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フロンティア in the Frontier ~ブレテ島とマノミの狩人~  作者: よっしー
ブレテ島の狂気
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「死ぬ気で登るよ!」

「おっしゃー!」


息はピッタリだ。手負いを担いでるとは思わせないスピード、しかしダメだ、振り切れない。何人か付いて来る。スピードは限界、追いつかれる。


「ナオミさん、テツさんを任せます!」

「ちょっと、」


ハルが離れた、と思ったら真下に跳躍、ハテマを上から殴り落した。直後に崖へ張り付き、今度は横移動、速い。ナオミはテツを必死に持ち上げる。あと少し、でもまだ遠い。ハルがいないとアホみたいに重かった。まずい、追いつかれる、ナオミは焦って下を見る。しかしハルが無双していた。最後の一人を蹴り落し、もう追いつけそうなハテマはいなかった。


「もう大丈夫っすよ!」

「ありがと!新しい特技ができたね!」

「あいつらが鈍いんすよ!」


無事にテツを崖上まで運ぶ。しかしあいつだ、しつこい、猛烈に追って来る。テツはまだ動けないが、意識はあるようだ。


「あと少しよ、頑張って」

「おお、」


氛がヤバい。完全にイカれモード、捕まれば絶対に死ぬ。もうフルパワーで逃げ続けるしかないが、ナオミの氛もいつまでもつか。


「ほら、行くよ!」

「あの、ナオミさん、奥に行くんですか?雰囲気ヤバいっすよ?」


分かっている、最悪の二択だ。できれば両方とも選びたくなかった。


「戻ってあいつを突破するのと、どっちがいい?」

「さ、さあ、早く奥に行きましょう!」


二人は走り出す。マノミが寄り付かない場所、生きてる心地はしなかった。足が重い、息が苦しい、普段より10倍は疲れるだろう。時間がない。もっと遠くへ逃げないと。しかしナオミは途中で気付いた。おかしい、ハテマが追ってきていない。


「止まって」

「どうしました?」


テツを下す。あいつの氛が遠ざかる。徐々に減衰して、周囲の闇に紛れた。ダメだ、力が抜けていく。ナオミはストンと地面に座った。


「ふう。よく分からないけど、ハテマは引いたみたい」

「マジっすか!っしゃー!」

「静かにして。テツ、大丈夫?」


問いかけに応えなかった。息はあるが非常にまずい。早く休ませなければ。ハルに周囲の探索を頼むと、近くに水辺があるらしい。取り敢えずテツをそこへ運んだ。


水辺は1メートル幅の小さな流れだった。ジガリス川へ向かっているようだ。手を突っ込んでみる。冷たくて気持ちがいい。ナプーは無事だろうか。マノミとファジール組はどうなったのか。ナオミは手のひらに水を溜め、口に含んだ。ああ、全身に染み渡る。携帯用のボトルに汲んで、テツのところに持って行った。苦しい顔、テツがいなければ今ごろはあの世か。頭を抱えて、水を飲ましてやった。


「ん、ん、はあ」

「テツさん、死んじゃダメっすよ!」

「しばらくは動けないね。ここで救助を待ちましょう」


突然携帯が鳴った。ボラボラだ。何度も着信があったようだ。


「ボラボラさん?」

「おお、ナオミ!無事だったか!」


マノミはみんな無事、ナプーも大丈夫とのことだった。一安心である。状況を聞くと、やはりハテマが襲って来たようだ。すぐにマノミを捕らえ、動けば殺すと脅し、マノミもファジールも全く身動きが取れなかったらしい。電話を掛けなくてよかった。


「でもな、突然おれたちを解放したんだよ」

「ああ、たぶんフロンティアが捕まったからだね」


こちらの状況も説明する。改めて話すと変な感じだ。まるで奇跡、ナオミは今を噛み締める。ボラボラによると、フロンティアの救出部隊は動いてくれているようだ。数十分で来るらしい。ナオミはホッとした。もう大丈夫だろう。


