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第八十二話 モフ通り越してボフ!!

 本当に一切の光源が無い道を、鈴音も骸骨も全く問題にせず進む。

 普通の猫の目は、少ない光を眼球内で反射させ増幅する事によって夜でも見えるという造りなので、このような星明かり一つ無い闇の中ではいくらなんでも見えない。

 だが鈴音の目には昼間もしくは灯りのある室内のように、先へ続くトンネルのような道がはっきりと見えていた。

 やはり“猫の力”ではなく“猫神の力”を貰っているので仕様が違うらしい。

「大神官やら大統領やら追っかけた時の地下通路とかもそうやけど、暗い場所なんやろないうんは解るんよなぁ……でも見えるねんなぁ……不思議や」

 隣を行く骸骨は、鈴音の独り言に首を傾げる。

 そこで鈴音は人の目と猫の目の違いと自身の目の違いを説明し、ついでにその力を貰うに至った経緯や何故この地獄が出来たのかも掻い摘んで話した。


 鈴音と子猫や虎吉や白猫との出会いにはグネグネしたりくるくる回ったりと喜んでいた骸骨だが、話が人によって理不尽に嬲られ殺される犬猫とそれに激怒した犬神猫神連合誕生あたりに差し掛かると、拳を震わせ人に対する怒りを見せる。

 あわや人類滅亡、からの飼い主の命乞いをする犬猫達の逸話には涙を拭う仕草をし、彼らの思いを知り神々の提案を受け入れた犬神猫神が、咎人達へ永遠の罰を与える為に地獄を創ったのだと聞いて大いに拍手した。


「人類が皆殺しになっててもしゃあない思うけど、猫神様や犬神様が他の神様方に負けるんは嫌やから、当時の猫さん犬さん達はよう止めてくれた思うよ」

 鈴音の言葉に骸骨は頷きかけ、はたと気付いて石板に指を走らせる。

「ん?滅ぶ、会えない、悲しい……あ、そうやね!人類滅亡してたら私と骸骨さんは友達になられへんかったから、そういう意味でも止めてくれてありがとうやね!よし、拝んどこ」

 手を合わせる鈴音の真似をして骸骨も犬猫達を拝み、顔を見合わせて笑った。


「そういう訳で、この先に居るんは傷付いた猫さん達と黒猫様と、八つ裂きにしても足りん罪人共ね。私は罪人と同じ種族やから嫌われる可能性高いけど、骸骨さんは気にせんと猫さん達と仲良く遊んでな?その方が猫さん達の気晴らしになる思うねん」

 そう聞いた骸骨はちょっと申し訳無さそうに肩を落としつつも頷く。鈴音と同じく、猫が喜ぶならそれが一番という思考回路が構築されているようだ。

「ふふふ、大勢の猫さんに喜び過ぎて頭落とさんようにねー。あ、そろそろ出口……入口?とにかく着くみたいや」

 通路の先の広がりを目にすると、ふたりの移動速度は自然と上がった。


 長い通路を抜けるとそこは展望台のような場所で、眼下には厚みのある高い壁で仕切られた巨大迷路のような空間が広がっている。

 高さ10mはありそうな壁と壁の間は、人が4、5人並べそうな広さ。

 両手足を突っ張る事は出来ないし、凹凸も無くつるりとした壁なので人が登るのは不可能だろう。

 今の所ここからは猫の姿も人の姿も見えないが、遥か遠くから頻繁に聞こえてくる悲鳴でその存在は確認出来た。

「広いなー!端っこが見えへん!なんやもう、ビルの屋上から街を見てる感覚に近いわ」

 隣に立った骸骨も感心したように頷いている。


「さて、まずは黒猫様にご挨拶せなアカンねんけど、どないしたらええんやろ。勝手に入ったらマズイやんね。呼んでみよかな、失礼かな、けど神社でも鈴鳴らして手ぇ叩いて神様呼ぶねんから、たぶん問題無いはず」

