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ブレテ島は、えっと、3回目、いや、最初を入れて4回目だったか、色んなことがあり過ぎて、その密度が何回目かを狂わせる。何だか、ブレテ島には行ってばかり、帰りの記憶がほとんどないので、今度は普通に、怪我なく帰って来ることを目標にしようか。昼過ぎの太陽は高く、熱く、海はやっぱり綺麗で、その向こうに島が、また、近づいて来る。


この船は軍用の小型艇だ。クルーザーより少し大きくて、安定して、速さはどうだろう、安定している分、ちょっと遅く感じられるが、全身に受ける風は強い。しかしまあ、外は鮮やかなブルー一色で、中は見事にグレー一色、何というか、目が疲れる。


フロンティアは全員乗っている。アキラもいる。あんなことを言われたら、行かずにはいられないだろう。もし本当に菌を消し去ることができるなら、これは、すごいことになる。ハルを救うだけじゃなく、たくさんの人を救えるかもしれない。側面の手すりに掴まって、全身に風を受ける。隣のアキラが壁になっている。


「アキラさん!」

「なんですか?」

「アキラさん的に、ハテマの回復能力は、どう思う?」


アキラの髪が乱れている。意外と、おでこは広い。


「様々な、毒や病気に、対応できそうなので、病原体などに効く薬を、作るというよりは、そのものを取り除くような、能力かもしれないですね!」

「確かに!」

「でも、治療には、やっぱり時間はかかると、思います!何か、治療に制限が、あるかもしれません!」


なるほど、制限か。ハルの治療に問題なければいいが、いずれにしても、まずは長老だ。それで、聞いてみて、実際にあったとしても、次はハテマの説得か。あまり期待しない方が良い。


小型艇は進み、ジガリス川に入った。河口付近は、特に変わった様子はない、が、しばらく進むと、似たような小型艇が見え始め、沿岸には物資が積まれている。人もちらほら、恰好は、たぶん完全武装だ。バイロが言っていた通り、ジガリス川は一応、軍の支配下にある。ナプーは、マノミは、これを見てどう思うだろうか。ちらっとナプーを見ると、壁にもたれて、腕を組み、目は、閉じていた。


軍の支配下といっても、途中まではあまり見られず、トキリ周辺になって、ぐっと規模が増えた。トキリの傍まで来ると、何だか、物々しい。一回り大きい船もあって、ナオミたちはその横に停泊し、ブレテ島に降り立った。ふう、周囲に大量の物資だ。こんなに必要なのか。


「トキリはどっち?」

「こっちです」


ナオミが先導し、物資を避けて、川沿いを歩き、森に入ったが、道中にマノミはいない。隊員ばかりとすれ違って、トキリの入口に着いた。お、あの好青年は、


「ジオン!」


ナプーが先に、呼んでしまって、ナオミの部屋着で走り出した。ジオンは驚くだろう。


「彼が通訳のジオンです」

「あら、イケメンね」

「マノミには、人気ないみたいですけど」

「へー、」


トキリの中は、割と普通だ。もっと軍が駐屯していると思ったが、隊員をちらほら見るだけで、他はいつも通りである。ナオミたちが近づくと、ジオンは振り向いて、笑顔で手を振った。


「初めまして、ユキエです」

「ジオンです。ハルのこと、聞きました。必ず助けます!」

「ありがとう」


そうか、ジオンはハルに救われていた。このやる気、この笑顔、ハルがピンチなのに、前向きな男だ。ユキエはハルの状況を簡単に共有して、本題に入る。


「長老とお話しがしたいんだけど、」

「はい、こっちです。ついて来てください」


ジオンの後ろを歩く。トキリは、そういえば、ハテマに襲われて以来、来ていなかった。被害はなさそうで、子供も遊んで、中央の焚火は燃え上がり、安心だ。でも、何だろう、大人が多く残っている、気がする。ハテマに備えているのか。ん、あの後ろ姿は、


「ボラボラさん!」

「おう、お前たちも来たのか」

「うん、長老に用事があってね」

「長老に?」


事情を説明すると、やはり、ボラボラもついて来た。ジオンは再び歩き出し、中央の共同スペースを抜けると、あれは、長老だ、家の中に座っている。こちらに気付いて、


「お香の、匂いね」

「あ、すんすん、そうですね、これです」


長老は立ち上がり、ナプーが駆け寄った。あれは、驚いて、いるのか、いや、微笑んでいる。長老は、とても寛大だ。ファジールの訪問を受け入れ、ハテマ捜索に協力してくれた。でも、なぜこれほど、長老はナプーと一緒に家から出て来た。


「初めまして、私、フロンティアのユキエと申します」


ナプーが長老に耳打ちした。次は長老、またナプーと何度か往復し、次は長老が、前に出た。


「ジオン!」


うるさ、長老がジオンを呼んで、寄って来たジオンに耳打ちし、ん、またこっちに戻って来た。


「長老が、誰にも話したことない内容なので、その、一度、ナプーと僕で話しを聞いた後に、みなさんに、お伝えします」

「分かりました。ありがとう」


なるほど、長老は、他のマノミが知らないトップシークレットを、部外者のハルのために、教えてくれるようだ。いや、もともと、部外者ではないのかもしれない、ナプーの祖父が来たときから。そういえば、もしナプーの祖父が生きていれば、長老と同年代だろう。仲が良かったに違いない。


3人は少し、話し込んでいる。終わるまで自由時間となり、ナオミはトキリを散歩する。狩りに行かず、家にいるマノミが多い。あれは、なるほど、食べ物が供給され、それを食べているようだ。美味しそうには、見えない、が、きっと徐々に慣れて、文明と交わり、マノミはこれから、どうなってしまうのだろう。


「おーい、話しが終わったぞ!」


テツが手を振っている。急ごう、痛っ、背中が。ナオミはゆっくり早足で戻ると、みんながナプーたちを囲んでいた。長老は、もう家に引きこもったようだ。


「すまない、待たせてしまった」

「いいのよ。積もる話もあったでしょ」

「いや、いつもの長話しだ」

「ははっ」

「ふふ」


ボラボラとユキエが笑っている。そうか、長老の話しはいつも長いのか。いったいどんな話しをするのだろう。すごく、気になるが、やっぱり聞きたくはない。


ナプーが長話しだったものを淡々と、おそらく簡潔に語っている。ユキエは何度か頷き、驚いて、すぐにこちらを見た。これは、もう終わったのか、本当に簡潔な話しである。


「ナオミ、あなた、ハテマの男に殴られたのよね?その、殴ってきたハテマの家系は、どうやら特殊みたいで、治療に関するホトムが使えるらしいの」

「まさか、あいつが?」


ユキエは首を振った。


「いいえ、治療のホトムは、なぜか女性にしか使えないの。しかも、毒を治せるほどの能力者はごく稀で、今は、殴ってきたハテマの祖母が使えるのみよ」

「祖母、ですか」


特殊な血を引くハテマの女性、いったいどんな姿か想像つかない。まあ、取り敢えず、あいつじゃなくてよかった。それにしても、なぜ長老はそんなことを知っているのか、ん、ユキエが、ナプーに話しかけて、またボラボラと笑っている。


「ふふ、長老の色恋があったみたいよ。その祖母と」

「そっか、それで色々と知っていたんですね」

「ええ。長話しの原因ね」


長老も若いころは、やんちゃだったのだろう。別の部族の女性で、しかも特別な、きっと長老も特別だから、お互い惹かれたのかもしれない。これなら、ちょっとだけ、長話しでも聞いてみたい。ユキエはまたナプーと話し、ジオンとも話して、こちらを見た。

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