想いよ届け5
夏休みまで残り二週間となった今日。翌日に成宮の誕生日を控えた俺たちは、二度目のデートに来ていた。場所は隣町の水族館、夏休みということもあり家族連れで大賑わいしている。気を抜けばはぐれてしまう可能性もある。
それもあってか、成宮はくいくいと定期的に俺のシャツを引っ張っていた。
手を握ってデートするのは付き合ってから、らしい。
初デートの帰りに手を握ったのはノーカウントだそうだ。
「可愛い」
水族館にあまり興味のない俺とは対照的に、成宮は顔をガラスにくっつけるくらい食い気味で水槽をのぞき込んでいる。
小さな水槽の中には、可愛らしい小魚や映画でも話題になった魚が海藻の隙間からひょっこりと顔をのぞかせていた。
「和也も見て」
「あ、ああ」
興奮気味の成宮は後方にいた俺を引っ張り込む。
本人は気づいていないが、すぐ隣に成宮の顔があってどうにも落ち着かない。
魚よりも目がいってしまうのは成宮の可愛らしい笑顔だった。
「次はあっち」
「おう」
水族館の館内マップとにらめっこしながら成宮は屋外を指さす。
どうやらペンギンの大行進が行われるようで屋外イベント会場には子供たちが勢ぞろいしていた。
「ペンギン……!」
「ペンギン好きなのか?」
「うん。とてもキュート」
胸の前で両手を握りしめうきうきしている成宮は子供のように愛らしい。
帰りにペンギンのグッズでも買うか。
数分待っていると飼育員のお姉さんに連れられてペンギンたちがよちよちと歩いて来た。
「はーい、皆さんこんにちはー!」
お姉さんの声に合わせ、子供たちの大歓声が響き渡る。
無論、隣の成宮も声を大にして叫んでいた。
「今からペンギンさんが行進をします! 皆、見守っててねー!」
ぴっ、ぴっとお姉さんの笛に合わせペンギンたちがプールに向かって行進を始める。
子供たちの歓声と、女子の黄色い声がそこら中から飛んでいた。
中々に可愛らしいと隣を見ると、成宮は今日一番の笑顔でペンギンたちの更新を見守っていた。
イベントが終わり、昼食時。
館内のレストランは満席で座る場所がない。再入場できる半券をもらい一度外に出た。
「何か食べたいものはあるか?」
「美味しいもの」
「ざっくりした答えだ」
自信満々に胸を張っているが、たいしたことは言っていないし解決策になってもいない。
まあ、可愛いから許すが。
港近くということもあり街道沿いにはいくつかの寿司屋が乱立しているが、水族館デート中に寿司というのも気がひける。
なにか店はないか、とスマホで探しているとなんだか頭がくらっとした感覚に襲われた。
ところなしか、体も熱っぽい気がする。まさか、風邪か?
「和也?」
「な、なんだ?」
「大丈夫?」
「勿論」
笑って見せたが、察しのいい成宮には気づかれたようで。
人気がないのを見ると、額を合わせて熱を計ってきた。
不意に目の前に成宮の顔が近づいて、余計に熱が上がりそうだ。
「熱、ある。無理しないで帰ろう」
「……すまん」
「ううん。和也が心配」
成宮支えられる形でタクシーを拾って家路につく。
誕生日前日に風邪ひくなんて、俺、なにしてんだろ。




