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「はっ!」


薄暗い部屋、汗が、気持ち悪い。全身が、痛い。ここは、病院のベッドだ。時計を見ると10時半、ぐっすり眠ってしまった。ナオミはベッドから起きて、水を一口、しみる。立ち上がって、ナプーとテツの様子を見た。よく寝ている。ユウジは、もうベッドにいなかった。


昨日はナイラ島に着いて、そこからの記憶が、曖昧だ。確か精密検査と治療を受けて、シャワーを浴びて、そのまま寝た、んだっけ。頭が死んでる。そうだ、朝日を浴びよう、窓際に寄って、分厚いカーテンを少し開ける。良い天気、それに元気の出る街並みだ。ナオミはベッドに戻り、携帯でユウジにチャットした。ブルッ、はや。


「3階の、ロビー、」


思い出して来た。チャットを返し、部屋を出る。確か3階には集中治療室があって、ハルはそこにいる。見た目は古臭い病院だが、医療設備は幸運にも整っており、本島まで行かずに済んだ。本当に、幸運だった。


エレベーターで3階まで降りると、目の前は広いロビーだ。肘掛け椅子が綺麗に並んで、最後の列の左奥に、数人が立って話をしている。見つけた、ユウジに、ユキエ、アキラ、ボラボラとバイロもいる。近づくと、バイロが振り向いて、嬉しそうだ。


「ナオミ!」

「どうも」

「体は、もういいんですか?」


偀語を使っている。あ、ボラボラのためか。


「はい、何とか。あの、ハルは?」

「容態は落ち着いたそうですが、まだ意識は戻ってません。例の微生物のこともあるので、今は精密検査中です」


生きてる、よかった。ひとまずは安心だ。


「あ、すみません、話しの途中でしたか?」

「いえ、私も来たところで、大した話はしてませんよ」


バイロは最初から話してくれた。バイロによると、ブレテ島の部族と協調路線を取っていたファジール系は、今回の事件をきっかけに、開拓関連で影響力を失ったらしい。確かにハテマのインパクトは大き過ぎた。あれじゃあ、協調もくそもない。


「逆に移民系が息巻いています。ここぞとばかりに声を上げ、開拓の主導権を奪うつもりです」

「でも、どうやって?簡単に奪えるものなんですか?」

「もちろん簡単じゃありません。ですが、手始めとして、ハテマ捜索の名目で、軍をブレテ島に駐屯させました」


ボラボラがお腹を揺らし、一歩近づく。


「しかもな、ハテマの悪行をこれでもかってほど強調して、駐屯の規模を増やしやがった。いくらブレテ島が危険でも、たった一つの部族に、あの規模はない。まるで戦争だぞ」

「今、ジガリス川は、ハテマ捜索の拠点になっています。トキリ周辺までは、ファジール軍の支配下でしょう」


戦争か。本気でハテマを探し出すなら、そのくらいは必要だろう。


「それにしても、ハテマのためだけに、よく大規模な軍を派遣できましたね。救助が終わった後は、無視することもできたのに」


バイロの顔が強張った。


「たぶん移民系は、さっさとブレテ島を更地にして、近代化を図りたいんでしょう。そのために、ハテマを利用して軍を置き、開拓に足る力を見せつけたいんです」


ボラボラの腹がまた揺れた。


「それに、マノミやハテマを、国内の部族と同じように扱うつもりだ。まあ、それについては賛成だけど、移民系の良い宣伝に使われちまった。野蛮なハテマは武力で制圧し、弱者のマノミは保護して管理下に置く、ってな感じだ」


なるほど、これが政治の駆け引きか。しかし移民系は、本当に上手く立ち回った。事件発生から軍の駐屯まで、全く抜かりない。


「それで、肝心の捜索は順調なんですか?」

「マノミはハテマと交流があったので、マノミに協力してもらって、ハテマの集落に行ってきました。ですが、もぬけの殻でした」

「逃げた、のかな?マノミの報復を恐れて」


でも違和感がある。あのハテマなら、こそこそ逃げ回ったりせず、堂々と迎え撃ちそうだ。うーん、考えても分からない。そういえば、ユキエがフロンティアTシャツを着ている。すごく、レアだ。ユキエは腕を組み、左手で頬を触った。


