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「それじゃあ、ハテマを見つけましょう。私たちも、捜索に協力するわ」
「了解です」
「おしっ!すぐに見つけてやる」
ユキエは最新の捜索状況を確認した。やはりハテマは、元の集落に戻るつもりだ。大所帯で移動し、おそらく非戦闘員を含むハテマ全員、数十分以内には到着するペースだ。軍はハテマ集落の近くに拠点を置き、対応に当たるらしい。
「私たちも、拠点に向かいましょう。準備はいい?」
「いつでもOKです!」
「今回は、僕も行きます」
「じゃあ、おれも、」
「ボラボラさんはダメ」
当たり前だ。しつこく粘ってもダメ、最後は全員からダメ出しされ、ナプーにも止められて、ジオンには頼み込まれて、ようやくボラボラは頷いた。
「一応、カメラは回しとくから」
「分かったよ。任せたぞ」
さて、そろそろ出発の雰囲気だ。ナプーも当然のように準備している。今回は、ハテマとの会話でナプーは必須だ。それに、手負いのフロンティア、特に私、戦力はやや不安だが、ユキエがいる。ブレテ島にどこまで通用するか、そして万が一、ハテマにも通用するのか。気になる。周囲を見ると、みんな準備万全だ。
「さあ、行くわよ。ナプー、」
「分かった。ついて来い」
ナオミたちはトキリを出発した。この感じ、ナプーが樹上で先導するのは定番になっている。怪我人に配慮してか、進むペースはかなり遅かった。が、それでも、森を走るのは、きつい。背中が、あつい。やはり無謀だったか、いや、ここは気合いだ、自分に喝っ!しばらくすると、痛みは引いて来た。順調だ。
集落までは20km以上あるが、道中はマノミやハテマの通路みたいになっていて、とても走りやすい。そのためか、危険な動物も少ないようで、軍もこの道を使っている。しかし、これは、ところどころ、道幅が広すぎて、マノミというより、軍が拡張したようだ。ぬかるみには、大量の足跡が、規模は大きい。
「ユキエさん、あと、どれくらい?」
ユキエが携帯のGPSで、現在地を確認している。
「えっと、あと、半分くらい!」
半分か、氛は、十分もつだろう。またユキエが携帯を見て、電話があったようだ。少し話して、電話を切った。
「ハテマが、集落に着いたって!」
「えっと、軍は、無事なんですか?」
「ハテマに、争う気はないって!」
状況はよく分からないが、早く行かないと。ユキエがこの情報を伝えると、ナプーはペースを上げた。速い、けど、もう興奮で、痛みは気にならない。しばらく夢中で走っていると、前方でユキエが速度を落とした。
「ナプー、ちょっと止まって!」
ユキエはゆっくり止まり、ナプーも木から降りて来た。どうやら、もう着くらしい。ハテマは戻っているが、刺激しないよう拠点を経由して、集落へ向かう。拠点はここから北東にあり、少し進むと見えて来た。これは、拠点というか、隊員が十数名集まって、待機しているだけというか、マノミもいない。集落に出払っているようだ。近づくと、隊員が一人、前に出た。
「フロンティアの皆さんですね、こちらです」
「ありがとう」
移動中、簡単に説明を受けた。マノミとパイオニアの協力を得て、ハテマが戻る前に拠点を構えた後、予想通りハテマは集落に戻ったそうだ。そのとき、どうやらハテマに拠点のことは気付かれており、戻った後すぐに、ハテマは拠点に接触して、そして、争う気がないと、告げたらしい。今は、何が起こったのか、事情を聞いている。
「ハテマの様子はどうですか?」
「とても落ち着いていて、その、報告にあったような様子は、見られません」
