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第六十話 世界まるごとリモート会議

 急に薄暗い世界に戻され、悪党達も神官達も目が慣れず慌てている。

 そこで竜は光球を作り出して広場の上へと移動させ、敷地内を照らした。

 光球に思わず身構えた悪党達だが、先程の物とは性質が違うと理解し力を抜く。

 しかし、ぼんやりと照らし出された門の辺りを見た一人が『あッ!』と声を上げると、釣られてそちらを振り向いた全員が驚いて固まった。

 鈴音に破壊され広がった、かつては門があったその場所に、大勢の人々が集まっていたのだ。

 二重三重どころではない人垣が出来ているように見える。

「おおー?呼び集める手間が省けましたねぇ」

 楽しげな鈴音の声に合わせ竜が指先を僅かに動かすと、大神殿の敷地と街とを隔てる石塀が宙に浮いた。

 分解したそれを敷地内の空きスペースにきっちりと積み上げた竜は、光球をもう一つ二つと出して周辺を照らす。

 すると、大神殿を囲むように人々が集まっている様子がよく解った。

 少し高い位置に居る鈴音からは、この街の住人全てが押し寄せたのではないかという圧巻の景色が見える。


「お集まりの皆さーん!て……これ、流石に声届けへん思う」

 いくら静まり返っているとはいえ厳しいな、と鈴音が眉根を寄せると、小型の光球が目の前に飛んで来た。

 適切な距離を取った光球が空中で静止すると同時に、空へ鈴音の顔が映し出される。

「わあ、こないなっとったんや?」

 声もしっかりと街中に響いた。

「あー、コホン。お集まりの皆さん、この通り誰にでも見える聞こえる形で大統領の演説もお届けしますからね、こちらに詰め掛けて暴動を起こすような真似だけはせんようにお願いしますよ?もしそんな事をしたら……」

 鈴音の言葉に合わせて稲妻が空を駆け巡る。

「命の保証は致しません」

 にっこり笑う鈴音に対し、人々はその場から動かず沈黙することで答えとした。

「皆様のご協力に感謝します。ほんなら、とっとと大統領に喋って貰いましょか」

 鈴音が視線を下げると、怪訝な顔をしている大統領と目が合う。

「これは……どういう事だ?なぜこんなにも人が集まっている?」

「そら、大神殿が光に包まれて、竜も頭突っ込んどるし、何が起きてんねやろなぁいう野次馬根性?」

 すっとぼける鈴音だが、流石にそれで騙される大統領ではない。

「逃げるだろう普通は。竜が見ていない今が好機だと逃げ出しこそすれ、わざわざ近付く馬鹿がどこにいる!神官でもない者には化け物にしか見えんのだぞ!」

 声を荒らげる大統領を宥めようと鈴音が口を開くより早く、人垣から怒声が飛んで来た。

「黙れ人殺し!!」

 その一声を皮切りに、あちこちから次々と人々の怒りが投げつけられる。


「神に詫びろ人殺しー!!」

「何が貴族だこの嘘つきが!!」

「全部自分のためだったのか!!」

「お前なんか死んじまえ!!」


 それこそつぶてのように飛び交う罵声の中で、一際大きな声が響いた。


「俺の仲間を返してくれよ!!」


 最前列にいる三十代半ばくらいの男性が、顔を涙でグシャグシャにしながら叫んでいる。

「俺は!!アイツに!!謝らなきゃならねぇんだよ!!返してくれよ!!なあ!!返してくれよ今すぐ!!」

 手に持った粗末な紙の束を突き出しながら、返せ返せと叫ぶその姿で、察しの良い人々は彼が何者なのかを理解した。


 殺されたあの記者の仲間だと。


「俺が、俺がもっと調べてやりゃ……ほとぼりが冷めるまで匿ってやりゃあ……!!まさかこんな……こんな事になってたなんて……!!」

「……フン、お前達が殺したようなものではないか。どの口で吠えておるのだ愚か者め。他の者達はどうした?出て来られぬか?出て来られぬだろうなあ。仲間とやらを見殺しにしておいて、どの面下げてと私でも言いたくなるくらいだからなあ。ククク」

