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成宮遥は甘やかし10

 成宮と知り合って数日。土日を含め毎日夕飯は一緒に食べるし、二人で学校へ登校するのが当たり前になっていた。他生徒からの付き合っているという勘違いが解消されることはないが、次第にどうでもよくなっている自分がいる。


 今日も生徒たちの鋭い視線を一点に受けながら学校生活を過ごしたわけだが、成宮は放課後用事があるらしく一緒に帰れないという。


 久しぶりに辰真と帰ろうかと思ったが、あいつもあいつで忙しいらしい。仕方なく一人で家路についているのだが、この数日間が濃厚だったせいか成宮が隣にいないのが落ち着かない自分がいた。


「夕飯までには戻る、か」


 MINEに来ていた成宮からのメッセージを読み上げながらアパートへ向かう道中、同じ学校の制服を着た男子生徒が向かいからこちらに向かってくることに気づく。


 どこかで見たような顔だが、思い出せない。

 記憶をたどっていると、都合よく向こうから声をかけてきた。


「お前が国分和也か?」

「だったら?」

「ふ、噂通り頭の悪そうなヤンキーだ。こんな奴が遥の彼氏だなんて。おい、悪いことは言わないから、今すぐ遥と別れてくれないか?」


 上から目線の言動、成宮を遥呼ばわりする態度。いかにも自分が一番だと思ってるタイプだ。腹立たしい、今すぐ殴ってやりてえ。……待てよ、まさか、こいつ。


「お前、矢頭か?」

「は、年上を呼び捨てとは、マナーもなってない」

「うるせえ、お前の良くない噂は聞いてる。成宮になんの用だ?」

「決まってるさ。彼女こそ僕のパートナーにふさわしい女性。つまり、僕は王子なんだ。君のような野蛮な不良から姫を救う、白馬の王子だよ」

「は? あんた、頭おかしいんじゃないか?」


 思い込みが激しいうえに、自酔してやがる。気味が悪い。

 限界だ、一発殴ってやろうと拳を固く握ると矢頭はおどけた態度で言った。


「おいおい、僕は武闘派じゃない。喧嘩なんてしたら、せっかくの美形が台無しだろ? だから、言う通り遥から手を引いてくれないか?」

「てめえのような気味の悪いやつに素直に、はいって、言うと思ってんのか? 確かに俺は成宮には不釣り合いかもしれねえが、少なくともあんたよりはマシだ」

「交渉は決裂、かな? くくく、後悔するよ、君。まあいい、残り少ない時間せいぜい遥と楽しみなよ」


 おどけた笑みを浮かべ、手を振って去っていく矢頭。

 後悔させられるもんなら、やってみろ。喧嘩なら絶対に負けねえ。


 成宮はお前のような奴だけには絶対渡したりしない。



 アパートに戻る頃には成宮も用事を済ませたのか、部屋の前で俺を待っていたようだ。手にスーパーの袋を持っているところを見ると、買い出しを済ませた後だろうか?


「買い出しなら手伝ったのに」

「ううん、これくらい出来る」


 鍵を開け中に入ると成宮は買ってきた食材を冷蔵庫に入れている。最初こそ違和感があったが、今では毎晩夕飯を共にしているのもあって俺より手際がいい。


 本日のメニューは親子丼らしい。手洗いを済ませリビングに戻ると、成宮が不思議そうな顔で俺を見ていた。


「和也、怖い顔してる」

「そんな顔してねえよ」

「嘘。怖い夢でも見た?」


 成宮はそう言いながら近づくと、いつの日かのように俺を胸元へと抱き寄せる。

 暴力的なまでに柔らかなおっぱいの感触と、意識が遠のきそうなほどに甘いシャンプーの香り。こいつ、本当に無意識でやってるんだろうな。


「よしよしはいい。本当に何でもないから」

「ほんと? なにかあったらすぐ言ってね?」

「はいはい」


 適当にあしらうと、成宮はにっと口角を上げる。

自分でも驚くくらい幸せな日々が続いている。最近は喧嘩もしてない。


 こんな日々が、ずっと続いていくのだろうか?

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