「ボラボラさん、ありがとう。ここで待ってるね」

「おう、すぐ行くからな。あ、ナプー、おーい、ナオミだぞ。話すか?」


えっ、ナプーが来る、何を話したら、というより携帯で話していいのか。文明と濃厚接触だ。しかしナオミは思い出した。もっとすごい翻訳機能を使っていた。


「あ、逃げるな。心配していたナオミだぞ。声が聞きたいだろ。遠慮するな。ナオミ、ちょっと待ってろ」

「もう、ボラボラさん。ナプーが困ってるでしょ。もういいって」


顔がにやける。ナプーが心配してくれた。こんなに嬉しいとは意外である。結局ボラボラは連れて来た。ナプーでも逃げ切れなかったようだ。携帯越しに息遣いが聞こえる。


「ナプー?」

「ナオミか」


声はいつものナプーだ。ナオミは安心した。でも上手く話せない。たくさん伝えたいのに、ナプーに伝わる偀語が出て来なかった。


「ナプー、あの、えっと、ありがとう」


結局これしか言えなかった。でも十分だ。元気が出た。ボラボラには感謝しないといけない。


「ナオミさん!」


突然ハルが叫ぶ。驚いた、心臓が飛び出る。ナオミはすぐに振り返り、また驚いた。人、男だ、水辺に立っている。


「ハテマ!」


ナオミはテツの前に素早く移動、しかし妙だ。氛が感じられない。それに素っ裸で直立不動、いや動いた。ゆっくりナオミの方を見る。皮膚は茶色、ややグレーか、表面がボロボロだ。木のようにひび割れている。ハテマじゃない。目はうつろ、表情がイってる人のそれだった。近づいて来る。


「うわ、きもっ!」

「ナオミ、どうした?ハテマか?」

「逃げるよ!テツを」


未知の敵である。得体が知れない分、ハテマより怖い。テツを抱えて走り出す。くそ、まだ終わらせてくれないのか。ナオミが気合いを入れ直すと、敵は走り出した。


「ごめんナプー、敵だ。あっ、」


携帯を落とした。戻れない。何なんだこいつは、追って来る。氛、いつのまにか氛だ。やはり使えた。ハテマとも違う不気味さ、もうすべてが気持ち悪かった。そしてヤバい、距離が詰まっている。


「ナオミさん、おれが足止めします!」

「ダメ!こいつは危険!」


しかしハルは離れた。急ブレーキし、不意打ち気味に麻酔針、刺さる、だが弾かれた。なぜ、タイミングと氛は申し分なかった。


「かってー、皮膚が鋼鉄っすよ!」


物理的に硬かった。麻酔針の天敵だ。しかし弱点はあるはず。というより何なんだ、もう人間じゃない。


「くっせー、ウンコの匂いがしますよ!」


向かい風、風に乗って来る。嗅ぎたくない。キモい見た目とキモい氛、それに匂いも嗅いだら吐きそうだ。しかし吐いてでも居座る。テツにかかったら謝ろう。ハルを一人にしちゃいけない。ナオミはテツを地面に寝かせた。おえ、本当にアレの匂いがする。


「二人でやるよ」

「了解っす」


しかし動かないやつだ。さっきから直立不動、どこを見ているのか。焦点が合っていない。まさか、隙か。


「これ、殴ってもいいんですかね?」

「仕方ない、私がやる」


ナオミはナイフを構えた。やつの氛は出ているが、たぶん貫ける。皮膚はダメ、さすがに目を刺せば怯むだろう。一度接近し、左右に動いてみる。反応なし。おえ。


「もう、本当にやるからね!」


ナオミは敵の右手側に回り、距離を取った。試しに石を拾い、投げてみる。体に当たるが反応なし。強い氛に反応するかもしれない。ナオミは素早く接近する。間合いの手前、あと数メートルで氛を放つ、やはり動いた。左パンチか、見え見えだ。横へ回避、え、


「ナオミさん!」


目の前に壁、なぜ、拳か、避けきれない、ガード。


「がはっ!」


なんて重さ、ナオミは後方に飛ばされた。しかし受け身を取って着地、再びやつを見る。そんな、腕が巨大化している、まるで大木だ。こんなのありか。変な枝もニョロニョロ伸びてる。