とにかく、自分の目で、確かめよう。しばらく歩くと、前方に人影が見えて、それと他に、あれは、住居か。四本の支柱で、地面から数十センチ上に土台を作り、居住スペースは、テツが立っても余裕ありそうな空間を、木材で丁寧に作り込んで、屋根は巨大な葉を敷き詰めて、なんとまあ、住みやすそうな家だ。ハテマは見かけによらず、繊細かもしれない。
ちらほらと、ハテマの男性もいる。目は普通、ときおり眼光鋭いが、だいたいは穏やかで、当時の面影は、ほとんどない。それにハテマの女性は、体は大きいけれど、出るとこは出て、引っ込むとこは引っ込み、隠すとこは隠して、みんな女性らしく、柔和で、ナプーの方がどう見ても男勝りだ。本当に、これがあの、
「おーい、なっちゃん!」
「ん、アヤノ?」
他に、タケルとリョウコも、アヤノが駆け寄って来た。
「みんなで来たんだね。あ、ハル君のことは聞いてるよ、」
「そう」
「初めまして、あなたがアヤノさん?」
ユキエはパイオニアに挨拶し、企業間の世間話?みたいなおしゃべりの後、ハルについて感謝を述べた。パイオニアは、ハルの状況をかなり知っているようで、ハルの検査結果も知っていた。まあ、知られて困るものではないが、バイロに聞いたのだろうか。
「それで、フロンティアのみなさんは、どうしてここに?」
「実は、ハルを治療できるかもしれない人が、ハテマの中にいるの」
「ほう、なるほど」
ん、あの仏頂面のタケルが、興味津々か。
「えっと、ハテマの長老と話しがしたいんだけど、」
「分かりました。こちらへどうぞ」
タケルに案内されて来たのは、集落の中央にある、一番大きくて、不思議な建物だ。
「何じゃあれ?家から木が生えてるぞ」
見た目はテツの言う通りだが、家から生えているというよりは、大木の周囲に家を作ったようだ。他と違い、支柱の上には作られておらず、形は円柱で上部が少しすぼまり、周辺には等間隔でたいまつが灯っている。何となく神聖な、空気も少し、違うようだ。
「あの中に、長老と、ハテマの主要メンバーがいます」
タケルがボソッと言った。ということは、たぶん、あいつもいるだろう。額の傷が、いてて、ナプーをちらっと見ると、目が合った。ふう、柄にもなく、緊張している。タケルは玄関というか入口の手前まで行き、のれんのような紐を、持ち上げる。
「さあ、どうぞ」
「ありがとう」
中へ入ると、目の前に大木がねじれて、それを彩る赤黄緑の装飾品の数々が、まるで祭壇のように、厳かに、所々たいまつが灯って、鎮座している。天井は4mくらいだろうが、中心を突き抜ける大木は高く、より高みに登っていく気がして、背筋が伸びる。
地面は、土のままだ。周囲の壁には、石のキャンバスだろうか、何かの絵が描かれて、等間隔で飾られている。ハテマは、大木の周りに集まっているようだ。数は、6人か、こちらを見て、あの中に、いた。隊員の方は数人、通訳っぽいマノミが2人いて、隊員の一人が近づいて来た。
「フロンティアの方ですか?」
「はい。状況の方は?」
やはり、別人に見える。たぶん中学生でもおかしくない。ん、ナプー、説明が始まるとすぐ、ナプーはどこかへ歩き出した。これは、まさか、あいつのところだ。そのまま近づいて、向かい合い、何かを話し始めた。気になる、二人が気になって、偀語の説明が入って来ない。あ、もう一人、全然理解できないやつがいた。
「ユキエさん、おれにも説明してくださいよ」
「あー、ごめんね。でも、通訳があいまいで、こっちもよく分からないのよ」
そういえば、ファジール語はナプーとジオン以外、あまり使えなかった気がする。
「ユキエさん、ナプーにお願いしましょう」
「それが良さそうね」
それにしても、ナプーはすぐにあいつと話して、殴られたことは、あまり気にしていないようだ。むしろ、話している様子は、何となく、仲が良さそうで、嬉しそうに見えた。




