第六百七話 人見知りさんカモン
集会所の板の間では、結局靴を脱いで正座した鈴音が膝上の虎吉を撫でながら、目線を合わせ隣に浮く骸骨と会話している。
神界ではかなり大雑把な説明をしたので、改めてここまでの経緯を詳しく聞かせているのだ。
興味深そうに頷いていた骸骨は、嘘を見抜く神器の実物をじっくり観察した後、骨だけの自分には効かないなと石板に描いて肩を揺らす。
確かに干からびる要素が無いと鈴音も笑った。
そうしてアルマンの旅立ちまで語り終えた頃、ユミトと狩人兄弟が里長を連れて戻ってくる。
兄弟程に身構えてはいないが、やはり少しばかり緊張した様子で、里長は板の間へ入ってきた。
「お初にお目にかかります、若き神の使い。この集落の長を務めているブリュノと申します」
鈴音達の正面へ回り、ゴザが作る円の真ん中で膝をつくと、胸に手を当て頭を垂れる。
その丁寧な礼を見て、里長ブリュノは礼儀作法を学べる環境に居た事があるようだ、と判断し鈴音は骸骨と視線を交わした。
「ご丁寧にありがとうございます。神の使いの鈴音です。隣の骸骨さんと膝上の虎吉も同じく神の使いです。因みに、こん中で一番偉いのは虎ちゃんなんで、失礼のないようにお願いしますね」
鈴音の注意に合わせ虎吉がフフンと胸を張れば、ブリュノや兄弟だけでなくユミトも唖然とした顔になる。
「少女のみならず、動く骨や獣が神の使いな時点で驚きなのに、最も高い地位は獣……?」
「あの動物、怒らしたらダメなヤツじゃねえか」
「ユミトよく無事だったな」
「うわ、一番偉かったのかアイツ」
思い思いに喋る狩人達を虎吉が半眼で見やると、全員が口を閉じ目を逸らした。
代わって、小さく笑った鈴音が口を開く。
「こちらにお伺いしたのは、明日ユミトさんと一緒に戻らず山へ入る為なんですが。良い機会なので、神と神官と浄化の力についてお話しさせて頂いても?」
この申し出に素早く視線を鈴音へ戻したブリュノは、是非ともと大きく頷いた。
「神が、我々というか、狩人に浄化の力を授けようとなさっている件ですね?」
「そうです。なので、里の皆さんにも集まって頂けると助かります」
しれっと全員参加を呼び掛けた鈴音へ、入口付近に立つユミトが『上手いッ』と音の無い拍手を送っている。
対照的にブリュノは眉を下げた。
「里の者達は大変な人見知りでして。畏れ多くも神の使いと目が合ったりしたら固まって動けなくなるでしょうし、御声を掛けて頂いたら驚き過ぎて気を失うかもしれません」
「どんだけー。目から冷凍光線出る仕様にはなってへんねんけどなぁ。石化の魔法も持ってへんし。ユミトさん、どないかならん?」
鈴音からのパスを受けたユミトは、待ってましたとばかり背負っていた袋を下ろし、ジャムパンを出す。
「ガキどもには俺からの土産がある。んで、神の使いがガキだけじゃなくて大人にも焼き菓子くれる。これ言えば全員集まるだろ」
ユミトの声を聞きながら、鈴音も無限袋からクッキーを出した。シオンの世界の公爵さえ魅了した、日本品質の100円でドッサリさくさくバタークッキーだ。
見慣れぬ透明な袋入りの菓子に、ブリュノの目が分かり易く釘付けになる。
「か、神の使いの焼き菓子……!」
ちょっと違うけどまあいいや、と微笑む鈴音へ視線をやり、ゴクリと喉を鳴らしてブリュノは頷いた。
「そんな貴重な物を頂けるなら1人残らず集まるでしょう。けれど、人見知りである事に変わりはありませんので……」
「はい、そこは問題ないです。経緯を説明して心の準備だけしといて貰うのが狙いやし」
とにかく集まって貰わねばどうにもならないので、鈴音はニコニコと営業用スマイルを浮かべる。
僅かな時間で自然な会話にまで持って行くのは難しいかもしれないが、差別しない人物が存在する事だけでも知っておいて欲しいのだ。
「分かりました、それでは皆を呼んできます。暫くお待ち下さい」
「はーい」
