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「でかっ!」
はやっ、蹴りっ、避けろ。間一髪、受け身を取って、見る。こいつらは、強敵だ。3m近い巨体に、あの素早さ、氛もなかなか大きい。ユウジとナプーは、大丈夫そうだ。
「お前の戦った敵か?」
「違うよ!」
来た、速い蹴り、でも単調だ。右に飛んでかわし、下っ端の顔面に着地、飛び上がって回転、巨体の後頭部へ、蹴り、重、だが手ごたえ、あり!敵は顔面から壁に激突、顔がめり込んだ。
「はっ!」
あっちもユウジが吹っ飛ばした。中段突きか、思い出す。あれをくらって何度もゲロを吐いた。ん、こっちはまだ動きそうだ。ライトを当てる。ダメージは、不明。
「ナオミ」
「ナプー!」
ヘルプだ、向こうは大丈夫だろう。あとはこいつ。だが、何か変だ、暴れ、始めた。飛び跳ねて、腕を振り回す。まずい、氛が高まっている。
「何か来る!」
ナオミは一歩引いた。予測不能だ。仲間も、殴ってる。それに、また氛が。敵は不意に飛び上がった、高い。両手を組んでる、頭の上で、やっぱり地面に、叩きつけた!粉砕、
「ぐっ!」
岩の破片か、腹にくらった。また一歩引いて、な、投てき!顔面、避けろ。間一髪、滅茶苦茶に破壊して、投げまくってる。やっぱり仲間も投げてる。どうしたものか。ユウジが隣に来た。
「どうなってんだ?」
「分かんな、いっ!」
下っ端が飛んで来た。可哀そうに。
「そっちは?倒したの?」
「足元を見ろ」
何かある。これが、あいつ?鎧が粉砕されている。中身は、普通の人だ。あの中段突きか。
「そこにいろ。おれがやる」
「うん」
敵は壁に激突し、破片が飛び散った。それを持つか、まるでバスケットボールだ。それより、また氛が、仕留めに来た。ユウジも岩を拾う。こっちも氛が、でかい。振りかぶってる、
「ふんっ!」
投げた、右腕に命中、相手の岩を弾いた。え、ユウジが、いない。距離を詰めたか。
「はっ!」
敵の前にユウジだ。それよりも、敵が、強く発光している。ライトを照らしても、なお輝く。キィィーッ、こいつも、来るか、いや、弾けた!鎧が吹き飛ぶ。本体も、どこかへ飛んで行った。ナオミとナプーは駆け寄る。
「兄さん、大丈夫?」
「ああ。ちょっと予想と違ったが」
確かに。一体目は弾けてない。二体目は、たぶん全力だ。ギリギリまで粘ったのだろう。周囲を照らしてみたが、本体らしきものは見当たらなかった。下っ端が、相変わらずウザい。
「ユウジ」
な、ナプーが名を呼んだ。まだ会って数時間なのに。はいはい、ナプーの手に携帯を乗せる。
「あの敵は、なかなか強かった。それを拳だけで。私には無理だ」
私だってあのくらい、ナオミは下っ端を殴り飛ばす。
「ナプーさんには、遠く及ばない」
訳を聞いたナプーは、ユウジを見て微笑む。ユウジも笑っている。普段は仏頂面なのに。ナオミは下っ端を蹴り飛ばした。思ったより、飛びが悪い。
「早く行こ」
「そうだな」
しかし滅茶苦茶にやり過ぎだ。岩が転がって歩きにくい。通路は2つ、右か左か。
「どっちにする?」
ユウジは考えているようだ。考える必要あるのか。えいやで決めればいいのに。
「左に行く。この巣穴は、でかい岩場の西端に掘られている。つまり、右方向に広がりはない。右は別の出口に繋がってるかもな」
はいはい、左が行くべき道ね。ナプーも左を見ている。こっちはマノミの直感だろう。
「りょーかい。ナプーも左?」
左を指差すと、ナプーは大きく頷いた。
「ついて来い!」
何だかナプーは、生き生きしている。満身創痍とかは関係ない。できることを、全力でやっている。いや、こういうことが好きなだけか。
左の通路に入った。ナプーの後ろのユウジについて行く。通路は広い。子供もおらず、なぜか下っ端も追って来なかった。しかし距離が長い。100m近くは歩いたか。う、
「くっさ、」
ここにきて。だんだん慣れて来たのに、その上を行った。これは、今度こそ糞尿のにおいだ。トイレでもあるのか。ようやく前方が開けて来た。敵は、まだ見えない。
「止まれ」
何か、様子が、あっ。
「発光が、ない?」
「いや、奥」
ユウジが左を差す。人型に、発光している。慌ててライトを照らす。が、敵はいない。なぜ、高速で移動したか。別の場所を照らす。え、また出た、でも照らすといない。一体、ナプーが奥へ移動する。ナオミもついて行くと、すぐに分かった。
「なんだ、壁の模様か」
「ただの模様じゃない。よく見ろ」
これは、どんどん近づく。ただの模様じゃない、彫刻だ。敵が2人、並んで走っている。立体の部分に合わせて、コケが発光していた。自然にできるわけない。
「あいつらが作ったのね」
「おい、これ見ろ」
ユウジは壁を引っ掻いた。岩、じゃない。ボロボロ剥げ落ちる。奥にコケか、発光している。表面には、一体何が、ナプーはにおいを嗅いでいる。手を出している。携帯を置く。
「糞尿だ」
ふん、にょう。これ全体か、もう十分だ。
「排泄物の壁に、彫刻か。面白いやつらだ」
「面白くない」
彫刻にライトを照らす。でも、これはすごい。間近で見ると分かる。細部の凹凸まで表現されて、生々しくて、とにかく、すごい。発光も、こう、良い感じだ。糞尿もうまく使っている。
「面白くは、ないけど、芸術みたいね。ん、」
隣に穴がある。小さい、子供が通れるくらいだ。
「ねえ、ここに通路があるよ」
「向こうにも、大きいのがある」
次は大と小か。ナプーが寄って来た。かがんで中を見ている。確かに、ハルを隠すならこんな場所か。ナオミも中を見る。奥は見えないが、空気は流れている。
「ついて来い」
「うん。兄さん!」
後方に敵はなし。ナプーは穴に入り、ナオミが中腰で続く。思ったより狭い。後ろを向くと、ユウジはほふく前進だった。通れただけましか。しばらく進むと、前方が開けて来た。ようやく、中腰から、解放、
「って何これ?」
すごい、壁一面にさっきの彫刻だ。敵は、いない。敵じゃない。天井まで、淡く光って、美しい。その中心には、天使だろうか、翼の生えた人間が大きく彫られている。何と言うか、神々しい。今にも飛び出して来そうだ。
「翼の生えた、マノミ」
「ナプー?どうかした?」
ナプーが右手を出している。携帯を、あ、地面に落とした。手を伸ばす、
「痛っ!!」
背中が、熱、引っ掻かれた。
「大丈夫か?」
「大丈夫!それより、」
気付けなかった、攻撃が当たるまで。氛をまとった良い一撃だったのに。
「さっきのやつより、強いよ」
「分かってる」
三人は背中を合わせる。敵は、どこだ。




