第五百七十話 複雑な気持ち
「武術披露会の最終予選で会うた、虎ちゃんを避けて私に斬り掛かった実力者や」
鈴音の説明を聞いて、虎吉も『ああ!居ったな、すばしっこいやつ』と思い出す。
「狩人やったんやね」
「ほな葉っぱの神さんが気に入ったん、この兄ちゃんやな?この街に居る狩人であの強さやし」
「そっか。っちゅう事は、浄化の力を見せた方がええんちゃう?」
「え?あー、そうかー、そうやなぁ」
同意しながらも、どこか残念そうな虎吉。
「どないしたん?」
「んー?いや、スパスパッとやるとこ見たかったなあ思て」
鮮やかな剣技を楽しみにしていたらしい。
「それは魔物相手に見して貰お?ほら、戻らず山の魔物を狩る手伝いを依頼するか何かして」
虎吉の願いは可能な限り叶えたい鈴音だが、この狩人が目的の人物だと思われる以上、今回ばかりは我慢して貰わねばならない。
代わりに思い付いた案を出すと、大きなお目々がキラキラと輝いた。
「おお、その手があったか。別に人の首が飛ぶとこ見たいわけちゃうしな、そっちの方がええな」
「よし、そうと決まれば」
鈴音は大急ぎで狩人に声を掛ける。
「その剣!見覚えあるわお兄さん!」
今まさに動く死体へ斬り掛からんとしていた狩人は、まさかの呼び掛けに飛び上がるほど驚いてから、物凄い勢いで鈴音のもとまで走ってきた。
「人違い!」
目ヂカラ全開でそんな事を言われ、鈴音と虎吉は同じ角度で首を傾げる。
今にも余計な事を喋りだしそうな雰囲気に、青い目の狩人は苦虫を噛み潰したような顔で唸るような声を絞り出した。
「口止め料は幾らだ」
「へ?」
きょとんとした鈴音だったが、直ぐに彼が武術披露会への参加をどうしても隠したいらしいと気付き、顎に手をやる。
「お金は要らんから、私の依頼を受けて欲しい」
「……暗殺とかじゃないだろうな」
探るような視線を受け、鈴音は半眼になった。
「そんなもん自分でやった方が早いし」
「そりゃそうか。分かった、依頼を受ける」
「よっしゃ交渉成立。ほな取り敢えず、動く死体を浄化するわ」
「は?」
何を言っているのか、と狩人が聞き返す前に、鈴音は僅かに神力を解放する。
皆が魔力とは違った強い力を感じ驚く中、動く死体が糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。
それと同時に、死体から抜け出た魂がフワリと宙に浮く。
音で振り向いた狩人達は勿論、一部始終を見ていた夫殺しの女と治安維持部隊の3人も、視界に映る光景が理解出来ず唖然としていた。
神殿からは『何事だ!?』『分からん!』等の声と共に、5人の神官が飛び出てくる。
直ぐにでも状況を説明すべき鈴音はと言えば。
「虎ちゃん虎ちゃん、死体の顔どっち向き?」
本人にとって何より大切な事の確認中だった。
「顔か。俯せやな。地面に顔からゴンと行っとる」
虎吉が返事をしている間に、呆然とした表情で浮いていた魂が憎き浮気妻を認識して激怒。
負の感情の暴走により発生した黒い靄で一瞬にして悪霊と化し、妻に取り憑こうと襲い掛かった。
しかし。
「はい、そこまで」
鈴音に後ろ襟を掴まれ、強引に後退させられる。
「邪魔を……するなーーー!」
悪霊が振り向きざま叫ぶや否や、鈴音は第1段階で魂の光を解放した。
「うるさいよ?至近距離で叫ばんといて」
黒い靄を消し飛ばされ我に返った男性の魂は、目をぱちくりとさせながら鈴音を見ている。
「……神が……復活なさった……?」
「私は神やのうて、神の使い。そもそも神は死んでへんから、復活のしようがないんよ。それより、あの女はもう捕まってるから、復讐の必要あらへんのちゃうかな?」
「捕まった……?」
光っている鈴音に掴まれているので、憎い妻を見ても男性が暴走する事はなかった。
「……あれは、どんな罰を受けますか?」
問われた鈴音は、治安維持部隊の3人へ顔を向ける。
「過去の判例から予想して、その女が受けそうな罰を教えて?」
神の使いを名乗る光り輝く存在に尋ねられ、隊員達は視線を交わしつつおっかなびっくり答えた。
「愛人と謀っての伴侶殺害ですので、本来は絞首刑ですが、本人が直接手を下していないので……」
「恐らく強制労働ではないかと……。女囚の場合、鉱山や石切場での飯炊きや洗濯が刑として科されます」
「当たり前ですが魔法は封じられますので、水汲みだけでも重労働だと聞きます。刑期満了まで生きている者は少ないそうで……」
隊員達の説明を耳にして、男性の魂は幾度か頷き、妻は『何それ冗談じゃないよ!』と喚いている。