再び頭を垂れてから立ち上がったブリュノが、ユミトと兄弟を引き連れて出て行く。
その背中を見送った鈴音は、今の内にと魔力でローテーブルを作り皿を並べ、骸骨と手分けしてクッキーを盛り付けた。
待つこと数分。
大勢の足音を引き連れて、ブリュノ達が戻ってきた。
一気に室内の人口密度が上がるかと思いきや、誰も入口を潜ろうとしない。
足踏み状態の人見知り組を見て、何らかのきっかけが必要だと考えたユミトは、取り敢えず先に中へ入った。
すると、先程までは存在しなかった、長いローテーブルと複数の大皿が目に飛び込んでくる。
「おー!スゲー!山盛りじゃねえか焼き菓子。これ全部食っていいんだよな?」
「ええよー。早いもん勝ちね!」
ユミトが大声で嬉しそうに言い、鈴音もまた大きい声で応じた。結果、外の全員が慌て始める。
早い者勝ちだなんて酷い。ユミトに全部食べられちゃう。神の使いは怖いが珍しい甘味は食べたい。お菓子だけ置いて帰ってくれたらいいのに。
どうしようどうしようと右往左往する人々。
ブリュノがお先にと入り、少し免疫がついた兄弟が続き、残された面々には焦りが広がって行く。
そんな中、勇気を出して動いたのはやはり、一度鈴音と会っている狩人達だった。
「神の使い、優しかったもん。きっと大丈夫」
金貨のやり取りをした少女が拳を握って息を吐き、凛々しい顔で足を踏み出す。
「怖かったけど、俺らに対してじゃなかった」
「うん、そうだね」
とんでもない力を見せつけられはしたが、それの向く先は動く死体や悪党だった。自分達は何もされていない、と気付いた面々が少女に続いて中へ。
ここまでくれば、ユミトの土産が欲しい子供達が我慢出来ずに続く。そうなると親も行かざるを得ない。
時間は少々掛かったものの、何だかんだで全員が集会所へ吸い込まれた。
室内では、鈴音達と離れたゴザから順に埋まって行き、モタモタしていた人々は後悔の色を隠せない表情で残った席に腰を下ろす。
ユミトとブリュノを挟んで鈴音と骸骨の横になった者達など、緊張のあまり動く死体のような顔色だ。
気にはなったが、声を掛けるのは逆効果だろうなと判断し鈴音達はスルー。
代わって、静かに待つ子供達へジャムパンを配布中のユミトが、呼吸と脈を調べる仕草で小さな笑いを取った。
「おー。この空気ん中で笑い取るとか、流石に心臓強いなユミトさん。カッコええで」
急に鈴音が喋った事で人見知り組は硬直したが、当のユミトは得意げにふんぞり返っている。
「もっと褒めていいぞ。何も出ないけどな」
「出ぇへんのかい。ほなやめとこ」
「やめんのかよ!」
そんなやり取りをしてケラケラ笑い合う2人を眺め、皆はユミトへ尊敬の眼差しを向けた。
少しだけ緩んだ空気を感じ、これなら行けるかなと鈴音が頷く。それを見て、ユミトは皆へ向け両腕を広げた。
「さ、食え食え!神の使いの奢りだ!んで食いながら話を聞け!」
この声を合図に、まず子供達がジャムパンを頬張る。甘いジャムで幸せそうな顔になりながら、ちゃっかりクッキーにも手を伸ばした。
緊張などどこかへやった子供達の様子で、ぼんやりしていたら食いっぱぐれると気付いた大人達も、徐々にクッキー争奪戦へ参加し始める。
「わー、美味ぁい」
「おいしー!」
「いい匂い」
あちらこちらで上がる感想に微笑み、鈴音はゆっくりと口を開いた。
「食べながらでええから、私の話を聞いといて下さいね」
声が耳に届いた大人達は流石に手を止めたが、恐る恐る見た鈴音の表情が柔らかかったので、言われた通りモグモグしながら黙って待つ。
「ふふ、どんどん食べてよ?ほなまずは、神の話からしよかな。神が生きてるいうんは、ユミトさんから聞いてますよね?」
コクリと頷く皆を見回し、鈴音は弱気な創造神について語り始めた。
産休で1人減る(想定内)
病気療養で1人減る(想定外)
激務で総員徐々に疲弊
援軍要請
援軍コロナでダウン←今ココ
今週もう1回は更新したい……
話を進めたい……




