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フロンティア in the Frontier ~ブレテ島とマノミの狩人~  作者: よっしー
ブレテ島の狂気
30/49

あれはナプー、黒い髪が少し見える。もう文明に浸かってしまった。祖父の血も混じっている。このままこっちで、と考えてみたが、ナプーはブレテ島を離れない気がした。血が似合うのだ。ハテマの血を浴びたナプーは、美しかった。たぶんジオンはすぐ離れる。リア充な大学生になるだろう。でも私はタイプじゃない、顔は良いけど。ボラボラと一緒に、民族支援の、活動を、してい、くのか、な。ナオミは眠った。


あれ、手が、アキラ、ドサッと近くで音がした。ナオミはベッドから起きる。アキラがいない。アキラの椅子があって、まずい、アキラが倒れている。


「どうしたの?アキラさん!」

「ああ、すみません。氛を、使い過ぎて、」

「アキラさんが倒れてどうするのよ」


でも、これは。すごい。ナオミはベッドから飛び出し、アキラを軽々持ち上げ、ベッドに寝かした。氛が7割も回復している。


「ありがとう。これで戦える」

「よかった、です」


ベッドからはみ出た手を握り、戻してやった。


「ナオミか?」


この声、振り返るとナプーが起き上がった。目をこすり、なぜかフロンティアTシャツを着ている。たぶんユウジの、だぼだぼでサイズが合っていない。


「ナプー、大丈夫?」

「大丈夫だ。ナオミは、」


ナオミは氛で元気をアピールした。ナプーが驚く。当然である。ナオミはアキラを指差し、ホトムと言い、自分を指差した。どうやら伝わったようだ。ナプーはアキラを見つめている。


「良い仲間だな」

「そうね。良い仲間だね」


ナプーは不意にベッドから飛び出し、大きく伸びをした。裸Tシャツ、ではなく、下は迷彩ズボンだった。ナプーはもう大丈夫だ。


「ハルを、助けに行くんだろ?」

「ハルを?もちろん」

「私も行くぞ」


聞き間違いか。私も行くと言ったような。机にあった道具を取り、身に付けている。


「ナプー、ダメよ。まだ、」

「ナオミ!」


ああ、無理だ、止められない。止める必要もない。本当に保護が必要だったのか。ナプーがこちらを見た。


「私は強いマノミだ。心配するな」

「そうだったね。ハルを助けよう、一緒に」


ナプーは準備を整え、Tシャツをお腹で結んだ。お洒落な着こなしである。時計を見るともう昼過ぎ、2時間ほど寝ていたようだ。テツはまだ寝ていた。


ナオミはユウジに電話した。パイオニアと一緒だ。空き部屋でハルの捜索中らしい。ナプーのことを話してみると、同行はすぐに許可された。ユウジもあれを感じ取ったのだろう。二人は急いで向かう。部屋の前に到着すると、ユウジが廊下で待っていた。


「ハルは?」

「すぐには見つからん」


まあ分かっていた。さっき電話で聞いたばかり、気持ちが焦る。でもどうやって探しているのだろう。


「中で何を?」

「来い。邪魔するなよ。ナプーさんもどうぞ」


一緒に部屋へ入ると、中は綺麗な個室だった。入口は狭く、前にベッド、奥へ進むと広い空間だ。中央にポツンと女性がいた。椅子に座り、集中している。やはり能力者、良い氛を放っている。ユウジが耳元に近寄った。


「知ってるだろ?」

「アヤノさんでしょ。彼女の能力?」


ユウジによると、本来は敵の位置を把握する能力らしい。通常のやり方ではなく、地図を使い、特定の位置に集中することで、より詳細に知ることができる。離れた場所も可能だ。しかし個人を判別するのは難しく、できるか分からないがやってくれるとのことだった。


「どのくらいやってるの?」

「そろそろ30分だ」


限界かもしれない。サポート能力も長時間は大変である。さっき実感した。


「いつまで待つつもり?」

「30分だ」


もう終わる。その後はどうするのか。もしアヤノが失敗したら。ナオミは考えてみる。ダメだ、思いつかない。あの超危険地帯を探す?当てもなく?そもそも死なずにいられるのか。ブルっと体が震えた。


「ナオミ」

「な、なに?」


ユウジに見つかった。きっとナプーにも気づかれた。


「この後はすぐに出る。シャキッとしろ」

「分かってる。ちょっとビビっただけ」


アヤノの結果がどうであれ、行く。ユウジがいて、ナプーもいる。必ず助け出せる。ナオミは気合いを入れ直した。自分に喝っ!しまった、氛がもれた。痛っ、ユウジの肩パン、しかし遅かった。アヤノが振り向く。