「あっさり死刑になるより、よっぽど大変そうやね。ほら、あなたが復讐する必要あらへん」
「確かに。俺を殺した男は……」
「この時間に1人で街を出るんは目立つから、まだどっかに潜んでる筈。捕まるんは時間の問題やわ。ほんで捕まったら絞首刑。……そうやんね?」
鈴音が圧を強めにして確認すると、隊員達は思い切り頷きながら『はいッ!』と口を揃えた。
「ハハハ、本当だ、復讐するまでもない……って、あれ?」
愉快そうに笑った男性の姿が、どんどんと薄くなって行く。
「復讐心が消えたから、成仏……えーと、神のもとへ旅立とうとしてるんちゃうかな?」
鈴音が手を離して微笑むと、男性も納得の顔で頷き微笑んだ。
「そのようですね。お手数をお掛けしました。皆さんも、お騒がせしてすみません、ありがとうございました。それでは、これにて失礼します」
「はい、いってらっしゃい」
胸に手を当てにこやかに空へ溶けて行く男性を見送り、鈴音は魂の光を消した。
そうして、隊員達に向き直る。
「あー、もしもし。今見た事、暫くは他言無用で」
「はいッ!……理由をお伺いしても?」
固まっている神官達と鈴音を見比べ、直ぐにでも神は健在だと公表すべきなのではと言いたげな隊員達。
気持ちは分かると思いつつ、鈴音は小さく息を吐いた。
「片付けたいクズが居てるんよ。私が神の使いやて広まると、ソイツが罠に掛からへんねん。本性暴いた上で奈落の底へ突き落としたいんやんか」
「クズ……ですか」
パッと色んな顔が思い浮かんだらしい隊員達は、どれだろうなと考えながらも、そういう事ならと納得し頷く。
ところが、彼らに捕まえられている女は違った。
「黙ってて欲しけりゃ私を助けろ!」
勝ち誇った顔でそんな事を言う。
隊員達は今すぐ女を放り出して、距離を取りたそうだ。あんな光を放ち魂を掴む事が出来る人物に楯突くなど、阿呆にも程がある、と。
その感覚こそが正しいと証明するかのように鈴音は口角を吊り上げ、悪役丸出しの笑みを浮かべる。
直後、地面から漆黒の手が生え、女の手足を掴んだ。
反射的に隊員達は飛び退り、成り行きを見守っていた狩人達は身構え、女は悲鳴を上げる。
金切り声の喧しさに、鈴音と虎吉は顔を顰めた。
「ギャーギャーうるさいねん。神の使いに喧嘩売ったんやから、殺される覚悟ぐらい出来てんねやろ?」
「か、神の使いが人を殺すとかおかしい!」
漆黒の手から逃れようと藻掻きながら反論した女へ、鈴音は心底不思議そうな顔をして首を傾げる。
「なんで?」
「はあ!?何でって、神は人を……人を……?」
言い返そうとした女は、目を泳がせ考え込んだ。
だがどんなに探しても、神に助けられたり、守って貰った記憶は出てこない。
それどころか、神に仕える神官が金次第で動いているのに、何のお咎めもないという救いようのなさ。
「え、人って神に嫌われてんの……?」
女の顔から血の気が引いて行く。
「ご、ごめん!すみませんでした!何も言わない!黙っとくから赦して!?」
「あはは、いややわー、神の使いに喧嘩売ってゴメンで済む筈ないやーん」
鈴音は胡散臭い笑顔でそう告げて晴れた朝の空を指差し、幾筋もの稲妻を走らせた。
その中のひとつを足下へ落としてやると、ヒッと息を呑んで女は失神する。
「はい、お仕置き終わり。もう連行してええよ。狩人を呼んだ詰所の隊員が実行犯の顔見てる筈やから、さっさと捕まえてね」
漆黒の手を消した鈴音の指示を受け、隊員達は急いで女に縄をかけ馬の背に荷物よろしく乗せた。
男性の遺体には狩人達が綺麗に布を巻き、これまた馬の背へ。
「必ずや実行犯の身柄を確保し、罪を償わせてご覧に入れます!」
隊員達は3人揃って敬礼し、来た時の面倒臭そうな様子はどこへやら、背筋をピンと伸ばして馬を引きながら去って行く。
その背中を見つめている鈴音へ、狩人のリーダー格が声を掛けた。
「あんた、ホントに神の使いなのか?神は死んでなかったって?」
振り返った鈴音はあっさり頷く。
「うん。ある日突然、神のお告げがあって。狩人に浄化の力を授けるから、会いに行って伝えるように、て」
急な爆弾発言に狩人達は勿論、様子見していた神官達も騒然となった。
「浄化の力って、さっきのあれ?」
「あんな事が出来るようになる?」
「馬鹿な!神は何を……いや神はお亡くなりで……」
「狩人如きに力を授ける!?有り得ん!」
それぞれが思うまま喋る中、一際大きな声を張り上げたのは狩人のリーダー格だ。
「ふざけんなよ!何を今更!」
ピタリと口を閉じた皆の視線を集めつつ、青い目の狩人は鈴音を睨む。
