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第七十九話 有料公園へ急げ

 途中コンビニエンスストアへ立ち寄ってから帰宅した鈴音は、またしてもコソコソと自室へ戻る。

 耳を動かし薄目を開ける猫達を撫で、部屋着へ着替えた所で丁度骸骨も帰って来た。

「骸骨さんお疲れー」

 二階の窓をすり抜けて入って来る骸骨へ、ほぼ吐息で声を掛ける。

 骸骨も軽く手を挙げて挨拶し、疲れ切った様子で座り込んだ。

「ありゃー、ホンマに疲れとるんやなぁ。ジュース後にする?」

 それを聞いた骸骨は、顔を上げると同時に水筒を差し出す早業で応えた。

「あはは、了解。今度はぶどうジュースね」

 買い物袋から紙パックを取り出し、水筒に赤紫色の液体を注いで反応を見ていると、りんごジュースと同じ位気に入ったらしく再びの一気飲みだ。


 少し元気を取り戻したように見える骸骨が、石板を取り出しせっせと絵を描く。

「んー?ほぅほぅ、逃げた魂の中に、何処行ったか分からん奴が居る?えー、なんでやろ?擬態とか出来るん?人に化けるとか」

 鈴音の問い掛けに骸骨は首を振った。

「ほな大鎌探した時に見た、火の玉みたいな姿のまま地球上のどっかに隠れてるって事?」

 コクリと頷きそのまま俯きがちになる。やはり相当疲れているようだ。

「その火の玉っぽい魂がどんな気配なんか知りたいなぁ。もし日本におったら私と出くわす事もあるかもしらんし」

 ぶどうジュースのおかわりを注ぎつつ提案すると、骸骨は遠慮するように手を振りかけ、思い止まって考え始めた。


 暫くして大きく頷くと水筒を仕舞い、床に指を這わせ青白い光で円を描く。

 直径30cm高さ1m程の光の円筒を作り出すと、そこへローブから取り出した大鎌の先を突き入れた。

 すると刃先から、黒と紫と緑のマーブル模様を揺らめかせた火の玉が現れる。

「おー!これまた変な色。ん?何か怒ってる?言葉解るんやろか」

 ゆらゆらと燃えていた火の玉の火力が上がったように見えるが、特になんの害も無さそうだ。

「何となく澱っぽい感じもあるけど、やっぱりちょっと違うー……?これ、触ってもええ?」

 骸骨の許可を貰い鈴音が手を伸ばすと、火の玉は慌てた様子で円筒の上へと逃げる。

「逃げ場なんか無いでー、観念しぃやー」

 悪役の笑みを浮かべながら火の玉を追い詰め、遠慮無く握った。

「わ!あはは!これ、ビーズクッションや!おもろーい」

 握られる度に指の間から、はみ出ては戻りはみ出ては戻りする火の玉。


 面白がって遊んでいると、何だかぐったりして来たようだ。

「あれ?大丈夫?もう死んでるから命に別条はないやんね?」

 頷く骸骨の説明を読み解くと、どうやら地獄で与えられる責苦に近い行為をしてしまったらしい。

 火の玉を握り締められるような力を持った獄卒は中々居ないのだそうだ。

 大鎌の先にプスリと刺され回収される火の玉へ一応は謝っておく。

「ごめんやでー」

 果たしてどのランクの罪人に与えられる罰なのかは知らないが、異世界まで逃げるような悪党なら問題無いだろうと鈴音は開き直った。


「何となく澱とはちゃう感じの変な気配、しっかり覚えた。もしどっかで見つけたら捕まえて握っとくね」

 鈴音も勿論、既に火の玉が捕まったこの日本で、他の火の玉と出くわす事などまず無いだろうなとは思っている。

 それでも、恐怖も分け合えば半分で済む、などと言って寄り添ってくれた優しい友の心の負担を、ほんの僅かでも減らしたかった。

