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フロンティア in the Frontier ~ブレテ島とマノミの狩人~  作者: よっしー
マノミの狩人、ナプー
13/49

小型飛行機は揺れる。離陸中は特に激しい。しかし安定すれば気にならなかった。ナオミは窓の外を見る。雲でよく見えないが、それもすぐに遠ざかった。眼下はファジールの島々である。


アメルティマは北極圏から赤道まで広がる超大陸だ。北半球を覆い尽くす。最南端の半島は南半球まで伸び、フラシニア諸島の中央に刺さっている。ブレテ島は南半球だがほぼ赤道で、フラシニア諸島の最北に位置する。しかしアメルティマからは距離があった。東に行くほど大陸は狭い。


ブレテ島はファジール共和国の東端で、フラシニア諸島の東端でもある。それより東は何もない。延々と海だ。地求海と呼ばれる。かつて地求の大陸はバラバラだった。しかし何億年もかけて、アメルティマとストラティカに集合した。同時に地求海ができる。地求海は超大陸と表裏である。気と氛のように。ブレテ島はその境界を成す。まさに絶海の孤島だ。小型飛行機はそんな絶海の孤島に最も近い島へ向かっていた。


「朝食をどうぞ」

「ありがとう」


一般の客はいない。全員ブレテ島の関係者だ。それでも機内食が出るとは律儀である。ナオミはオレンジジュースを飲む。良く冷えている。ハルは通路を挟んだ隣席で寝ていた。まだ離陸して間もない。よく寝れるなとナオミは思ったが、昨夜はお楽しみだったのだろうか。


向かう先はナイラ島だ。国内便で40分かかる離島だが、島の面積は広く、美しい自然が多く残る。ダイビングスポットとしても有名で、人気のある島の一つだ。ブレテ島に近いこともあり、最近は注目を集めている。ナオミはトイレで席を立つ。オレンジジュースで冷えたようだ。


後ろでテツも寝ていた。足が通路にはみ出している。仕方ないことではあるが、全く邪魔である。ナオミはテツを避けてトイレに向かった。赤マークの使用中だ。しかしすぐ青に変わった。扉が開いて目が合う。死んだ顔のリョウコだった。


「ごめんなさい」

「いえ」


飛行機にはパイオニアも一緒だった。つくづく縁がある。しかし昨夜を引きずることはなく、特に会話もなかった。早朝の便で、皆眠かったのだろう。ナオミがトイレに入ると、中は香水臭かった。この辺りは抜かりない。


ナオミは席に戻り、再び外を見る。島々が綺麗だ。色んな形や特徴があり、見てて飽きなかった。すぐに時間は過ぎて、着陸である。ハルはずっと寝ていたようだ。ナイラ島がやって来る。滑走路が近い。ガタガタ揺れて、ズシンと地面に降り立った。本番のスタートである。


ナオミたちはパイオニアと別れ、タクシーに乗った。ナイラ島は紛れもなくリゾートだ。朝でも観光客が目立ち、メインの通りは賑わっていた。ビーチを散歩する人も多い。


しかし海の方へ目をやると、ブレテ島が遠くに見えた。とにかくでかい。大陸のようにでんと鎮座する。緑が濃い。熱帯雨林だ。中央はビニマ山で、山頂は雲に覆われている。全体的に薄暗い。はっきり言って不気味だとナオミは感じた。一方でブレテ島を横目に散歩する人がいる。それがナイラ島である。タクシーは目的地に着いたようだ。


「さ、行くよ」

「ようやくっすね」

「ふあ、眠い」


到着したのは係留場所だ。ブレテ島にはボートで向かう。同行者とは係留場所で落ち合う予定だった。ナオミはタクシーを降り、周囲を探した。ボートがたくさん並ぶ。その一つに人がいた。誰か近づいて来る。よく見ると迷彩シャツのオジサンだ。サングラスを取った姿が懐かしい。二人は笑顔で近づいた。