 涙に暮れる男性を嘲笑う大統領のその顔は、当然ながら空に大映しとなっている。

「化けの皮剥がれまくっとるでー」

 鈴音の声でハッと我に返った大統領は、周囲を見回し憎々しげな顔で睨んだ。

「おのれ……。奴らもあの奇妙な幻を見ていたのだな」

「妙に大袈裟な動きやら人に説くような物言いやら……その為であったか」

 大神官も鈴音の動きを振り返り忌ま忌ましげに唸る。

「ま、そういう事やねー。私なんもしてませんねーん無実でんねーん言うても誰も信じてくれへんわねー」

 小馬鹿にした笑みを浮かべながら、鈴音は階段を下りて行く。

「けどあれやん、腕の見せ所やん。国民はみんな自分で考えもせぇへん馬鹿なんやろ?うまい事喋ったらまた騙せるんちゃうん?今まではそないしてきたんやろ?」

 悪党達の前を素通りした鈴音は、悲しみと怒りをその目に宿し歯を食いしばっている男性の前に、穏やかな表情で立った。

 黙って掌を上に向けた右手を差し出す。

 驚いた男性は瞬きを繰り返したが、直ぐにその意図を理解すると自身が持っている紙の束をそっと手渡した。


 階段へと戻りながら鈴音は紙を広げ、書かれている記事を読む。

 消えた路地裏の住人達の事、頻発する謎の失踪について、失脚した議員や事故死した有力者が反大統領派である事、大統領の過去、地元での評判。


「うわぁ……凄いな。電車も車も無い世界で、自分の足と馬車でここまで走り回っとったんや」

 一枚一枚、光球の前に出して空に映し、人々にも読めるようにした。

「字ぃ読まれへん人は後で読める人に聞いてな。『路地裏に血の跡があって、消そうとして水で流したっぽい、こんなトコ誰も掃除なんかせぇへんのに変や』とか『消えたパン屋の主人は仕事ほっぽって(放り出して)どっか行くような人やない、若い女作って逃げたとか最初に言い出した奴は誰や』とか細かく観察したり人の話聞いたりして、これホンマは何ぞ物騒な事件ちゃうんか?て疑問を呈してはるわ」

 全ての記事が拡大され空に浮いている。

「彼の疑問通り物騒な事件……魔剣の材料にされとったね、失踪した事にされた人らは。わざわざ色んな街からさろて来とるけど、この記事みたいに日付と人数纏めたら、どう考えてもおかしいて解るね。ああ、ここほら、大統領に奴隷扱いされた言うてた人が一家無理心中した件も調べ上げとるし。これ全部、彼が取材して書いたん?」

 涙をボロボロと零して頷く男性を見やり、鈴音は小さく息を吐いた。

「優秀な記者さんや……。優秀過ぎて、大悪党にとって無視出来ん脅威になってもうた」

 両手を握り締め項垂れて肩を震わせる男性から、凶暴な顔をしている大統領へ視線を移す。

「何でこんな面倒臭い記者に目ぇつけられたんや、て思てるやろ。大人が失踪しても、それっぽい噂流しといたら皆信じるやろとかいう雑な考え方しとるからやで。悪党には解らんやろけど、真面目な人はホンマ真面目やねん。周りの人らも見てへんようでめっちゃ見てんねん。そういうとこからやで?一家無理心中の被害者もそう。借金なんかする筈あらへんねんてよ?特に、落ちぶれ貴族からなんて絶対無いらしいで?」

 小馬鹿にするような鈴音の声に勢いよく顔を上げた大統領は当該の記事を探し、そこに“未だ影を落とすかつての身分差から考えても有り得ない話で……”という記述を見つけ、からかわれたのだと理解しまた怒りで真っ赤になった。