 ぎゅう、と火の玉を握る仕草をした鈴音に、骸骨は楽しげに肩を揺らして頷く。

「よし、ほんなら少し寝よ……くぁー。今日は猫オヤツ持って地獄にも行きたいねん……茶トラさんに約束したし……あとは犬神様にも……」

 アラームをセットしてから猫達を避けつつベッドへ入った鈴音は、瞼を閉じると同時に眠りに落ちる。

 それを見ていた骸骨もまた、電池が切れたかのように動きを止めた。



 数時間後、久し振りにアラームが鳴ってから目を覚ました鈴音は、まだ休んでいる骸骨を起こさないよう気を付けながら部屋を出る。

 猫達の世話をしてからランニングという朝の日課をこなし、朝食時に母親へアルバイトの事を告げた。

「実は昨日面接受けとって、夜に返事来て決まった。骨董屋さん」

「骨董?興味あったっけ?何で?」

「代々続いてて倒産しなさそう」

「あー……成る程なー」

 という会話だけで母親は納得し、『頑張りや』と笑って仕事へ向かった。


 鈴音もまた着替えようと自室へ向かう。すると室内では、床の上に畳まれた骸骨の前腕に子猫が載って眠っており、載られた骸骨が嬉しそうに困っていた。

 どうやら、動いたら起こしてしまうと思い身動きが取れずにいたようだ。

「ぶふッ。ゴメン骸骨さん。コラおチビぃー、可愛いなぁもう」

 子猫を両手で掬い上げ目尻を下げる鈴音に全力で同意しつつ、子猫が腕から退いてホッとするやら寂しいやらという雰囲気で骸骨が立ち上がる。

 ベッドで待っていた大人猫達に子猫を任せ、全員をデレデレしながら撫でた鈴音は骸骨に声を掛けた。


「今日、仕事終わってから猫神様が作った地獄へ行こう思てんねんけど、骸骨さんもどない?猫神様の旦那さんの黒猫様と、人に虐待されたせいで人の事が嫌いな猫さん達が居るトコやけど、骸骨さんなら好かれそう」

 その申し出に、一も二もなく骸骨は頷く。

 猫達は勿論、他所の地獄がどうなっているのか興味があるらしい。

「よし決まりー!ほな今日も一日頑張ろ!」

 おー、と拳を突き上げる鈴音の真似をした骸骨は、随分と回復した様子で元気に部屋を出て行った。

 鈴音も、ジャケット、カットソー、ストレッチパンツ、ボディバッグ、スニーカーの、アルバイト店員にも悪霊退治要員にもなれますスタイルで出掛ける。

 アルバイトを雇ったと分かった方が良いと綱木に言われたので、地下鉄を使い人の速度で歩いて店へと向かった。


「おはようございまーす」

 少し大きめの声で挨拶しながらドアを開けると、ちょっと眠そうな綱木が手を挙げて応える。

「はいおはようさん。元気やなあ」

「結構寝ましたからね。あ、それでこれ、ペンダントなんですけど」

 バッグから出した姿隠しのペンダントを返そうとする鈴音に、綱木は手を振った。

「返さんでええ事になったから」

「え?でもこれ大事な物……神器ですよね?入って直ぐの新人なんかに持たしといてええんですか?」

「普通は性格見極めてからやけど、鈴音さんには最初から持たしとく方が効率がええて上が判断してん。まあ、けしかけたん俺やけど」

 ペンダントと綱木の間で視線を行き来させた鈴音は、成る程そういう事かと頷く。


「いつでも何処でも思い立ったら直ぐ掃除、何はともあれ澱を消せ、と」

「当たり」

「これ使て悪事働くかもしれませんよー?」

 わざと悪い顔をする鈴音に笑い、綱木は両手を挙げた。

「そうなったらお手上げや。俺の見る目が無かったいう事やね。まあでも、猫神様の顔に泥塗るような真似を鈴音さんがする筈無い思てるから。そもそも、姿隠さんでもその気になったら泥棒ぐらい余裕やろ?けど、してへん」

