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マノミとハテマが集まって、話している。言葉は、どっちの言葉だろう、同じではないが、似ているらしい。でも、やっぱり、見た目は全然違うし、たぶん中身も違うだろう。


ハテマはけっこう几帳面で、伝統を尊び、何というか、信仰もある。色々な点で、マノミとは真逆な気がする。しかし、だからこそ、協力する意味が生まれ、お互いの言葉を覚えて交流したり、一緒に危機を乗り越えたり、時には惹かれ合った。長老の色恋を考えると、数十年前には密なコミュニケーションが取れていたので、交流の歴史は相当に長い。


「ん、終わったみたいね」


ナプーがこちらにやって来る。


「だいたい分かった」

「そう。じゃあ早速、教えてもらえる?」


ナプーはポツポツと話し始めた。ユキエが逐一翻訳して、まずハテマに襲われた日の早朝、まだハテマが寝静まっているころに、ホトムが天空から降りて来て、ハテマに啓示を与えた。


「ホトムを使う異端者が外からやって来て、島を破滅へ導くので、彼らを島から排除しろ、という啓示を受けたみたいね」


早朝のまどろみの中、啓示は神秘的なイメージとして、ハテマ全員の前に現れ、自然とハテマはそれを信じ、強烈な怒りと共に、異端者という穢れを浄化しなければならない、という思考になった。穢れを清める祭壇を準備し、マノミから異端者を奪う算段をして、実行に移した。


「その後は、例の通りにナオミたちを捕まえ、祭壇に運び、儀式を行おうとした。でも、島の奥に逃げられたから、一度退いたようね」


ハテマはつまり、ビニマ山を崇めている、ということなので、島の奥には入らなかった。その後、色々と捜索を続けたが、結局は諦めて、集落に戻ることになった。マノミに対しても、異端者を受け入れたということで、絶交の意味でここを離れ、昔の集落に移動した。しかし、そのころになると、ハテマの熱は徐々に冷めていて、正気を取り戻したというか、おかしな点に気付き始めた。


「啓示っていうのは、特殊な訓練を受けた人にしか、降りて来ないものらしいの。それが全員同時に、しかも同じ啓示を受けるっていうのは、おかしいみたいね」


それに、あそこまではっきりしたイメージはなく、通常は、イメージというより言語的で、静かに訴えて来るものらしい。口伝として残っている歴史の中にも、こういったイレギュラーはなかったそうだ。つまり、色々な点でおかしかったにもかかわらず、当初はそれに気付けなかった。そして、徐々に自らの過ちを自覚し、いてもたってもいられず、ここに戻って来たそうだ。


「話しは以上だ」

「これで終わりよ」


ナプーは話し終えると、振り返ってハテマを呼んだ。ぞろぞろと、こちらに近づいて、あいつも来て、ナオミとテツの前で止まる。これは、ナプーが何か言ってる、ソーリー?そうか、謝罪か。ハテマは右膝を付き、右手を胸に当て、頭を下げた。


「何だ?謝ってんのか?別にいいって」

「うん、もういいよ」


ユキエがナプーに伝え、ハテマは顔を上げた。まだ詳細は分からないが、どうやら本来のハテマには悪気はなかった。ちゃんと非を認め、謝罪もできるし、やっぱりマノミと交流しているだけある。ん、視線だ、あいつが見ている、目が合って、向こうはすぐに逸らした。意外とシャイなのか。


「えっと、ナプー、長老はどなた?」

「彼だ」


ナプーが指すハテマは、どこかで、見たような、でも思い出せない。


「おい、ナオミ、」

「何?」

「あのハテマは、たぶん、おれが蹴っ飛ばしたやつだな。祭壇で」

「あー、」


思い出した、あのときの、スッキリした。


「その、啓示を聞ける、特殊な訓練を受けた人っていうのが、長老なの?」

「そうだ」


あれは長老だったのか。啓示を聞ける唯一のハテマだ。しかし、そうなると、やはり一番気になるのは、最初の偽の啓示である。これがどうやって出て来て、なぜそれを啓示と思ってしまったのか、正直、見当が付かない。これについて、フロンティアとナプーで会話をしていると、ワタルが声をかけて来た。


「議論はその辺にしませんか?みなさんの目的は、別にあるでしょう?」

「それもそうね。まずは本題から行きましょう」


ユキエはナプーに合図し、ナプーは長老と話し始めた。ふう、ちょっと一息、あ、カメラを回さないと。ユウジのところへ行って、カバンからカメラを出した。撮って、いいのかな、周囲をちらちら見て、カメラを回す。中心の方は撮りづらいから、壁に飾られた絵を撮ってみる。これは、たぶん動物の絵だろうが、抽象すぎて、よく分からない。隣の絵は、これは鳥だ。雰囲気が全然違って、他の絵を見ても統一感はない。それに、この石のキャンバス、凹凸があって、何やら彫刻っぽい跡もある。絵と一体の作品みたいだ。あっちのやつも見てみよう、


「おい、ナオミ」


ユウジに呼ばれた。振り返ると、みんなが集まり、入口を向いて、どこかへ行くのか。ナオミは駆け寄った。


「彼の祖母のところへ行くわよ」

「ああ、そっか、了解です」


あいつを見ていると、また目が合い、すぐに逸らして、いや、ちらちらこっちを見ている。たぶん、嫌われてはいないようだ。顔面をマジ蹴りしてやったのに。ナプーは長老に耳打ちすると、互いに耳打ちし、頷いている。


「長老に案内してもらう。ついて来い」

「さあ、行きましょう」


外へ出ると、長老は家の壁に沿って歩き、ちょうど入口の裏手辺りで止まった。こちらをちらっと見て、左手を上げる。これは、指で方向を示しており、その先には、なんとまあ、立派な家が建っている。


支柱は、えっと、8本もあって、それぞれが太く、土台の位置は他の家より高いし、大きさも倍くらいある。入口は梯子じゃなく丁寧に階段が組んであり、というか、全体的に丁寧で、どう考えても、偉い人の家である。


「あそこにいる。少し、ここで待っていろ」

「分かったわ」


ユキエに言われ、少し待つ。長老とナプーが立派な家に入っていき、しばらくしてから、ナプーだけ出て来た。あれは、フロンティアを呼んでいるようだ。ぞろぞろと移動し、丁寧な階段を上って、ナプーについて中へ入った。


これが、あいつの祖母の家、四隅はそれぞれ寝床っぽくて、中央は囲炉裏と簡易台に食材が散見され、所々に小物や道具が不揃いに、でも違和感なく置かれていて、とても広い空間なのにすごく、生活感のある部屋だ。こっそりカメラを回しちゃおう。

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