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第七十三話 猫パンチはご褒美ですよ

「うう……手の届く範囲に可愛い猫が居たら触ろうとするのが普通だろう……」

「何回言わすねん許可取ってからや!!」

 ヨロヨロとドームへ戻るシオンへ、鈴音の腕の中から虎吉がシャーッと怒っている。


 飽きっぽい虎吉が長々と付き合ってまで行われた特訓だが、まるで成果は上がらなかった。

 鈴音がどれ程『猫から近寄って匂いを嗅いでくれるのを待つ』『じっと見つめない』といった基本的なアドバイスをしても、シオンは直ぐに触ろうと手を出して虎吉を怒らせた。

 途中から軽い電撃を食らわせる作戦も実行したが、その瞬間は直ってもやはり虎吉が近寄ると、いきなり抱き上げようとしたり上から手を出したり。

 虎吉が『俺やなかったらキレとるぞ!!ええぇかげんにせえぇぇぇー!!』とキレてしまったので、今日の所は終了する事にしたのである。


「待っとったら勝手に寄ってきてくれるんですけどねぇ」

 呟く鈴音にシオンは首を振る。

「魔剣じゃあるまいし、触って貰えるまでじっと待つなんて俺には無理。気に入った相手には自分から行かないと」

「グイグイ来る相手嫌いなんですよね大概の猫。しかも“待つ”言われて魔剣想像する辺りがもう駄目ですよね。シオン様が魔剣やったら、さっきのよう喋るヤツみたいになりそう。シオン様が送り込んどいて慌てて浄化したアレ」

 猫に嫌われる性格だと言われた挙げ句、想像力にまで駄目出しされ、シオンはそっと胸を押さえた。

「ふふ、胸が痛いのは何故だろう。でもいいんだ、あの魔剣は天災級だからね。魔剣になってもそこいらの魔剣とはひと味違う辺りさすが俺」

「うわー、ポジティブの無駄使いや……。それよりどの辺が天災なんですか、あの魔剣。シオン様に一撃でやられて私にも何の害も無いとか、他の魔剣との違いが解らへんのですけど」

 ね、と不思議そうに骸骨と顔を見合わせる鈴音を見たシオンは、笑って頷く。

「確かにね。俺達からしたらどれも同じだけれど、人からしたら恐ろしいんだよ。何せ何度でも蘇るからさ」

「え?悪意の塊みたいなもんや言うてたから、人が存在する限り新たに何度でも出来る、いうんやったら解りますけど、蘇るんですか?」

「そう、記憶を持ったまま蘇る。だからどんどんと狡猾さが増して、人々が騙され易くなるんだねえ。以前は大国の国王が乗っ取られて戦争になったし。だから当時の巫女が魔剣かどうか調べる道具を作ったら、今度は宝石なんかに宿って女を使って男を操ってみたり」

