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フロンティア in the Frontier ~ブレテ島とマノミの狩人~  作者: よっしー
ブレテ島の狂気
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手、誰か握って、温かい。私じゃなく、ハルを。


「ハル!」


ここは、ベッドの上、救助されたのか。左手をギュッとされていた。ああ、氛が満ちて来る。懐かしい温もりだ。


「よかった、目が覚めて。ここはナイラ島の病院ですよ」

「あの、アキラさん、ごめん。ハルが敵に捕まった。テツも瀕死の状態で、そうだ、テツは?」

「テツさんは無事です。あそこで寝てま、」


ナオミはガバッと起き、アキラの手を放ってベッドから出た。全身が痛い、重い、でも動く。テツのベッドに駆け寄った。なぜだろう、大きい体が小さく見える。しかし顔色は良く、息もしていた。一安心、次はハルだ。休んでいる暇はない。


「ナオミさん、落ち着いて」

「早くしないと、ハルが」


部屋の扉が開いた。ボラボラだ、それにチャンゴもいる。


「ナオミ、起きて大丈夫なのか?」

「もちろんよ。二人も無事だったのね」


また誰か入って来る。扉を開け、ヌッとでかい男だ。テツよりやや小さめ、迷彩ズボンにフロンティアTシャツだった。ナオミに真っ直ぐ近づき、端正な顔がどんどん強張っていく。兄のユウジだ。そういえば、ユキエが応援で寄こすと言っていた。


「まだ寝ていろ。アキラさん」

「はい」

「兄さん、もう大丈夫だって、」


ガッと首根っこを掴まれた。痛い、力が強い。ベッドまで連れていかれ、布団に押し込まれた。ボラボラが笑っている。またアキラの手、さっきより温かい気がした。落ち着く。ユウジは丸椅子を出して座った。


「お前が起きるのを待ってたんだよ。探せるならもう探してる。早く状況を教えろ」

「そうだね。ごめん」


ナオミは記憶を辿る。しかし大事なことに気付いた。どうやってここに来たのか、誰が助けてくれたのか。ユウジに聞いてみる。一番にお礼をしないと。


「救助はファジール軍だ。パイオニアも協力してくれた。面識あるんだろ?」


あの3人か。何だかんだ、良い人たちのようだ。


「それにナプーさんだ。救助が来るまで、お前とテツを守ってくれた。命の恩人だ」


記憶が戻って来る。無様に携帯を落とし、結局ナプーは村を飛び出した。そのおかげで助かってしまった。これで何度目か。ナオミはナプーに会いたくなった。


「そっか。早くトキリに戻って、お礼しないと」

「ナプーさんは今、隣のベッドで寝ている。文明との接触は避けたかったが、」

「って隣!」


ナオミは二度見した。笑い声、またボラボラが笑っている。自分で言いたかったに違いない。あのベッドか、確かに誰かいる。


「もう、早く言ってよ!」


再びガバッと起きる。しかしユウジに手で抑えられた。


「やめろ。彼女も保護が必要だった」

「あ、うん。ごめん」


うるさいのに起きる気配はない。ユウジの手をどけて、静かにベッドから出た。本当だ、よく見るとナプーの寝顔である。初めて見た。ちょっとだけ近づいて、覗き込む。ぐっすり寝ているようだ。ナオミはユウジに振り返った。


「早くハルを助けないとね」

「じゃあさっさと話せ」


ナオミがベッドに戻ると、アキラは左手を握った。すごい、力が湧いて来る。ナオミは日夲語と偀語で話し始めた。


ああ、悔しい、なんて無様だ。話していると感情も蘇った。でも腹に穴が開いたくらいで、ハルは死んだりしない。それに敵はハルを連れ帰った。すぐには殺さないだろう。


「でも、どこにいるか分からないのよね」

「まずいな」


ユウジは考えている。兄妹で顔は似ているが、ユウジの方がシュッとしていた。それに無口で真面目、父のDNAが濃いようだ。ナオミも考える。しかしまとまらない。アキラの氛が満ちて来る。


「ちょっといいか?」


チャンゴだ、チャンゴが発言をした。きっと何かある。


「うん、どうしたの?何か思いついた?」

「確かな情報ではなくて申し訳ないが、パイオニアに、敵の位置を把握できる者がいるらしい」


パイオニアか、その手があった。能力者ならある程度は把握できる。しかし特別な能力かもしれない。ハルを探し出せるほどの。興奮してユウジに伝えようとしたが、そういえば偀語は話せた。アキラも話せる。あの二人め。


「いえ、貴重な情報です。共有いただき、ありがとうございました。おいナオミ、」

「能力のことは知らないよ」


チッと舌打ちが聞こえた気がした。


「アキラさん、すまないが頼んだ。パイオニアと話して来る」

「はい、任せてください」


何を任されたのか。氛の回復か、そういえばアキラは汗をかき、つらそうだった。テツやナプーもいるのに、自分だけ。どうして。ユウジは席を立った。


「ちょっと兄さん、これって」


大きな背中に声を掛け、ユウジは振り返る。


「戦力が足りん。お前は動けそうだから、連れて行く」


ナオミは嬉しかった。ほぼ瀕死の状態で救助だ。残れと言われるのが普通である。気持ちが高まっていく。


「当然よ。ダメって言っても付いてくんだから」

「なら死ぬ気で休め」


ユウジはチャンゴと話し始めた。しかしやる気満々では、休まるものも休まらない。ここはアキラ頼みである。不意にアキラの氛が乱れ、握る手に力が入った。


「すみません、僕が戦えればよかったんですが」


アキラは戦闘向きではない。ブレテ島は無理だ。サポートで役立てるとはいえ、思うところはあるだろう。ナオミは右手を出し、逆に両手で握ってやった。


「アキラさんの分も、戦って来るからね」

「はい、お願いします」


氛の淀みが消えていく。良い顔になった。


「さあ、もう横になって、寝てください。ユウジさんに頼まれたので、スパルタですよ」

「あの、目が冴えちゃって、」

「ダメです。寝たふりでも効果ありますから」


ユウジたちが部屋を出た。しんとする。ナオミはしぶしぶ横になった。目を閉じて、寝ようとする。しかし思い出さずにはいられなかった。ハテマ、生贄、敵、ハル、ダメだ。視界が暗い分、逆に感覚はリアルになった。敵の槍が、ハルの腹に、刺さる、ナオミの体がビクッと動いた。


「どうしました?」

「ううん、何でもない」


手を繋いだまま、ナプーの方に寝返りを打つ。姿勢がつらいと思ったら、アキラもこっち側に移動してくれた。

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