11
敵が、いない。地上、壁、天井を照らすが、見つからない。そんなのありか。出血が止まらないほど、強烈な一撃だった。人間サイズはあるはずだ。
「見つけた?」
「いや、」
「静かに」
ナプーが、耳で探っているようだ。目は当てにならない。壁の彫刻が邪魔だ。まさか、これを狙っていたのか。だとしたら、ここは相手の土俵、
「来た!」
「痛っ!」
肩が、敵は、あそこだ。はやっ、瞬時に壁と同化し、闇に消えた。小さいやつだった。右肩は、かすり傷か。ナプーのおかげだ。
「集中しろ。狙われてるぞ」
「分かってる」
弱いやつからか、合理的だ。それにしても、全く分からない。壁にいるはずなのに。攻撃も、避けるのが精いっぱいだ。どうする、奥に大きい通路が見える。
「一旦退く?」
「いや、ここで仕留める。仲間と合流された方が、」
「来た!」
左、避けろ!よし、三回目でいけた。ナプーありきだが。たぶん他に敵がいたら、避けられない。ここで仕留めた方が良い。
「でも、手はあるの?」
「ナオミ、こっちへ来い」
ナプーが呼んでいる。取り敢えず行く。肩を掴まれ、ナプーの前に誘導された。
「何?」
肩をグッと抑えてくる。なぜ、
「ここに座れ」
「座る?なんで?」
「いいから座れ」
なぜユウジも、取り敢えず座る。ナプーはナイフをクルクル出し、顔の前で構えた。なるほど、迎え撃つ気か。今更ナプーの力を疑ったりしない。でも、ここへ来て、おとり役とは。下からナプーを見上げる。
「任せたよ」
ん、ライトを手で塞がれた。光は邪魔か、手で隠す。ユウジも隠し、天井が綺麗だった。敵もたぶん光ってる。どの彫刻が、偽物か。見極めてや、
「ふっ!」
ギンッ、だめか、火花だ。ナプーが弾いた。え、敵が、光ってない。ライトで追うが、再び闇に紛れる。
「今、光ってなかったよね?」
「ああ」
鎧を付けていないのか。暗い地面も気にしないと、あ、またナプーが傍に来た。座らされ、頭上でナイフが舞っている。何だか、されるがままだ。さあ、次はどこから、
「んっ!」
ギンッ、ギンッギンッ、敵を、ライトで捉えた。これは、小さい、小学生か。でも幼くはない。それよりも、何だあの爪は、鉤爪のようだ。足の爪も、
「おい、囲め!」
「分かった!」
俊敏だが、逃がさない。三人で囲み、壁に、追い詰めた。が、やっぱり壁を登った、見失う。ギンッ、ナプーの投てき、ナイフは、弾かれたようだ。ナプーは素早く拾い、ナイフの先端を見ている。
「どうしたの?」
ナオミは壁を背にする。この方が、たぶん狙われにくい。
「敵、ダメージ」
「ダメージ?効いてたのね」
このまま押し切りたい。でも、きっとダメージは小さい。それに、ナプーの体力は持つだろうか。ん、何か、様子が変わった。敵の、氛か。徐々に、大きくなっていく。天井の、あそこの、彫刻に、
「って光ってるし!」
「集中しろ!」
氛が増して、発光も増している。もう隠れる気はないようだ。敵が、落ちて来る。四つん這いで着地し、爪が地面をえぐる。あれをくらって、無事で済むのか。気を解放した、全力の一撃だ。ユウジとナプーが前に出る。
「お前は下がってろ」
これは、従うしかない。全快ならまだしも、すでに満身創痍だ。
「分かった。気を付けてね」
「心配するな」
二人の背中に触れた。信じるしかない。敵が、動いた、いや、立ち上がった。これが攻撃態勢か。一歩踏み出した、二歩、三歩、加速、ギンッ!ナイフで止めた、ユウジが、
「はっ!」
避けた、でもすぐナプーだ。キキキン、ギンッキン、あれは、ナイフの二刀流か。ギンッギンッ、さらに追う、ギンッキン、ザッ、敵が、大きく引いた。右腕をやったか、血が垂れている。
「はあ、はあ、」
「ナプー、」
息が上がっている。敵に合わせて、氛を高めたからだ。ナオミはナイフを出し、ナプーの横に並んだ。
「私もやる!」
「好きにしろ」
三人で距離を詰めると、敵は引いた。冷静だ。しかし逃げ場はない、どうする。な、飛んだ、壁に張り付いて、速い。また闇に紛れるか、いや、氛はそのままだ。どこへ、向こうは、大きい通路である。隣の部屋だ。
「逃がすか、」
「待て!」
え、っとっと、足がもつれた。
「何で?仲間と合流されるよ?」
「間に合わん、落ち着け。それに、」
ユウジはナプーを見ている。ナプー、ナプーが膝を付いた。
「大丈夫?」
「はあ、はあ、すまない、大丈夫だ」
疲労が、もう限界だ。ナプーも人の子である。ここからは、フロンティアで片を付ける。ナオミはナプーのナイフを下してやる。
「ナプー、後は任せて」
「だが、」
「ナプーさん、サポートを頼む」
ユウジがナプーを見つめている。ナプーは、ナイフをしまった。気のせいか、ユウジの言うことは良く聞いている。兄だけじゃない、妹だって頼りになる。
「さあ、行きましょう」
「ああ」
三人は大きい通路に向かう。敵の氛が、小さくなった。場所は遠くない。通路も短いようで、中に入ると、すぐに前方が開けた。同じような部屋だ。敵は、どこに、ナプーが指を差す。
「あそこだ」
「いた、壁際、」
「おい!」
足を止める。何か、おかしい。敵はあいつだけ、でも、氛が、2つある。この氛は、たぶん、奥の壁が強く光っている。氛が増し、光が増して、ジュクジュクと、微生物の中から起き上がった。ようやく、見つけた。
「ハルをさらった敵よ」
「あいつか」
左腕は、吹き飛ばしたはず。枝みたいなのが、生えてる。でも、関係ない。
「あいつは、私がやる」
「好きにしろ」
ユウジは石を拾い、小さい方に投げた、と同時に走り出し、引き付ける。ナオミは氛を、フルパワー、小細工なし。敵は、左腕が光っている。新しい能力か、ただの回復中か。見極める。ナオミは石を拾い、真似して投てき、右手で弾かれた。
「ふんっ!」
ユウジの氛が、あっちもフルパワーか。いや、それ以上、こんなに、強くなっていたのか。こっちも、行く、いや、来たっ!槍か、顔面、よけろ!ギリギリでかわし、見る。危なかった、向こうから仕掛けるとは。この暗がり、左手のライトで照らすものの、見えづらい。が、敵は光っている。隙を見つけ、右手のナイフで、仕留める。
また来た、一直線に、近づいて、突き!次は横から、払い!しゃがんでかわす、な、顔面に蹴り!
「ぐっ、」
両手で受けて、距離を取る。良い蹴りだ。それに、でかい槍を、良く振り回す。また来た、突き、速いが単調だ。また払い、次も蹴り、かわせ!側転でギリギリよけて、距離を取る。さっきと同じだ。決まった動きを、繰り返すのか。あっちは、ユウジが押されてる。
「そっちは平気?」
「随分、余裕だな!」
「余裕よ!」
余裕はない。氛も、長くはもたない。次は反撃だ。突きのあとを、狙う。敵は、来るか、いや、来ない。こんなときに、じらして、来た!突き、いっ!でも腹に、刺す!ギギギギ、ギンッ、やっぱ弾かれた。一度引く。腕の肉を、少しもっていかれた。