をしている。事務室は2階だ。ナオミは作業を終えると、階段を下りて道場に向かった。


道場は静かだ。激しい音に備えて、防音も完璧である。事務室に音が届くことはない。周囲の音も道場に届かない。自分自身と向き合える環境だ。氛の鍛練に最適である。ハル以外にアキラとその教育担当がいた。

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