表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フロンティア in the Frontier ~ブレテ島とマノミの狩人~  作者: よっしー
ブレテ島の狂気
36/49

12

敵は堅い。でも、左腕は、使えないようだ。攻撃も単調で、隙はある。しかし、このままだと、まずい。


「ナオミ!」

「ナプー?」


ちらっと見る。左腕を、指しているようだ。そうか、回復中なら、攻撃が通るかも。


「OK!」


ナイフをクルクル回し、構える。いつでも来い。来るか、さあ来い、ん、来ない、またじらしか。いや、違う、槍の変形を、解いた。あのイカれ顔は、待ち体勢か。直立不動だ。それなら、


「受けて立つよ!」


ナオミは氛を抑え、走り出す。槍の間合いは約3m、敵は氛に反応する。間合いの手前、まだだ、もう少し、接近し、今!フルパワー、槍に、変形、突き!かわせ、いっ、懐へ、左腕は、もらった!ギギ、グチュグチュ、グチュ、ジャッ!振り抜いたナイフの先、左腕が、舞っている。美しい緑に、輝いて、弾けた!


「はあ、はあ、」

「ナオミ!」


ナプーの声が、聞こえる。ボタボタ、ボタ。血の、雨か。いつかのナプーを思い出す。私も血が、似合うのだろう。敵は悶え、膝を付く。槍はそのままだ。痛みで、戻せないか。ごめんね、あなたはタフだから、留めのナイフを、切り口に、刺す。中は簡単に、刺さっちゃうね、鎧の堅さからは、想像できないほど。ナイフを抜くと、敵は、地面に倒れた。


「そっちは終わったか?」

「兄さん」


ユウジは敵を、氛の右手に捉えていた。いや、それよりも、


「傷だらけじゃない!大丈夫なの?」

「ああ、致命傷はない」


深そうな引っ掻き傷が、10か所以上ある。ああ、なるほど、敵のスピードには対応できないから、致命傷にならないよう、氛の防御を高めたのか。捨て身の戦略だ。ユウジらしい。


「お前は、血だらけだな」

「ああ、私は平気。で、そいつはどうするの?」

「体の骨を折っておいた。当分は動けないだろう」


ユウジは右手を操り、敵を地面に寝かせた。


「こっちも終わったよ。あいつも、当分は動けないと思う」


体が痙攣している。槍は、右腕に戻ったようだ。何とか傷口を押さえているが、出血は止まらない。


「死にそうだな」

「どうかな、たぶん、死なないと思う」

「ナオミ、ユウジ、大丈夫か?」


ナプー、サポートに徹してくれた。助言がなければ、危なかった。しかし何だ、ろう、ナプーの声を、聞いたら、身体が。でもここは、自分に喝っ!ナオミは頷いた。ユウジは、本当にまだ大丈夫そうだ。周囲を見ると、奥に通路がある。


「先を急ごう」

「うん!」

「待て」


ナプーが、別の方向を照らしている。壁に、穴か。小さくて気付かなかった。近寄ってみると、周囲に削りカスが堆積し、最近掘られたようだ。中は、深い。照らしても、何も見えない。


「怪しいね、どうする?」

「行くしかないだろ」


ほふく前進か、さっきの穴より小さい。ユウジの体は、途中でつっかえそうだ。いつものようにナプーから入る。が、入る手前で振り返った。


「私だけ、行く。ナオミとユウジは、向こう」


確かに、ナプーだけの方が動きやすそうだ。体のでかいやつは、でかい通路でも見とけばいい。ユウジを見ると、頷いている。


「ナプー、OK。行って」

「ああ」


ナプーは素早く中に入り、あっという間に見えなくなった。


「一緒に行かなくて、良かったね」

「そうだな」

「見張りはいる?」

「いや、すぐに戻れば大丈夫だろ」


兄妹はでかい通路に向かう。入口は普通だ。中も特別なところはなく、少し歩いて前方が開けた。氛は、感じない。でも、人型の発光が見える。数人、いや、もっとか、いや、これは、大勢だ。何十人といる。


「敵、だと思うけど、」

「女と、子供か」


みんな、こちらを見ている。表情はない。手前の女性に近づくが、じっと見て来るだけで、逃げもしない。こんなに、まつ毛が数えられるほど、近いのに。そういえば、前の敵より、顔がはっきり見える。非戦闘員なのだろう、微生物が少ないようだ。外見は、マノミに近いかもしれない。それと、少し、におう。


「先に進むぞ」

「分かった」


通路は右と左と奥にある。右の通路を進むと、さっきの糞尿の部屋だった。左は小さな部屋で、食料が溜めてある。奥に進むと、下っ端の部屋だ。さらに右と左に通路があり、右の先は、最初の下っ端の部屋だろう。左は出口だろうか。兄妹はそこでUターンする。