 大当たりである。白猫や家族に恥をかかせる訳にはいかないし、犯罪者になって愛猫達と離れ離れになるなど鈴音には死刑宣告と同じだ。

 だから犯罪に手を染める事は有り得ない。

「バレバレかぁー。けどそこまで信用して貰たら、頑張らん訳には行きませんね」

 気合い充分の鈴音へ拍手を送った綱木は、事務スペースのパソコンを指す。

「ほな一応、在庫管理の仕方も覚えといて。ご家族や友達に何か聞かれた時の為に」

「はい!」

 椅子に腰掛けパソコンと向き合った鈴音は、午前中を所謂普通のアルバイトのように過ごした。


 昼休みになると、姿隠しのペンダントを身に着けて桜の精が居る神社へ向かい、時期を過ぎて咲いた桜を見に来ている人々を尻目に社へ直行。

 財布の小銭全部は流石に不格好かと思い止まり、五百円玉をそっと賽銭箱へ落とした。

「えー、昨日は失礼致しました。お陰様で桜の精と協力して澱を消し去れました。ありがとうございます。大変お騒がせ致しました」

 しっかりと拝んでおき、これでよしと桜を見ると、嬉しそうな桜の精が笑顔で手を振っていた。

「ふふ、幸せそうやな。人の笑顔が嬉しいんやろな」

 こちらも笑顔で手を振り返し、今度は最寄りのホームセンターへ跳んだ。


「えーと、猫のオヤツ猫のオヤツ」

 人気の無い場所でペンダントを外し、大急ぎで猫用オヤツを大量購入。

 白猫が食べる分量が多いのは勿論、今回は地獄の猫達の分も入っているため殊の外多い。

「今後はネット通販も視野に入れるか?けどお母ちゃんが怪しむよなー」

 あまり自宅近くの店で大量購入を続けると、近所で妙な噂が立ちかねない。

 かといって頻繁にダンボールが届けば母親が訝しむ。

「やっぱりいろんな店をローテーションが正解かな。せっかくペンダントも使い放題なんやし」

 そう呟いた鈴音は会計を終えると自宅へ戻ってオヤツを隠し、オニギリとお茶で昼食を済ませた。


「ただいま戻りましたー」

 骨董屋へ戻ると、綱木が慌ただしく出掛ける用意をしている。

「あれ?何かありましたか?」

「悪霊が出た。丁度ええから一緒に行こか。色んな現場見といた方がええやろ?」

「あ、はい」

 頷いて、店から出る綱木を追いつつ鈴音は首を傾げた。

「そういう指示は綱木さんにだけ行くもんなんですか?」

「ん?ああ、今回は輝光魂が出張るまでもないやろ、いう判断なんや思う。鈴音さんに行って欲しい時は直接メッセージ入る筈やで?」

「へぇー」

 車の助手席に乗り込み、シートベルトを締めながら更に質問を続ける。

「指示は息子さんが居る安全対策研究室からですよね?現場に居らんのに悪霊の強さとか分かるんですか?」

「目撃した協力者からの通報を受けて、目を飛ばすねん」

「目を……?飛ばす……?」

 運転中なので前を向いている綱木にも、隣の鈴音が物凄く困っているのがよく解かった。


「本省にな、凄いのが居んねん。協力者いうんは、怪異は見えるけど攻撃も防御も出来へん人達。自分の身を守る事にも繋がるから、ボランティアで協力してくれてる訳やね」

「へぇー、マップの澱情報も協力者の皆さんが関わってます?」

「そう、彼らが居らな成り立たへん。ほんでその協力者の通報が本省の研究室に入ると、室長が霊力使て現場を視る。その場から動かんと遠くを視るから、目を飛ばす、やね。千里眼言うた方が解り易いかな。実際どのぐらいの距離まで視えるんかは知らんけど」

「うわー、それこそ犯罪行為に使えそうな能力ですね」

 笑う鈴音に綱木も頷く。

「覗き趣味のある奴に備わらんで良かったでホンマに。ほんで、攻撃的な悪霊かどうかとか見極めて、対応可能な安全対策指導室の職員の中で一番近くに居るもんに指示が出ると。今回は俺やから、それなりに暴れるタイプの悪霊や思うわ」

「あ、そっか。関西代表ご指名て結構な相手ですよね。今回は鬼さんは来はらへんのですか?」

「鬼さんが来てない、天使も来てない、黄泉醜女も来てない、となると無神論者かもしらんね。まだ分からんけど」

 聞き慣れない言葉に首を傾げた鈴音が口を開こうとした時、現場に到着したらしく車は料金所を通り駐車場へ入った。


「ヨモツ……なんですか?」

「ああ、黄泉醜女。黄泉の国……日本の神が治める死者の国の使いやね」

「黄泉の国、そうか鬼さんのトコとは別かぁ。あれ?でも無神論者やと、この国の神様の担当ですよね?」

 シートベルトを外しながらの鈴音に、綱木は微妙な笑みを浮かべる。

「天使や鬼さん達は、きっっっちり働くねんけどな……黄泉醜女はのんびりしとる言うか割とルーズ言うか適当言うか……うん。せやからまだ、神道系の人やったんか無神論者やったんか、はっきりせんねん。まあ、どっちにしろ来るんは黄泉醜女やし、俺がやる事も変わらんのやけどね」

「へぇー……どんな感じなんやろヨモツシコメさん」

 二人揃って姿隠しのペンダントを身に着け、車から降りた。


 現場は、かつて天皇の別荘があった場所に造られた美しい有料公園だ。

 植物園やアスレチックなど様々な施設があるので、観光客が訪れるのは勿論地元の幼稚園や小学校が遠足に利用する事もある。

 今日はそれほど混雑していないようだ。


 綱木と共に園内へ足を踏み入れた鈴音は、魂の光を消して周囲を見回した。

「んー?気配します?」

 人にぶつからないよう注意しつつ悪霊を探すも、鈴音にはよく分からない。

 負の力などまるで感じない上に、猫の聴覚を使ってもおかしな声は聞こえて来ないし、猫の嗅覚には花のいい香りが届くばかりだ。

 平和そのものに思えてしまう。

「ホンマやな、負の力撒き散らしとる感じやないわ」

 問われた綱木もまた、負の力は感じないようだ。

 しかしそこはベテラン。

「こういう時は、相手に動いて貰うんが一番手っ取り早いねん」

 ちょっと意地悪な笑みを浮かべ、ポケットから直径1cmくらいのビー玉のような物を複数個取り出すと、それを空へ向かって放り投げた。

 するとビー玉達は空中で綺麗に並んで円を作り、その輪をどんどんと広げて行く。

 すっかりビー玉が見えなくなった頃、綱木が大きく一度柏手を打った。


 周囲に音が響いた一瞬で、ビー玉が作る円の中の空気が驚くほど変わる。


「お。これは……お寺とか神社とかに近い感じ……?」

「ふふ、そうやね、輪ぁの中まるごと浄化したった。広範囲でやると威力は落ちるから、悪霊を浄化する程の力は無いんやけどね」

「あれですか、煙で燻す感じ?」

「そんな感じやね。……ほら、動いたで」

 綱木の言う通り、微かな負の力が大噴水のある方向から漂って来ていた。

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