成宮遥は甘やかし8
授業において一番面倒くさいのはなにかと聞かれれば、迷わず体育と答える。
体育の授業など将来のどこで役に立つ? 所詮は動けないやつが動ける奴に馬鹿にされるだけの時間だ。
というわけでサボりを決め込む予定だったのだが、成宮に見つかってしまった以上そうもいかない。現在進行形で男女混合ドッジボールに強制参加していた。
早々に当たって外野に出ればいいやと思っていたが、クラスメイトは俺にボールを当てることを恐れているのか、中々飛んでこない。
自ら辺りに行くのも滑稽なので成行きに身を任せていたら、気づけばこちらのチームに残っているのは持ち前の運動神経でかわし続けていたらしい成宮と何故か被弾しない俺だけになっていた。
「はよ、当ててくれんか」
突っ立っているにも関わらず、一切ボールが飛んでこない滑稽な時間が続く。
成宮を先に狙っているようだが、どうにも当たらないらしい。これ、俺いります? 一応、声援送っておくか。
「頑張れ、成宮」
「任せて」
心のこもっていない声援だったが、成宮に火をつけるには十分だったようで。
飛んできたボールをキャッチすると、ものの数分で相手チームをせん滅していた。
やっぱ、俺いらないよなあ。
授業が終わり、クラスメイト達は教室に向かっている。
次の授業、寝ればいいか。欠伸をしながら教室に戻ろうとすると成宮が歩きにくそうにしているのが目に入った。
「どうした?」
「なんでもない」
「なんでもなくはないだろ。見せてみろ」
明らかに強がっている成宮を近くのベンチに座らせる。
「ちょっと触るぞ」
ジャージをまくると、足首が軽く腫れていた。
こいつ、こんな状態で体育の授業受けてたのか。
「なんで言わなかった」
「負けたくなかったから」
「お前な、それで悪化したらどうするつもりだったんだ?」
「うう、ごめんなさい」
「ほら、おぶってやる、乗れ」
「うん」
成宮はうつむいて、申し訳なさそうにしている。頑張り屋だとは思っていたが、努力や我慢の方向性が違う。自分を傷つけてまですることではない。
身をかがませると成宮が背中に体重を預けてきた。柔らかな胸部の感触が伝わるが、堪能している暇はない。成宮に負担のかからないよう、急ぎ足で保健室に向かった。
保健室に着いたが、保健の先生が席を外しているようで誰もいない。
保健委員でも声を変えればよかったかと思ったが、応急処置くらいなら出来る。喧嘩で怪我するのも、今回ばかりは助けになった。
後で断ればいい、と湿布や氷を取り出し処置をした。
「意外」
「なにが?」
「手慣れてるから」
「ああ、喧嘩とかで、な」
「喧嘩……、そういうの、ダメ」
「はいはい。ほら、出来たぞ。後は安静にしとけ。無理、すんなよ。怪我したら元も子もない」
「うん」
成宮が頷いたのを確認して保健室から出ようとすると、くい、とジャージを掴まれた。
振り向いて見た成宮は、お世辞抜きに天使に見えた。
とんとん、と腰掛けるベッドの隣を叩き、うるんだ瞳でこちらを見上げている。頼りなく俺のジャージを引っ張る姿は、行かないで、と言っているようだった。
「痛みが引くまではいてやる」
「あり、がと」
隣に座ると成宮は俺にだけ見せる笑顔で、えへへ、と笑った。