「やっぱりナプーの方かな?」

「そうだといいが、」


ナプーがダメだったら、仕切り直しだ。巣の中だけじゃなく、周辺まで視野を広げないと。できれば、見つかってほしい。兄妹はナプーと別れた場所に戻った。ナプーは、まだ穴の中だ。入って数分、穴は相当に深い。これは、前向きに捉えて良いのか。


「ナオミ」

「ん?」

「もう強敵はいないだろう。少し休め」

「いや、止めとくよ」


休んだら、きっと立ち上がれない。動く方が良い。周囲を、壁を見て歩く。気持ち悪い。この壁は、回復装置だった。あいつが休んでいた。今は地面で、もぞもぞ動いてる。血は、止まったようだ。


「おい!」

「ん?」

「ナプーさんだ!」


ハル、疲れが、吹き飛ぶ。ナオミが一瞬で戻ると、穴から音が聞こえた。何かを、引きずっている。ユウジが穴を照らした。


「ユウジか?」


穴の奥から、ナプーの声だ。


「ちょっとどいて!ナプー、ハルは?」

「ハルは、ここだ」


いた、ついに!でも何だろう、ナプーの声が、浮かない。ユウジの顔を見る。ハルの声は、聞こえて来ない。ズルズルと、何かを引きずる音だけ。次第にそれは大きくなって、ナプーが穴から、顔を出す。ああ、その表情、ライトに照らされ、ナプーが引っ張り出したそれは、白い何かだった。


「これが、ハル?」

「見ろ」


ナプーが胴体を照らすと、フロンティアTシャツが浮き上がった。やっぱりハルだ。これが、ハル、なのか、


「ナオミ!」


あ、ナプーが右手を出していた。携帯だ、まだ壊れてない、ナプーの右手に乗せる。


「息はある。この白いのは何か分からないが、早く治療を」

「そっか、息はあるのね。良かった」

「急ぐぞ。おれが背負う」


ユウジが慎重に持ち上げる。白いのは、気持ち悪い。背中のハルに触った。ネバネバして、ジュクジュクして、ハルに張り付いて取れない。においは、無臭か。いや、もう鼻はまともじゃない。でも、とにかく、生きていてくれて、よかった。


女子供の部屋を抜け、糞尿の部屋を抜けて、下っ端はやはり襲って来たので、それを押しのけて、最後に横穴の少年を眺める。遠くに、入口だ、ナオミは走って外に出る。まだヘリは、来てないか、いや、この音は、


「兄さん、来てるよ!」


ユウジが入口に着くと、ヘリが上空から降りて来た。ドアは、壊れてない。無事にたどり着いたようだ。ん、中から、手を振ってる、誰、テツだ!付いて来たのか。もう一人いる、あれは、


「ユキエさん?何で?」

「念のため、来てもらった」

「そっか」


ヘリが着陸する前に、テツが飛び降りた。


「おーい、無事か?そこで待ってろ!」


テツが登って来る。ダメだ、力が、抜ける。ナオミは膝を付いた。ヘリはすぐそこなのに、崖は、降りれないかも。来た、テツの手だ、崖に掛かって、ヌッと巨体が現れた。もう元気そうだ。逆にテツは、驚いている。


「おいおい、大丈夫なのか?」

「大丈夫だ。ナオミに手を貸してやれ」


ユウジはハルを担ぎ、崖を降り始めた。最後まで、弱いところは見せなかった。ナプーも降り始める。ナプーがいなければ、発見できなかっただろう。ナオミは右手を伸ばす。


「悪いけど、背負ってくれない?」

「任せろ!」


テツは軽々と背負い、崖を降りる。あのときとは、逆か。頼もしい背中だ。ん、何だろう、降りるスピードが、遅くなった。


「ナオミ、」

「何?」

「あの、」

「何よ?」

「すまんかった、」

「いいのよ。あなたは、最高の仕事をしたわ」

「そうか」


崖を降りると、医療班がハルを囲っていた。ナオミは背中から降りる。ナプーが、ちょっと離れた位置にいた。近づいて、誘導してやる。ユキエは、医療班と一緒のようだ。あ、目が合った、すぐに駆け寄って来て、うそ、抱き付かれた。


「ナオミ、よく頑張ったわね」

「あの、臭いですよ、」

「何言ってるの、いいから」


ギュッとされてしまった。ナプーの前で、恥ずかしい。あ、そういえば、


「彼女がナプーですよ」


バッとユキエは離れ、ナプーを見るなり、身だしなみを整えた。すぐに右手を出し、がっちり握手する。


「あなたがナプーね。私はフロンティアのユキエです。ご協力、感謝します」

「言葉が話せるのか。私は、やるべきことをしただけだ」


ユキエが、ファジール語を、内容が気になる。ユキエが変なことを言う前に、ナオミは割って入った。続きは、偀語で聞こう。ハルがヘリに乗せられ、すぐにナオミたちも乗った。椅子に座り、目を閉じる。


「出してください」


遠くの方で、ユキエの声を、聞いた気がした。は、る、ヘリが上空へ出る前に、ナオミは眠りに落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