「いずれにしろ、捜索は難航しそうね。やみくもに探しても、見つかりっこないわ」

「方法は検討しています。一つは、ハル君を見つけたときと同じです」

「そっか、パイオニア、」


彼らがいた。アヤノの能力で、地図から敵の位置を把握できる。たぶんレーダーのように氛をスキャンして、ハテマっぽい集団を地道に探すのだろう。時間はかかるが、ないより全然マシだ。


「他にはあるんですか?」

「正直なところ、これしか現実的な方法はありません。実は、マノミの協力なしで強引に捜索したんですが、すぐに被害が出てしまいました。死者がいなくてよかったです」

「そう、ですか」


当然だ。結局のところ、マノミがいなければ、ブレテ島は歩けない。奥地なら、マノミがいても歩けない。


「捜索範囲は広大ですが、協力できるマノミはごく少数なので、どうしても範囲を絞る必要があります。そのためには、パイオニアに頼るしかないのが現状です。まあ、移民系の意向で、マノミの協力がない部隊も捜索はしていますが、進捗が遅すぎて、全く期待できません」


パイオニア頼みとなると、時間がかかりそうだ。ナオミはユキエをちらっと見る。目が合う、


「いやいや、あなたはダメよ。さすがにフロンティアは動けないわ。私が行っても、殴ったり蹴ったりしかできないし」


殴ったり蹴ったり、それは十分役に立つだろう。バイロも少し笑っている。


「捜索のことは、我々に任せてください」

「そうですね、分かりました」


あ、ぐー、お腹が、ぐー、


「あはは、」

「何か食べて来たら?」

「そうします」


ナオミは席を外し、一度部屋に戻る。体は激痛でも、お腹はちゃんと減るようだ。いたた、背中の痛みが増している。エレベーターで5階段に上がり、背筋はピンで廊下を歩く。曲げると激痛だ。


部屋に着き、扉をゆっくり開ける。あれは、ナプー、窓際に立って、外を見ている。ベッドに、テツ、いびきがうるさい。静かに近づいて、と思ったが、すぐにナプーはこっちを見た。


「おはよう。体はどう?」

「問題ない」


ナプーはグレーのショートパンツに、またお腹で結んだ、白のTシャツを着ている。ナオミの部屋着だ。


「そっちはどうだ?」

「私?問題ないよ」


結びたいほどサイズが大きいのか、それとも、おへそを出したいだけか。割とぴっちり目のTシャツだったのに、また結んで、それがショックなわけではないが、やはりナプーのサイズは、かなり小さい、のか。ぐー、何だ、ぐー。目の前から、ぐぅーー、


「ふふっ」


つい笑ってしまったが、ナプーは真顔だ。ぐうーうー、いやいや、鳴り過ぎ、真顔なのに。ナオミは携帯を出す。


「お腹、空いた?」

「そうだな」

「何か食べに行こ、外へ」


ナオミは外を指差した。反応は、どうだろう、変化が小さい。ナプーにとって初の外出だが、あまり興味はなさそうだ。


「分かった、行こう」

「了解。それじゃあ今日は、私がご馳走するね」


トキリの、ゴリラと恐竜を思い出した。味は、だいたいは美味しかったし、色々と、脳裏に焼き付いて、有意義なご馳走だった。ナプーは、何を感じてくれるだろう。ナオミはベッドの下からカバンを出し、中をあさる。


「ナオミ、」

「ん、何?」

「ハルは、大丈夫なのか?」


ナオミは手を止め、状況を説明した。なるべく分かりやすく、現代の医学や医療技術についても触れてみると、ナプーは興味深そうに聞いた。こういう話題は好きそうだ。しかしお腹が鳴っているので、中断してカバンをあさり、サンダルを取り出す。


「はいナプー、これを履いて」

「なぜだ?」


ずっと裸足のナプーには疑問だろう。マノミの顔に塗る染料みたいな、おしゃれのためだと言って履かせ、ナプーの髪をとかしてやり、いい感じだ。元が良いし、お腹で結んだら、もう部屋着でいける。

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