 お手上げ、のポーズを取るシオンに、鈴音は首を傾げた。


「そんな面倒臭い魔剣やから、シオン様に預けられた訳ですよね?それ解き放ってよかったんですか?」

「うん、あの時点で既に俺の世界にまた出てるんだよねアイツ。人界にないと消滅したと判断されるのか、神界に存在したまま人界で復活するっていう荒技をやってのけたよ」

「無茶苦茶ですね……。天災レベルかも確かに。でもサファイア様の世界であった事は、流石に記憶されてへんかな?人界同士を繋いだ訳ちゃいますもんね?」

 自らを指差す鈴音へシオンは大きく頷く。

「神官を乗っ取ったらいきなり怪物になったとか、神に連なる者達に遊ばれたとかは覚えてないだろうね。もし鈴音や骸骨に再会したらまた同じ反応をするんじゃないかな?」

 そう言いながら、どさくさ紛れに鈴音に抱えられている虎吉を触ろうとしたシオンは当然威嚇された。

 虎吉が放つ高速の猫パンチをすんでの所で躱し、残念そうな顔をする。

「そこでシバかれてこそ真の猫好き。爪出てへん猫パンチはご褒美ですよ?」

「え、そうなのかい?奥が深いね真の猫好きへの道も」

 猫好きへの道ではなくその先にあるヘンタイへの道だ。

 そうとは知らず今度は当たろう等と呟くシオンを横目に、鈴音はドーム内を見回す。

 既に他の神々は帰っていた。


「お、虹男もおらへん。サファイア様が回収してったんかな。猫神様の縄張りに無断で押し入ろうとした件で、ゆっくりお話しましょう言うてはったしなー」

 鈴音の視線の先では、二つの玉を前足の間に置きそこへ顎を載せた白猫が寛いでいる。

「可愛いぃ……。猫神様猫神様、聞いて下さいすんごい事出来るようになったんです私」

 嬉しそうに近付いて来る鈴音へ、顔を上げて目を細める白猫。

 それを見てデレデレと目尻を下げるシオンと、ありがたやとばかり拝む骸骨。

「雷と氷の魔法が使えるようになったんです。言うても人界での使い所はまず無いんですけど」

 優しい顔で頷く白猫の前に虎吉が降り立ち、家猫には大きい玉をまじまじと見ながら叩いたりして遊び始めた。

「うわ虎ちゃんも可愛いぃ。このままここで眺めときたいけど、仕事行かなアカンのですよねー」

 残念そうな鈴音に骸骨が全力で同意している。


「おや、鈴音は人界へ戻るのかい?それじゃあ俺も帰ろうかな。今日は急な事で手土産も持って来られなかったし……今度は何がいいかな」

 初めて会った時と同じく、白猫から2メートル程離れた位置から問い掛けるシオンに、『多分この神も一遍ブン殴られとるな』と鈴音はこっそり笑う。

「肉がええ言うてはるで。うーん、俺は魚が食いたかったなぁ」

 白猫のリクエストを伝えた虎吉がしょんぼりすると、シオンが任せろとばかり頼もしげな笑みを見せた。

「肉と魚の両方を持って来るよ。虎吉には迷惑を掛けてしまったからね」

「おお、ホンマか?うはは、手伝うた甲斐があったな!」

 目をキラキラさせて喜ぶ虎吉に目尻を下げまくりの鈴音は、猫好きの鑑だとシオンへ音の小さな拍手を送る。骸骨も同じく。

「ふふふ、こんなに称賛されるとは。絶対に美味い肉と魚を手に入れてみせるよ。それじゃ、鈴音も骸骨もまたねー」

 手を振って出口へ向かうシオンを、鈴音はお辞儀で、骸骨はゆらりと揺れて見送った。


「さてと、みんな帰りはったし、戻って仕事しますかー。あ、オヤツのゴミ、仕事終わったら取りに来るから置いといて?家帰らなほかす(捨てる)トコ無いねん」

 もこもこテーブルのそばに置いてあるビニール袋を指す鈴音に、玉を抱えて蹴ろうとしていた虎吉が頷く。

「おう、家着いたら声掛けてくれ」

 そう答えてから、真剣な顔つきで抱えた玉に連続蹴りを加え始めた。

「くぁあ可愛い可愛い可愛い!でも戻らな……」

 未練たらたらで暫し虎吉を見つめてから、溜息と共に立ち上がる。

「はー。よっしゃ、仕事行ってきます。通路開けてー?」

 虎吉が遊びに夢中なので、白猫が右前足を小さく動かして通路を開けた。

「わ、ありがとうございます猫神様。ほな、また後でー」

 ペコリとお辞儀して通路へ入る鈴音に、白猫を拝んでから骸骨も続く。

 ふたり仲良く神が作った道を通り、神界から人界へと戻った。



「ただいま戻りました」

 空間が歪んだな、と思った次の瞬間、その物凄いエネルギーの塊のような場所からまず鈴音、続いて骸骨が姿を現し、綱木は何とも言えない顔になる。

 何故あんな、見ただけで冷や汗が出るような、凄まじい力の渦みたいな塊みたいな所を出入り出来るのか、全く理解出来ない。

 骸骨はともかく人の身では本来不可能だろう、と鈴音を見た綱木は、怪訝な顔で首を傾げた。

「あー、おかえり。うーん?鈴音さん何や雰囲気変わった……ちゃうな、何か増えた?」

「おぉ、すごい!よう分かりましたね?ちょっと、異世界の神様お二方の御力をいただきまして」

 鈴音と骸骨が揃って拍手するが、綱木は何を言われたのかよく解らないという顔で固まってから、遠くを見つめる。


「神?さっきの金髪?それとは別?この一分少々ぐらいで会うたん?そもそも神ってそない簡単に会える存在やったっけ?」

「さっきの金髪の神の奥様と、骸骨さんがお仕えしてる神様です。猫神様が他の神様方に大人気なので、猫神様の縄張りに居れば神様には簡単に会えます。猫カフェならぬ喫茶室猫神なんで。ちなみに神界では時間が流れてないので、こっちの時間の感覚は当てになりません」

 殆ど独り言だった綱木の問いに、鈴音はしっかり返答した。

 しかしその答えによって更に混乱したらしい綱木は、黙って事務スペースの奥へ向かうと、洗面所で顔を洗い出す。

「……まあそうなるかぁ。異世界とか何をアホな、て言われへん状況に追い込まれとるもんねぇ。骸骨さんに会うた後で虹男出て来てるし、私は魔法使いになって帰って来とるし。うん、自分で言うててもビックリするぐらい無茶苦茶や」