「マジなんなのよ、キモ過ぎ!」

「ナオミさん、落ち着きましょう」

「分かってる!」


左腕は直径1メートルほど、10倍くらいに巨大化した。しかもあのスピード、ちゃんと振り回せるようだ。硬い皮膚に巨大化、それに悪臭、大層な能力である。いったん仕切り直しだ。やつはゆっくり近づいて来る。二人はテツを抱えた。


「ハル、携帯貸して」

「はい、どうぞ」


距離を取りつつボラボラに連絡した。敵に襲われたが無事なこと、救助はハルのGPSに来てほしいことを簡潔に伝える。


「分かった、伝えるよ。実はな、こっちもマズいことになった」

「どうしたの?」

「ナプーがな、お前たちを助けに、村を飛び出したんだ」

「そんな、どうして、」


携帯だ。なんて馬鹿なことをしたのか。話しの途中で落とすなんて。しかし悔いてる暇はない。やつはさらに近づき、ナオミたちは距離を取った。


「ナオミ、とにかく逃げ延びろ。ハテマにも気を付けろよ」

「分かった」


電話を切ってポケットに入れる。まずは目の前の敵だ。こんなやつにやられてたまるか。


「どうします?」

「やるしかないわね。最初は目を狙う。両サイドから同時に」

「了解っす!」


テツを下すと、ナオミは左手側へ、ハルは右手側へ回り込む。敵も動きを止めた。直立不動だ。あさっての方向を見ている。どうやら目には頼らないらしい。二人はナイフを構えた。機をうかがい、目で合図、今だ。


「ゴー!」


左右から同時の攻め、どう出る。間合い、左手が伸びる、だが遅い、かわして左目を、刺す、


「うっ!」


ハルの声、ナオミは空中でハルを見た。まさか、右手が槍に変形、腹部を串刺し、ハルが。ナイフは左目を外れ、弾かれた。ナオミはバランスを崩し、地面に顔から突っ込む。痛い、でもハルが。


「ハル!」


起き上がって見ると、槍の先端にハルが刺さっていた。血が垂れる。右手は鋭利化だった。リーチが倍ほどに伸び、ハルでも避けきれなかった。


「ハル!」

「ナオミ、さん」


脇腹だ、きっと致命傷じゃない。早く助けないと、ナオミはすぐに攻撃を仕掛ける。狙い通り、敵はハルを遠くに投げた。攻撃を即座に止め、ハルの元に直行する。


「ハル、大丈夫?」

「すんません、やられました」


とにかく止血、ナオミはハルの服を破いた。敵の位置を確認する。そんな、テツの方へ向かっている。


「テツ!」


もう守れない。今すぐ、この一撃で終わらせる。ナオミの得意は足技だ。ナオミはすべての氛を足に集中した。敵がナオミに振り返る。硬い皮膚、打撃は効かない。それなら一点集中である。ナオミは地面をえぐって加速し、一直線に飛んだ。左の拳だ、でも関係ない、ナオミは足を縮め、硬直させ、右足を真っ直ぐ拳に、突き立てた!衝撃、しかしねじ込み、拳がブジャッと吹き飛ぶ。原形はなし、肉片が周囲に飛び散り、敵は膝を付いた。


「はあ、はあ、どうだ、クソヤロー!」


テツの前で仁王立ち。追撃を、と思ったが、ナオミはふらついた。足が言うことを効かない。敵も動けないか。吹き飛んだ左腕を抑え、敵は立ち上がった。来る、いや来ない、敵が引いていく。何とか退けたか。


そんな、待って、ハルをどうする気だ。敵は右手でハルを抱え、奥へ逃げる。やめて、連れて行かないで、目の前が、かすむ。ナオミは倒れる。体が、痺れて、ハルが。どうして、動か、ないの。


誰だろう、手を握って、私じゃなく、ハルを。ナオミは意識を失った。

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