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13

――4日後、ファジール本島付近の海上、クルーザーのルーフにて


「それじゃあ、乾杯!」

「乾杯!」


もう何度も何度も見ている、でもいつ見ても飽きない快晴の空に、小さくビールを掲げる。ああ、キンキンに冷えて、ごくごくごく、ぷは、身体に、しみる。この一週間、本当に色んなことがあったけど、ファジールの案件はいったん、区切りがついた。


あの獣が敵の頭をかみ砕いたあと、獣はそのままどこかに消え、敵はたぶん、死んだ。後日の捜索では頭は見つからず、いくつか発見した触手の残骸も、襲ってくるような動きは当然しなかった。きっとあの頭が操っていたのだろう。


「ユキエさんは、本当に、傷一つないですね」


ユキエは大胆な青のビキニで、この、年齢は絶対に教えてくれないけど若々しい小麦の肌と、彫刻のようにビキビキ浮き上がった筋肉には、あのとき触手で殴られた形跡は、微塵も見られなかった。


「当然よ。肌に傷を付けているようじゃ、まだまだ半人前ね」

「は、はい。もっと、がんばります」


獣が消えたあと、ナオミたちはハテマの集落にすぐ戻ったが、その帰り道は、地図を見る必要がないほどの、森の変化が起こっていた。それは、敵が足元の木々をなぎ倒していった、という感じの変化ではなく、たぶん、敵は森のエネルギーみたいなものを吸収して、触手の攻撃に使っていたようで、敵の通った跡は植物がボロボロだった。もちろん集落も酷く、巨大化するときにたくさん使ったためか、特に被害が大きかった。それでも人的な被害はほとんどなくて、本当に、幸運だ。


「ごくごくごく、ぷはっ!」

「ちょっと、ハル、飲み過ぎ」


さらに幸運だったのは、集落がボロボロで、あの木の家もなくなってしまったのに、ハルの治療を再開してくれたことだ。そしてもっと幸運なことに、ハルは2日間の治療の末、意識を取り戻した。


「もう平気ですよ。ほら、」


それに、全くもう、えっと、ハルがこうして逆立ちしているように、傷の回復はとても早くて、治療が終わった直後にはもう、普通に歩ける状態だった。まあハテマの治療は、傷の回復も促していたかもしれないけれど、とにかくハルが、戻って来た。


「また調子に乗って、」

「うわぁ、ハル君、すごい!」


シシリアが喜んでいる。ハルはシシリアをナンパしたとき、ナオミの知らないところで連絡先を交換していたようだ。ハルのことはニュースにもなっていたので、シシリアが心配して連絡をしたらしく、ハルは成り行きで?このお疲れ会にシシリアを呼ぶことになった。もちろん、カリンも一緒に来ている。


「いやー、今日はべっぴんさんがいて、驚いたな」

「あれー?ボラボラさん、それはつまり、私たちはべっぴんじゃないってこと?」


ユキエが肩を組んで来た。変なのに巻き込まないでほしい。ボラボラは手を揉んでいる。


「とんでもございません。こちらにおられますのは、大人の魅力にあふれた、」

「いや、もういいから」

「そう言うなって。嘘じゃないぞ。なあチャンゴ、二人は美人だよな?」

「ああ。おれはナオミがタイプだ」


まさかの告白に怯んだが、ハテマとファジールの話し合いについては、敵が暴れまわったのでしばらく中断された。現在はまた再開し、ボラボラとチャンゴ、特にボラボラはその話し合いに積極的に参加している。が、まだ協議中だ。どうやら、未知の敵の被害にあってしまったので、それで話しがややこしくなっているらしい。


「おーい、ナプー、お前もこっちにこいよ!」

「いや、いい」


ナオミはキンキンに冷えたビールを持って、ナプーの隣に行く。


「ビール飲む?」

「いや、いい」

「じゃあ、お菓子は?」

「食べよう」


あのとき、ナプーが氛を限界まで使い切ってしまったあと、アキラが必死に回復を試みたが、ナプーの状態は、改善しなかった。むしろどんどん悪化しているようで、すぐに病院まで運ばれ、そのままずっと寝たきりだ。でも、アキラが付きっ切りで回復を行い、無駄かもしれないがナオミも回復や看病をして、ようやく昨日、目を覚ました。今ではこうして、食欲がとどまる所を知らず食べまくり、これはもう、すっかりいつものナプーである。ナオミは机に置いた携帯を取って来た。


「ナプーはこれから、どうするの?」


携帯の声を聞くと、ナプーは食べる手を止めた。


「トキリに、帰る」

「そう」


ナオミはビールのフタを開け、ゴクゴクと半分ほど飲み干す。心臓が、ドキドキする。


「じゃあ、その後は?ずっとトキリに、いるつもり?」


ナプーは少し、考えているようだ。酒の力を借りて、一番聞きたいことを、聞いてしまった。またゴクゴクと飲み、もう、最後まで、ぷはっ、ふう、どうやらナプーも、お菓子を食べ始めたようだ。バクバク食べて、遠くを見ている。ナオミもお菓子をつまむ。おいしい。


「ナオミ、」

「な、なに?」

「まだ、どうするか決めていないが、心残りは、無くしたい」


心、残り?それって、ナプーはナオミに近寄った。


「パイオニアだ」


ああ、やっぱり。ナプーが言っていたパイオニアの件は、すぐパイオニアに問いただしてみたが、何と言うか、うまくかわされたというか、うやむやにされてしまった。あの3人、本当に掴みどころがなくて、まあこっちも証拠があるわけじゃないから仕方ないけれど。


でも、最終的にはハルも回復したし、パイオニアがいなければハルを救えなかったから、うーん、一応、結果オーライではある。が、でもやっぱり、真実は明らかにすべきだ。被害者はむしろ、フロンティアというよりマノミやハテマ、特にナプーは、苦しかっただろう。彼らのためにも、行動しなければ。


「そうね。また必要なときは、力を貸して」

「ああ」


それにしても、海は底が見えるほど綺麗で、この、小さな無人島のビーチはなんて、美しいのかしら。


「ナオミさんも、あそこのビーチに行きましょう!」

「あ、ちょっと、」


あのバカ、ルーフから海に飛び込むなんて。あ、シシリアとカリンも、フロンティアまで。仕方ない。


「ナプーも行こ!」

「いや、う、分かった」


ナプーを海に放り投げ、ナオミもすぐに飛び込んだ。

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