「あっはっは!真面目な記者さんがそんな差別表現する訳無いやろ!ほんっっっまアホやなアンタ」

 精一杯意地の悪い顔を作り蔑むような視線で大統領を突き刺してから、記事の束を丁寧に畳んで持った鈴音は虹男にコソコソと耳打ちする。

 幾度か頷いた虹男は、空間を歪めフッとその場から姿を消した。

「ほな、そろそろ演説して貰おかなー。アンタが言うところの馬鹿な国民がどんな判断するか見ものやわー。ああ、せっかくやし国民だけやのうて、世界中の人らに見て貰おか」

 鈴音が言うと同時に記事が消え、空には別の映像が次々に浮かび始めた。


 異なる服装、違う肌の色、髪の色。

 世界中の人々が空を覆い尽くすように映る。

 殆どの国や地域で、この場所と同じく広場に大勢が集まり空を見上げているようだ。

 ジェロディ神官長が居る王国も映り、王国の前の草原で立ち尽くすこの国の軍隊も映った。


「あはは、すごいすごい、世界まるごとリモート会議や」

 喜ぶ鈴音とは対照的に、悪党達も神官達も大神殿を囲む人々も、何が起きているのか今ひとつ理解出来ず呆気にとられている。

 空が隙間なく埋め尽くされる頃、虹男が空間の歪みと共に戻ってきた。

「言われた通り頼んできたよ。国王がやる気満々になって、神官長と騎士団長が困ってた」

 虹男の報告に鈴音は悪い笑みを浮かべる。

「頼もしいな国王様。ジェロディさんのサポートもしてくれはるやろから安心やわ。よし!ほんなら、苛めよ……間違うた、始めよか。サファイア様お願いします」

 右手を挙げた鈴音に応え、光球が大統領を映す。

 下からは自国民の目が、上から左右から前後から四方八方からは世界中の目が大統領の映像に注がれていた。

 それを下から見つめ大統領本体は冷や汗をかいている。

 その時不意に、穏やかだがよく通る声が辺りに響いた。


「これはまた、何とも情けない顔だ。見よ、あれで国の代表のつもりらしい」


 その声を聞き、来た、とばかり鈴音は微笑む。

「あれ?そのお声は国王様やないですか?」

 鈴音が呼び掛けると、ジェロディ神官長とコラード騎士団長を従えた国王の映像が大きくなった。

 同時に、鈴音とカンドーレの映像も空中に映し出される。

 大統領の映像を挟んで、国王達と鈴音達が向かい合っている格好だ。

「おお、鈴音様!カンドーレ神官も!」

 手を振る鈴音と胸に手を当て礼をするカンドーレに、国王達は微笑む。

「お邪魔をしてしまいましたか?あまりにそこな男が小さく見えました故、ついうっかり声に出てしまいました」

 大統領を見ながらシレッと言い放つ国王。

 流石に海千山千の各国首脳と日々戦い続けているだけあって演技派だな、と鈴音も思わず舌を巻く。

「ぜーんぜん問題無いですよ。他の王様や代表の方々もみいぃーんな思た事でしょうし。何なら国民も思てるんちゃいます?俺が私が選んだ大統領はこんなんやない!て」

「それは……そうでしょうなぁ。贈り物を突き返された腹いせに戦を仕掛けるような小さい男だと知っていれば、選んだりはしなかったでしょう。実に気の毒だ」

 憐れみの目を向ける国王に、湯気が出そうな程赤い顔をした大統領が吠えた。

「戦は正当なものだ!!神の御使い殺しを命じた上に実行した騎士を匿ったのはキサマだろうが!!」

 表情がまるで威嚇するニホンザルのようだ、と思ってから鈴音は直ぐに心の中でニホンザルに謝る。あんなクズと一緒にして申し訳無いと。

「己が書いたおとぎ話を真実と思い込むようになってしまったのか?我が国の騎士をそそのかし魔剣を与えたのは誰であったか……そなた以外は皆知っておると思うが」

「……ッぐ。だとしても!キサマの騎士が罪を犯した事に変わりは無い!!」

「そうだな。その赦されざる罪を犯した騎士へは、神御自ら裁きを下された」

 威厳に満ちた国王の表情に、大統領は何も言い返せない。

「そしてその後に、我が友ジェロディ神官長に神剣を授けて下さった。お陰で何処ぞの軍隊に襲われずに済んだわ。これは最早、我が国は赦されたと見て良いのではないか?」

 何を考えているのか読めない国王を睨みつつ、大統領は必死に思考を巡らせ、はたと顔を上げる。

「まだ罪人が居るだろう。騎士一人で神の御使い、いや神を倒せる筈がない」

 片頬を吊り上げて笑う大統領に、当たり前だといった様子で国王は頷いた。

「無論、従った騎士達は投獄済みだ」

 その返答に大統領は苛立つ。

「違うだろう!その騎士達は誰の指示で動いたのだ!!」

「魔剣の騎士の命令だが?あれも一つの班を任される実力者であったからな。そのような者に背かれるとは、全く以て面目ない。不満を聞き出し騎士の待遇を見直してやらねばならん」

 淡々と返す国王に大統領は地団駄を踏みそうな勢いだ。

「ええい違う違う違う!!」

「何が違う。先程からそなた、どうもおかしいな。何が言いたいのだ?」

 一切の表情を消し威圧感を出した国王の指摘で、大統領は己の間違いに気付いた。


 国王の話には、これと言っておかしな点は無いのだ。

 そうなると、こんな世界中の人々が見ている前で、自国の王女が操られ国王の命令書を偽造した等という恥を晒す訳がない。

 それをここで暴露すれば、偽教育係を仕込んだこちらの罪状が増えるだけ。

 神殺しを仕掛けた者として、あの護衛のように悲惨な目に遭うかもしれない。


「クソ……ッ!」

 状況を理解した大統領は、悪態をついてから黙り込んだ。

「ふむ、よく解らぬ男よな。手紙でひたすらに自身も由緒ある貴族だ貴族だと訴える故、少しばかり憐れに思い手を差し伸べてやろうかと考えた事もあったが、止めておいて正解であった。やはりまるで聞いた事もない元貴族になど関わるものではないな」

 国王による明らかな挑発。

「聞いた事がないだと?己の無知を晒すとは愚かな奴め」

 やり過ごす事が出来ず反応する大統領を見ながら、国王はジェロディに話し掛ける。

「そなたは余に比べてあの国に詳しかろう。聞いた事はあるか?」

「さぁて……過去の栄光に縋る者の話などつまらぬものですからなぁ。聞いておっても記憶に残りませんな。記憶に残る愉快さと言えば、先程の道化。あれは愉快でしたな」

 笑うジェロディの言に合わせ、地面に転がっている案内係が映る。

 ギョッとして固まる案内係を、大勢の人々が見つめていた。

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