表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フロンティア in the Frontier ~ブレテ島とマノミの狩人~  作者: よっしー
マノミの狩人、ナプー
17/49

ナプーは不意に現れた。急ぐ様子はない。ナオミは警戒していたが、途中まで気付けなかった。さすがである。ナプーは何か背負っていた。弓だ。そこまで大きくない。使い勝手は良さそうである。腰にはナイフだろうか。数本下げている。どうやら木製だ。それに植物で編んだ入れ物である。何が入っているのか。


「待たせたな。出発する」

「分かった」


サムエラが出発の合図をした。ナプーに付いて行く。しかしどうだろう。ナプーの雰囲気が違う。武器を持って明らかに変わった。今は村人ではなく狩人だ。安心できる。ナオミはナプーの勇姿が見たくなった。


トキリは広くない。歩き出して数件の家があり、以降はもう手付かずだった。昼なのに薄暗い。ナプーはその境界付近で止まった。静かに振り返る。


「これから言うルールを守れ。守れなければ命はない」


サムエラが頷く。遠くで何かが叫んでいる。


「私の指示に従え。私の傍を離れるな。静かに行動しろ」


サムエラは振り向いて復唱した。まともな内容だ。従えば死なずにすむだろう。しかしナプーはナオミたちを見る。まだ何か言いたそうだ。スッと近くにやって来た。


「お前たち、ホトムを使えるな」


ナオミはサムエラを見たが、ナプーは構わず話す。


「あなた、使える、ホトム」


次は偀語だった。理解できたが、ホトムは分からない。


「ホトムって何?知ってる?」


テツを見るが、首を横に振っていた。


「全然分からん」

「あ!」


ハルが大声を出し、すぐに口を手でふさぐ。


「すんません。でも、氛のことじゃないっすか?」


たまに勘が良い。おそらく正解だ。ナオミはハルに同意して、ナプーの前に立った。手を差し出す。ナプーが手を取った。一番分かりやすい方法だ。ナオミは静かに氛を放つ。


「これが、ホトム?」


偀語で話した。正解だろうか。ナプーの顔を見ると、特に驚いた様子はなかった。分からない。しかし端整な顔である。大層おモテになるだろう。顔をまじまし見てやった。ふと気付く。ナプーの様子が変だ。口角がゆっくり上がった。何だろう。笑うのか。


「イエス」


ただの肯定だった。すぐ元に戻り、笑顔らしいものは消えた。「イ」の発音は笑顔に見える。全く思わせぶりである。何だろう、またナプーの様子がおかしい。今度は何をするのか。不意にナプーが氛を放った。ナオミは突然で驚くが、これも挨拶である。


ナプーの氛は不思議だった。フロンティアの鍛錬されたものとは違う。むき出しの氛というか、動物のそれに近い。むしろ当然だ。ブレテ島には「動物」しかいなかった。本来の姿である。ここではフロンティアが異端だった。


ナオミはふと不安になる。ナプーに拒絶されないだろうか。でも大丈夫だ。今度は笑っている。口角を上げ、白い歯を見せる。思ったより可愛い。たぶん年下だとナオミは思った。しかし笑顔は突然消える。また狩人である。手を放し、ナプーはサムエラを呼んだ。


「お前たち、とても弱い。すぐに死ぬ」


サムエラが困惑する。何を言われたのか。


「いいから伝えろ。お前たちは弱い。護衛で来たのか知らないが、役に立たない。だから、絶対にホトムを使うな」


サムエラは全て伝えた。困惑するのも当然だ。まさかここまで言われるとは。不思議と腹は立たなかった。


「何て言われたんだ?」

「私たちは弱くて役に立たないから、氛を使うなって」

「ふざけんな!」


やはりテツは吠えた。ナプーにズカズカ詰め寄る。


「やってみなきゃ分かんねーだろ」


日夲語でも通じるだろう。ナプーはテツを見上げる。顔二つくらい小さい。でも全く動じなかった。不意にナプーは振り返る。森に向かって歩き出し、手でついて来いと合図した。


「行きましょう。気配を消して。あんたは落ち付いて」

「分かったよ」


テツが絡み、状況が少し変わった。ナプーは何かする。力を見せる。テツを黙らせてくれるはずだ。ナオミの期待は高まった。チャンゴとサムエラはカメラを出す。いよいよだ。一行は離れないよう後を追った。


森は熱帯雨林である。木は太く捻じ曲がり、ときには互いに絡みつき、どのくらい高いか分からないほど伸びる。樹冠は空のようだ。稀に鳥が羽ばたいた。足元には草花が群生し、色鮮やかである。ツタは木々に絡みつき、よく見ると蟻が列で登っていた。まだ安全な営みである。


ナプーはとても慎重だった。周囲に気を配り、客人もちゃんと観察する。しかし歩みは早かった。すいすい進む。トキリに近いからだろう。道もまだ歩きやすかった。ナオミはナプーに近づく。


「どこへ、向かってる?」

「強い、動物」


拳を上げて、力こぶを作った。ゴリラかサルかもしれない。ナプーが強いと言うほどだ。楽しみである。テツとハルに伝えよう、そう思ってナオミが振り返ると、チャンゴが少し遅れていた。夢中で何か撮っている。


「チャンゴ!」

「あ、ああ。すまない」


へらへらと戻って来る。彼は動植物に詳しかった。ここは宝の山だろう。しかし危険である。サムエラはナプーの傍を離れなかった。フロンティアの信用が揺らぐ。食い止めねばならない。突如、淀みなく進むナプーが止まった。


「静かに」


皆も止まる。気配はない。周囲を見渡すが姿もなかった。ナプーは指で前方を示す。


「分かるか?」

「何も」

「本当に何かいるのか?」

「ナプー、」


ナオミが呼ぶと、ナプーは両手の爪を立てて、シャーと猫真似をした。可愛い動きだが、本物は可愛くないだろう。


「道を変える」


ナオミはサムエラをつついた。


「何かいるのか?」

「獰猛な猫のようだ。今は接触を避ける」


チャンゴが近寄って来た。


「たぶんファジールジャガーだな」

「知ってるの?」

「ああ。ジャングルの最奥に住む、幻の動物だ。姿を見たら、生きて帰れないと言われる」


テツとハルに伝える。早速お出ましだ。しかしナプーに余裕があった。一人なら殺っていただろう。ナプーは90度向きを変え、再び歩き出す。チャンゴは名残惜しそうだった。


「クソ、やっぱり探知じゃ無理だ」

「張り合わない。命取りよ」

「分かってる」


後方を見た。ハルは静かに付いて来る。動揺はない。ナプーがいなければ、ジャガーと出会ってジエンドだったかもしれない。そこまで頭が回らないか。大変な仕事になりそうである。


ナプーはより慎重になった。危険が増している証拠だ。目的の場所は近い。ナオミはチャンゴに近づいた。


「ねえ、ファジールにゴリラかサルはいるの?」

「いるよ。でも強くない。動物園で見れるぞ」

「そう。なら新種かもね」

「本当か?」

「止まれ!」


再びナプーが止まった。全員止まる。少し先の地面を指した。草木が邪魔だ。何も見えない。しかしナプーはナイフを持った。木製である。何をするのか。不意にナイフを振りかぶった。淀みはない。力みもない。一瞬氛が高まり、ヒュッと微かに音がした。


「来い」


ナプーに付いて近寄る。蛇だ。50cmほどある。斑模様でどす黒かった。すでに頭はない。ナイフが貫き、土にめり込んでいる。あり得ないとナオミは思った。身体能力だけじゃ無理だ。ナプーはナイフを拾う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