「JASRAC」と「著作権料」についてちょっと語ってみる。
「JASRAC」という、音楽著作権の管理事業を営む一般社団法人がある。
作曲家の自分としては大変お世話になっている団体だが、最近では音楽教室を相手取った裁判などが取り沙汰され、世間からの印象は正直、あまりよろしくないと感じる。
例えば「ライブハウスを開業すると、どこからともなくJASRACの人が契約にやってくる」など、「悪徳な取り立て屋」のようなイメージをお持ちの方も少なくないのではないだろうか?
そこで、著作権料を受け取る「著作者」の立場から一言言わせていただきたい。
「音楽の著作権料」ってそもそも、ビーーーーーーーックリするくらい少ないんですよ。
例えばCDを例に挙げると、単価のうち著作権料はざっくり6%、それを音楽出版社が半分(およそ3%)受け取り、残りの半分を作詞と作曲で二等分(それぞれおよそ1.5%)する。
さらにそれを収録曲数で割り、自分のように作家事務所に所属していると事務所が手数料を抜き、ようやく自分が受け取る頃にはまるで「みじん切りにされたネギの切りカス」くらいの取り分になる。
(もちろん実績のある方などはフリーでもやれるが、何かしらトラブルになった時に責任を全て自分で負う可能性がある。メジャーの世界だと賠償額も数千万~億単位になる)
そして、世間から嫌われているJASRAC自身の取り分はと言うと、著作権料から数%(種目によって変わる)程度だ。
音楽の著作権料などどの媒体でも数%レベルだから、「数%のうちの数%」という、「みじん切りのカスのカス」程度の取り分だ。
多分、あんまり儲かっていないと思う(というか一応、非営利団体なので)。
もしかするとJASRACを「官僚の天下り先」と思っている方もいらっしゃるかもしれないが、理事長はじめトップはほとんど作詞家や作曲家の方達で、天下りなど今はほとんどないと聞く。
ちなみに、著作者がJASRACと直接結ぶ「信託契約」というものもあり、いわゆる「信託者」になると、JASRACからカラオケやコンサートなどの「演奏権」の取り分を直接受け取れる。
が、信託者になると色々と制約が出てきたり、事務所やレコード会社の取り分が少なくなったりするので、「信託者(JASRAC会員)にならないように」と言われたりする、自分もそうだが。
大御所でいうと、「つんく♂」氏も無信託者だ。
このように音楽の著作権料は本当に微々たるものだが、一つの楽曲が様々な所で使用される可能性があるのがまだ救いだ。
3ヶ月に一度くる印税の明細書にはどこから徴収したかという「種目一覧」が記載されているが、CDやDVDなどの円盤関連はもちろんのこと、NHKと民放をそれぞれラジオかテレビか、生放送か録画かなどで細かく分類されていたり、ちゃんと「オルゴール」なんて種目もあったりする。
(こういうのも、世間からすると「細かい所までチマチマ取りやがって、セコイ!悪徳!」みたいになるのだろう)
その種目ごとの「使用料単価」も基本的に数円レベルだが、今まで一番単価が大きいなと感じたのは「遊技機」、つまりパチンコ台だ。
答えは簡単、パチンコ台は一台数十万円するからだ。
こんな感じで楽曲は様々な場所で使用される訳だが、その全てを自分で管理し徴収するのは到底不可能だ。
だから、JASRACなどの著作権管理事業者が存在し、スズメの涙の著作権料をあちこちからかき集めては著作権者に還元してくれている。
多くの方からすればそんな細かい事情は知る由も無いし、音楽教室からも徴収というのは少々やり過ぎに感じるのは否定できない。
著名な音楽家の坂本龍一氏も苦言を呈していたし、自分としてはこちらの記事に書かれている意見とほぼ同じだ。
「音楽教室にまで徴収対象を広げたJASRACは悪者か?」
https://diamond.jp/articles/-/175701
ただ、インターネットが普及し、「音楽はYoutubeで無料で聞くもの」みたいになった今でも、ちゃんと著作権料が入ってくるのはありがたい。
その裏ではYoutubeといち早く包括契約を結んだJASRACの動きがあった訳だが、それに対しても世間(特にネット民)はよく思わないだろう。
このように、著作者をJASRACが守れば守るほどJASRACへの世間の印象は悪くなるという、なんとも皮肉な話なのだが、最後にもう一つだけ。
自分自身も以前はJASRACに良い印象を持っていなかったし、著作者として著作権料を受け取る立場のことなど一度も考えたことはなかった。
しかし、音楽にせよ小説にせよ作品発表の裾野が広がった今では、いつ自分が著作者となり、著作権料を受け取るようになるかわからない。
その際、ようやく管理業者や管理システムの存在意義を知るのだが、もし著作権という概念やその管理業者、または管理システムが存在しなければ、なろう作者の皆様が精魂込めて書かれた作品を、見知らぬ誰かが勝手に商品化してぼろ儲けしてしまう可能性もある。
しかもそれが思わぬ人気になって数千万〜億単位の売り上げが生まれても、原作者の方にはビタ一文も入らないとしたら。
自分は嫌だと思うのだが。