 バシャバシャという水音を聞きながら笑う鈴音に、骸骨も大きく頷き石板に絵を描いた。


 曰く、骸骨の世界でも所謂“見える人”にしか骸骨は見えないし、死者の世界もあまり信じられていない。異世界などおとぎ話だと思われている。

 死して初めて異界が本当にあったんだと知るくらいで、異世界を知る人はまず居ない。

 こんな状況になったら殆どの人が混乱するに違いないと。


「やっぱりそんなもんやんね。私も虎ちゃんや猫神様に会わへんかったら、神やの異世界やの考える事さえせんかったもん。自分の魂が光っとるなんて知らんかったし」

 頷き合いながら、ふたりは大人しく待った。

 するとほんの数分で水音は止まり、生え際が少し濡れたままの綱木が戻って来る。

「ふー。ごめんやで。昨日今日と立て続けやからね、頭こんがらがってしもた。取り敢えず、鈴音さんは何やパワーアップして帰ってった、骸骨さんは残りの逃げた魂を捕まえに行く、シンプルにこれだけ頭に入れとくわ」

 スッキリした顔でそう告げた綱木に、鈴音も骸骨も大いに頷く。

「それがええ思います。何か気になる事が出てったらまた聞いて下さい」

「そうさして貰うわ。ほな、仕事の話しよか。まずこの登録票書いて貰て、その後正式採用になるから。一応規約的なもんもあんねんけど……破ったからいうて鈴音さんをどうにか出来る者は居らんからね……。常識の範囲内で行動して下さいとしか言われへん」

 事務スペースの机に書類と筆記具を出しながら眉を下げる綱木に、ちょっと考えてから鈴音は頷いた。

「常識……ですね。大丈夫ですたぶん」

「間が怖い間が。あと“たぶん”言うのやめて」

 鈴音と額に手をやる綱木のやり取りに肩を揺らした骸骨は、自分も仕事へ向かうと石板に描く。


「いってらっしゃい。あ、待って、骸骨さん神界への通路は開けられへんのですよね?ほな、休む場所ないでしょ?私の部屋を拠点にします?なんと猫が三匹もおって、一匹は子猫ですよ。大人猫とはまた違った可愛さで我々を殺しに来ます」

 鈴音の提案に申し訳無さそうにしていた骸骨だが、猫の話が出た途端くるくる回ってから頭が取れそうな勢いで頷いた。

「ふふふー。ほな決定で。綱木さん、今日は何時に終わりますか?」

「あー、それがなぁ。一旦は17時であがって貰てええねんけど、夜中にまた出なアカンかもしらん」

 顔を顰めながら言う綱木へはアッサリ頷き、骸骨に向き直る鈴音。

「ほな夕方5時頃にここの前で待ち合わせましょか。家の場所さえ覚えたら、いつでも帰って来られるでしょ?」

 よしきた、とばかり力強く親指を立てた骸骨は、猫三匹そして初の子猫に心躍らせているのか、それはそれは楽しそうに仕事へと向かって行った。


「ホンマに猫好きやねキミら」

「んふふ、そりゃあもう。ノーキャットノーライフですよ」

 呆れる綱木にもお構いなしで笑い、鈴音はせっせと登録票に書き込む。

「家族構成とかは何で必要なんですか?」

「片付けに行った先にあったモノがおりやのうて呪いやった場合とか、うっかりすると家族に害が及んだりする事もあるらしい。今は滅多に無いいうか俺は関わった事ないけどね。曰く付きやいうて持ち込まれた骨董品でも、澱関係しか見た事ないし」

「もし万が一呪われたら、役所の偉い人が助けてくれるて事ですか?」

「そうそう。関西やったらまず俺に話が来るね。それでアカンかったら西日本担当。それでも駄目ならさらに上、みたいなね。まあ鈴音さんには関係ないな。むしろ最終兵器やろ」

 書き終えた登録票を差し出しつつ、鈴音は首を傾げる。


「せっかく光るだけで一撃必殺出来るんやし、最終兵器にせんと最初の兵器にしたらええのに」

「ああ、そうか。もし呪いが発見されたらそないしよか。その方が安全で確実やね」

「はい、是非。ほんで、今日は何をしたらええんですか」

「んー、ちょっと待ってよー?えーと、これで行ったか?」

 登録票を見つつスマートフォンを弄っていた綱木が顔を上げると、鈴音のスマートフォンが震えた。

「ん?綱木さんから。これは?」

「そっから入ってアプリ入れて登録してくれるかな。二度手間感満載で悪いなぁ。役所のこういうとこアカン思うわ俺も」

 申し訳無さそうな綱木に微笑み、鈴音はサクサクと登録を済ませる。

「おー、何か出た。地図に印が色々」

「うん、それが澱関係の情報な。協力者が日々更新してくれよるねん」

「へえぇー!」

「使い方は後にして、まず鈴音さんはどっちにする?厚労省の職員として給料受け取る?それとも骨董屋の社員として受け取る?」

「……はい?」

 きょとんとする鈴音に、スマートフォンを仕舞いながら綱木は説明した。

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