 よし、と頷いた鈴音は見渡す限りの迷路へ向かい、一礼してから柏手を打った。

「猫神様から神使のお役目を賜りました夏梅鈴音です!黒猫様へご挨拶に伺いました!」

 鈴音の声が響くと、迷路のあちこちから『ダレ?』『ナニ?』と猫達のものらしき声が返ってくる。

 そんな、戸惑いを含んだ空気を切り裂くようにして、遥か彼方から真っ黒な塊がミサイルのように展望台目掛けて突っ込んで来た。


 鈴音と骸骨の背後に着弾、いや着地した黒い塊はゆっくりと振り返り、同じく振り返ったふたりを見てニッコリと目を細める。

「よく来たな、鈴音。俺がここを管理している猫だ。そっちは友達か?」

 改めて金色の目で鈴音と骸骨を見比べながら、低く温もりのある声で問い掛ける黒猫。

 白猫より一回り大きく毛足が若干長い上、チラリと見えた牙も立派だ。

 要するに物凄い迫力の雄猫なので、こんな近距離で向き合うと初対面ならまず圧倒されて声も出ないだろう。


 一般的な感覚を持つ者ならば。


「くぁ、くぁんわぅうぃいぃぃぃー!!モフやでモフ!!いやもうモフ通り越してボフ!!ボフボフ!!」

 声量は控えめだが言っている事がやはりアレな鈴音と、転げ落ち掛けた頭骨を慌ててキャッチしくるくる回ってから拝み出す骸骨。

 黒猫の目が『なんかヤバいの来ちゃったよオイ』と言いたげにまん丸になっている。

「……あ。失礼しました!申し訳ありません黒猫様!黒猫様があんまり可愛いもんやからつい!仰る通りこちらは私の友達です。異世界の神使で、他所の地獄がどうなっているのか興味があるそうです」

 我に返って謝っているかと思えば、よく見ると鈴音の両手は無意識に何かを擽るような動きをしていた。

 分かり易い形で欲望が漏れ出るタイプなのだなと理解した黒猫は、そっと距離を詰めて顔を突き出す。

「ん、触っていいぞ。そっちの骸骨もな」

 そうしなければまともに話が出来ない気がした結果の行動なのだが、ふたりは大喜びだ。


「ありがとうございますッッッ!!」

 やたらと気合の入った礼を述べた鈴音がまず手を伸ばし、顎を擦って様子を見る。

「お……?」

 思わぬ心地良さに少し顎を上げて擦りやすくする黒猫に、してやったりの笑みを浮かべた鈴音が頷いて骸骨を促した。

 黒猫の顔の横へ移動した骸骨が、頭の天辺から耳の後ろに掛けてシャンプーでもするように指腹で小刻みに擦る。

「おお……!」

 顎から頬をマッサージするような鈴音の手の動きも合わさって、目を細めた黒猫はついに喉を鳴らし始めた。

「んんー、こりゃいいなぁー」

 極楽極楽などと言い出しそうな黒猫の様子に目尻を下げながら、鈴音も骸骨も暫くマッサージを続けた。


「ふあー、スッキリした」

 ブルブル、と音を立てて頭を振った黒猫は、満足そうな顔でふたりを見やる。

「かみさんが気に入るだけの事はあるな。この間なんか分身の……虎吉か、アイツ共々行方知れずになったって大騒ぎしてたけど、成る程こりゃ探すわな」

 不思議そうに首を傾げる骸骨に、空間が歪んで出来た穴に落ちて異世界に飛んでしまったのだと説明すると、口をパカッと開けて驚かれてしまった。

 どういう経緯で行方不明になっていたのか知らなかったらしい黒猫も、瞳孔全開で驚いている。

「そりゃまた珍しい体験したもんだ。怪我が無くて何よりだったな。……で、今日はその友達に此処を見せてやる為に来たって事でいいのか?」

 黒猫の気遣いに礼を告げながら、鈴音は持って来たビニール袋を見せた。


「骸骨さんの地獄見学と、猫さん達にオヤツの差し入れです。こないだ茶トラさんと約束しまして」

「……オヤツ……だと……!茶トラってどの茶トラだ」

 カッと目を見開いた黒猫の問いに、鈴音が答えるより早く迷路側から可愛らしい少女の声がする。

「ワタシー!」

 厚みのある壁の上に載ってちょこんとお座りしている茶トラ猫を見た黒猫は、目を細めて大きく頷いた。

「でかした!」

 褒められて嬉しそうな茶トラ猫の様子に鈴音と骸骨がデレデレだ。

「ちゃんと約束守りましたよ茶トラさん。えらい?」

 鈴音の声に茶トラはニッコリ笑った。

「エライ!」

「くぁッふぁ○◎▲※□」

 言語らしき何かすら発する事が出来ない程、デロデロに溶けるかの如く崩れ落ちた鈴音の横では、骸骨が胸像になりながら頭を転げ落としている。

「だ、大丈夫か、気を確かにな」

 ヘンタイ達の反応が斬新過ぎて驚きはするものの、悪い気はしないものだなと黒猫は人嫌いだった妻の顔を思い浮かべた。


「はーはー、うっかり召されるとこやった、危な」

 胸を押さえて呼吸を整える鈴音と、頭骨を戻して立ち上がる骸骨。

「すみません黒猫様。オヤツはどちらで差し上げたらよろしいでしょうか」

 ビニール袋の口を開きながら尋ねられ、鼻をフンフンと動かしつつ黒猫は考える。

「迷路にそんな場所ないからなあ。この展望台にするか。何匹かずつ順番にすればいけるだろ」

 黒猫がそう言った途端、迷路の壁の上に次々と猫達が跳び上がって来た。

 大きさも柄もバラバラな猫が、虎吉の言っていた通り30匹。


「可愛い、けどやっぱり警戒はされとるか、うん。のんびり行こう。ほなまずは黒猫様にお召し上がりいただいて、その後ここにおる皆さんが順番にいう事で。待機してはる猫さん方の分までは流石に用意出来んかったんで、なるべくナイショにしといて貰えますか?偶に来るオヤツ係に当たったらラッキーくらいの感じで」