「あれ、なっちゃん?もう平気なの?」

「邪魔してごめん。私は大丈夫。それと、なっちゃんはやめて」


いつの間にか、なっちゃんになった。寒気がする。


「えー、可愛いのに。でも、なおちゃんはすごいね。あんなに酷かったのに、もう元気」


寒。そういえば、救助に協力してくれた恩人だった。色々と話したい。でも今はハルである。


「仲間のおかげよ。それより、ハルは見つかったの?」

「ちょっと自信ないけど、だいたいの場所は分かったよ」

「本当?アヤノさんすごい、マジすごいよ、ありがとう」

「えへへ、そうかな」


照れている。かわいい。この見た目で本当に見つけるとは思わなかった。失礼だが。


「それで、ハルはどこに?」


アヤノはペンを取り、ブレテ島の地図に赤丸を書いた。青丸が敵にやられた場所で、少しトキリ方面に救助場所の黒丸、赤丸は青丸のさらに奥地だった。ユウジは地図を受け取る。


「でも、急いだ方がいいよ。ハル君の氛がすごく弱いの」


そこまで分かるのか。もう時間がない。日が暮れる前に。


「ご協力、感謝します。行くぞ」

「ありがとね」


ナオミはアヤノに手を振り、ナプーは一瞥して部屋を出た。ユウジに付いて行く。廊下を走って、階段を駆け下り、病院のロビーに着いた。人が結構いる。入口のドアはガラス張りで、向こうにヘリが止まっていた。ユウジは入口へ向かわず、ソファーに近寄る。あの仏頂面はパイオニアとサムエラだ。タケルが気付いた。


「驚いた。もうパイオニアは不要ですね」

「はい。ハルの場所も分かったので、後は我々が」


保険として、救助もパイオニアに依頼していたようだ。戦力が揃ってよかった。さすがに頼り過ぎである。ふとリョウコが近づいて来た。タンクトップに迷彩ズボン、ミリタリーも似合う。顔をジロジロ見ている。


「あ、助けてくれてありがとね」

「本当に大丈夫そうね」

「ええ、おかげさまで」


リョウコは適当に頷いている。眠そうな顔だ。次にナプーを見て頷き、ナオミの肩に手を置く。氛をまとっているようだ。


「死ぬんじゃないよ。後味、悪いから」

「大丈夫よ、ありがと」


不思議な氛だ。焦りや恐怖感が薄れ、少し落ち着いた。良い緊張感を保てそうだ。最後にパッと手を放し、リョウコは戻っていく。その途中でサムエラと目が合い、ナオミはサムズアップをしてやった。


「ハル君の救助はお任せします。ハテマの件は、こちらでやっておきますので」

「分かりました。では、そろそろ出発します」


ユウジは歩き出し、後ろに付いて行く。しかしナオミは気になった。ハテマの件とは。何をやっておくのだろう。必死の戦いが始まる前に、懸念は解消すべきである。ユウジは入口を出て、そのままヘリに乗った。外の熱気だ。そういえば、ナプーはヘリをどう思ったのだろう。続けて乗り込み、三人は席に着く。


「出してください」


プロペラの振動が伝わる。徐々に回転数を上げ、浮き上がった。ナオミは少し苦手だ。ナプーをチラ見すると、険しい顔で腕を組む。もはや軍人のそれである。ヘリはどんどん加速し、海上へ進み出た。


「兄さん」

「何だ?」

「ハテマの件って何なの?」


ユウジによると、パイオニアと軍はマノミと協力し、ハテマを探索しているそうだ。念のため、ハルのことを聞くらしい。


「それと制裁だ」

「制裁?」

「お前たちを殺そうとした。当然だ。ファジール政府も重く受け止めている」


なるほど、こっちがメインの目的だろう。ハテマの記憶が蘇る。血走った目に、異様な氛を放っていた。


「何するつもりなの?」

「詳しくは知らん」


気になる。政治的な意図もあるだろう。非人道的なことをするのか。制裁と言われてもピンと来ない。殺されかけた張本人だが、何かしてやろうという気にはなれなかった。


「おい!」

「な、何?」

「今はこっちに集中しろ」

「そうね」


ハルが待っている。ナオミは深呼吸した。ナプーを見ると目が合い、さっきの険しい顔はなかった。眼下に一面の海、再びブレテ島が近づいて来る。

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