「ナオミ、久しぶりだね。元気にしてたかい?」

「ええ。ボラボラさんも元気そうね」


ボラボラは肌艶がいい。黒光りして、50代には全く見えない。お腹が少し出ているが、動きは俊敏だ。フットワーク良く仕事をこなす。未開部族や先住民保護の専門家で、その道30年のベテランである。前回の接触もボラボラが主導した。バイロと同じファジール系で、会話は基本、偀語である。


「ボラボラさんよ。挨拶して」

「は、はじめまして、テツです」

「私の名前は、ハルです」

「私は、ボラボラです。よろしく」


ボラボラは日夲語で挨拶した。バイロと同様、日夲好きである。しかし笑って、日夲語難しい、と言った。あまり話せないようだ。


三人はボートに案内された。いわゆるクルーザーである。ボラボラによると、時速80キロは出せるらしい。ブレテ島までは30分で、前回よりも早く着ける。奮発してくれたようだ。ボートから二人の男が出て来る。


「チャンゴとサムエラだ。こちらはフロンティアの方々」

「はじめまして、ナオミです」


チャンゴは細身で背が高い。ハルと同じくらいだ。年齢は分からないが、猫背と眼鏡で老けて見える。ナオミは笑顔で握手した。手が大きい。チャンゴも笑って応えた。良く通る低い声だ。


サムエラはがっちりした体型である。胸部や腕回りが太い。足も鍛えられているが、背は低かった。年はチャンゴより上に見える。表情が堅いせいだろう。握手のときも笑顔はなかった。挨拶を済ますと、ボラボラはクルーザーをちらっと見た。


「それじゃあ、中で話そうか」

「そうですね」


荷物を持って中に入る。クルーザーの後部はデッキになっていて、ちょっとした空間があった。簡易なデスクとソファーもあり、BBQができる。横からはルーフに上れそうだ。上に何があるのか。


奥はサロンスペースだった。海の上とは思えない。大所帯でも狭く感じなかった。中央は机で、左右には4人以上座れそうなソファーが向かい合う。右がメインだ。コの字に曲がり、机を囲うように置かれている。白を基調とした室内で、木材の色味が高級感を添える。船首側は右に運転席があり、椅子が2つ並んでいた。左は大理石のキッチンだった。ハルはキョロキョロ落ち着かない。


「めっちゃ高級っすね!」

「ああ。セレブになった気分だ」

「さあ、座って。何か飲む?」


ボラボラは飲むジェスチャーをする。テツとハルは理解して、オレンジジュースと言った。机には偀語の資料やメモが並ぶ。ナオミはコーヒーを頼み、三人は左ソファーに座った。チャンゴも右ソファーの端に座る。ナオミのすぐ前だ。サムエラは入口の壁にもたれた。


しばしの間である。会話はない。コップのカランコロンが聞こえる。氷だろう。やたら耳に付いた。ナオミは天井を見て、ルーフに何があるのか気になった。


ようやくボラボラは飲み物を準備し、配り終えた。空いてる方の端に座る。ナオミの逆だ。遠くから嬉しそうに笑った。


「実はな、あれ以来、もう一度トキリに行ってきたよ」


トキリはこれから向かう集落の名前だ。原住民であるマノミの言葉で、安住の地という意味らしい。しかしナオミは驚いた。というか呆れている。


「無茶するわね。能力者の護衛はどうしたの?」

「問題ないさ。彼らは文明に理解がある」


ボラボラは大袈裟な手振りで強調する。本当に行動力は素晴らしい。ナオミはテツを見た。


「ボラボラさん、先に護衛なしで行ってきたって」

「マジか!よく無事だったな」

「マノミ以外にも危険はたくさんあるのよ。マノミだってまだ分からないし」

「だから君たちにお願いしたのさ。もう安心だ」


両手でサムズアップしている。いつまで幸運が続くのか。せめて自分たちでは途絶えさせない、そうナオミは強く思った。気を取り直す。

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