「そうか……。けど当たり外れが出るのは可哀相だな……次鈴音が来た時に今回当たった奴は待機の奴と交代って事にすれば、その内全員に当たるんじゃないか?よし、それでいこう」

 猫は群れを作る動物ではないから、食べ物に関してはいくら黒猫の案でも不満の声が上がるのではと思ったが、皆反論せずすんなり受け入れていて鈴音は驚いた。

「へぇー……凄い。やっぱり神様の言う事はちゃうんかぁ。そういやウチの子らも、おチビから猫神様の匂いがしたらソッコー受け入れとったな」

 偉大だ、と黒猫を尊敬の眼差しで見つめてから、袋から大きなボウルを取り出して地面に置く。


「うーん、テーブル的な物が欲しいなー。ここの地面は猫神様の縄張りのもこもこ雲みたいに形変えられへんのですか?」

「うん?人の手でどうにかするのは無理だな。勿論俺なら出来るぞ?ただ、今思いついて直ぐにってのは出来ないな。何をどうしたいのか教えてくれれば、次までには対応しといてやろう」

「ありがとうございます!ほな今日はこのままで」

 そう言って鈴音はボウルへザラザラとオヤツを開ける。

 目を爛々とさせて待ち構えている黒猫の前に差し出し、『召し上がれ』と声を掛けた。

 即座に口をつけた黒猫は、大きな口で10秒と掛からずに平らげてしまう。

「ごちそうさま。うまかった」

「早ッ!!少な過ぎたかー。次はもうちょい増やしますね」

「む!そうか、悪いな、ふふふふふ」

 口の周りをぺろんぺろんと舐めつつ、黒猫は嬉しそうだ。


「ほな次は猫さん達にー」

 深さのある紙皿を袋から取り出して並べると、横並びで10匹分が置けた。

「順番はそちらにお任せします。私はちょっと離れて見ときますね」

 せっせとオヤツをそれぞれの皿に入れ、骸骨と共に黒猫の後ろへ下がってしゃがむ。

 するとやはりお手柄の茶トラ猫は1巡目でやって来た。他の猫達は黒猫に呼ばれた順番で来ている。

 鈴音の存在を明らかに気にしながら食べる者、まるで気にしない者、人に対する反応は様々だがオヤツは全員に好評だった。

 すると、食べ終えた茶トラ猫が鈴音の足元まで寄って来て、目を輝かせながら体を擦りつけて行く。

「オイシカッタ、アリガト」

 可愛らしいお礼に、鈴音がまたデロデロに溶けてしまったのは言うまでもない。


 紙皿を交換しながら残りの20匹にもオヤツを与え、距離は取った状態ながらもお礼を言って貰ったりして鈴音は大変喜んだ。

「おっしゃ、片付け完了。ほな、迷路の方見てってもいいですか?ついでに罪人ぶっ飛ばしたいんですけど、許可していただけますか?」

 ビニール袋の口を縛りつつの鈴音に、黒猫は目を細めつつ頷く。

「いいぞ。ふたり共好きにするといい。注意事項は虎吉から聞いてるんだろ?」

「はい。消滅さえさせんかったら、何してもええみたいな感じですよね?」

 ストレッチをする鈴音とフードを被る骸骨を見て、興味を覚えたらしい黒猫も大きく伸びをした。


「面白そうだから俺も近くで見るとしよう」

「ホンマですか。そーれは張り切ってまうなぁ」

 悪い笑みを浮かべた鈴音は骸骨と頷き合い、迷路の壁上へと跳ぶ。

 鈴音は猫同士が擦れ違える程度に幅のある壁の上を走り、骸骨はゆったりと迷路上を飛行しながら獲物を探した。

 耳に届く、足音、荒い呼吸、怯えた呟き。

 その中に、聞き覚えのある声があった。

 後ろからついてきていた黒猫が一瞬立ち止まる程の怒りを滲ませた鈴音だが、直ぐに冷静さを取り戻すとその声がした方へ向かう。

 獲物を見つけたらしいと察した骸骨が飛行しながら近付いて来て、石板を見せた。

「んーと、罪人を挟み撃ち。ふたりでボコる?」

 ニヤリと笑う鈴音に骸骨は頷き、更に別の絵を見せる。

「なるほど……でもこれ骸骨さんが傷付かへん?平気なん?ホンマ?解った、ほなこの作戦で」

 ハイタッチを交わしたふたりは、揃って迷路の奥へと向かった。

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