「生きてた?ここまで、こんな状態になるまで放っておいて、何の冗談だ?浄化の力?そんなもんがあるなら、何でもっと早く誰かに使わせなかった!」
そう思う、と心の中で同意する鈴音と、耳を後に反らし瞳孔を全開にする虎吉。
「動く死体になっちまった人の遺族が!どんな思いで居るか考えた事あんのか!斬り刻まれる事でしか止められなくて!その後はバラバラの場所に埋められて!まるで罪人扱いだ!襲われるような原因作った奴は今日もどっかで笑いながら生きてんのに!」
魂の叫びのように思いを吐き出し、狩人は肩で息をする。
この熱さからして、恐らく彼も大切な誰かが動く死体になったんだな、と鈴音は静かに青い目を見つめ返した。
ただ、黙っていられなかったのは虎吉だ。
「ゴルァ!喧しいんじゃボケぇ!それを鈴音に言うてどないすんねんドアホ!使いやぞ使い!神ちゃうのに何で怒鳴り散らされなアカンのじゃアホンダラ!文句は神に言わんかぇこのクソガキぃ!」
尻尾をボーンと膨らませ全身の毛を逆立てて、鼻筋に皺を寄せ牙を剥きながらの罵倒に次ぐ罵倒。
口の悪さもさることながら、動物が喋った事と、見た目の可愛さに反するドスのきいた重低音に、青い目を限界まで見開いて狩人は固まっている。
そんな、静まり返り緊張感で張り詰める神殿前に、鈴音の猫撫で声が響いた。
「はい優しい虎ちゃーん、落ち着いてー、スリスリー」
「ぬぉ!?ちょ、待て鈴音、今それどころやない」
鈴音が虎吉に頬擦りし始めた事で、張り詰めていた空気が微妙な物に変わる。
「待てぇぇぇ」
「そない照れんでもー」
「照れてへんんん」
両前足を突っ張って頬を押し返し、全力のお断りをする虎吉と、変な顔になっているのに物凄く嬉しそうな鈴音。
訳の分からないやり取りを眺める内、狩人の中で荒れ狂っていた怒りが収まり、何とも言えない気まずさがこみ上げてきた。
「あー……、そのー、おーい」
狩人が声を掛けると、我に返ったらしい鈴音は営業用スマイルを浮かべ、虎吉は素知らぬ顔で左腕に収まる。
「……それこそ今更だぞ」
「あはは、やって貰た。神の使い感ゼロやでこれ」
「俺は知らん。全部葉っぱの神さんが悪い」
ツッコまれた鈴音は遠い目になり、虎吉は洗顔という転位行動を取った。
それを見た狩人は慌てて手を振る。
「いや、悪いのは俺だ。神の使いとは言え、年下の女の子に怒鳴り散らすなんてどうかしてた。すまない」
「ん?私、女の子っちゅう歳ではないよ?24やし」
「え!?下は下でも2つしか違わないのか!?てっきり7つ8つは下だと」
鈴音の年齢には、目の前の狩人だけでなく神官も驚いていた。
日本では年相応にしか見られた事がないので、時々貰うこの反応は何度味わっても慣れない。勘違いしないようにしなければ、と鈴音は己に言い聞かせる。
「まあ、女の子に見える神の使いに悪い事したなぁ思うなら、大人しぃに浄化の力を受け取ると丸く収まるよね」
再び営業用スマイルを浮かべた鈴音は、抗議の口を開きかけた神官を視線で威嚇し黙らせた。
素直に頷くかと思われた狩人はしかし、ムスッと不機嫌な顔になり首を振る。
「それはそれ、これはこれだ。堕落した神官を放ったらかしにして、ここまで世界を荒れさせた身勝手な神の力なんか借りない」
「うわあ頑固。よし、あの事をそこら中の人に教えて回ろう。みなさーん、この狩人のお兄さん実はー」
右手を口の横に添えて声を張る鈴音に、青い目の狩人は慌てに慌てた。
「わーーー!んな、何を言い出すんだあんた、神の使いが約束破っちゃダメだろ!?さっきの女とやってる事いっしょだぞ!?」
両手をブンブン振って目をまん丸にしている狩人を見やり、鈴音はフフンと鼻で笑う。
「身勝手な神が選んだ使いやからね。身勝手に約束も破るかもしらんよね」
「うわ腹立つ。けど神の言いなりは嫌だ……」
絞り出すような声と悔しそうな表情から、彼が本当に嫌がっているのは伝わった。
他の狩人も同じ考えなのだろうか、と残る4人を見てみると、難しい顔をしているのが2人、不安そうにしているのが2人。
積極的な賛成ではないにしろ、そこまで嫌がってはいないように思えた。
「うーん。浄化の力があれば、さっきお兄さんが言うた遺体を斬り刻まれる辛さは無くなるんやけど」
「……分かってる」
視線を戻した鈴音の意見に、青い目の狩人は素直に頷く。
「分かってるんだ。そうすれば、狩人が蔑まれなくなるのも」
現在の神官と入れ替わるわけだから当然だ。
それが分かっていて尚、あっさり割り切る事が出来ないくらい、神に対して怒っているらしい。
「そっかー、思てたより拗れてるんや。ちょっと時間が必要やね」
鈴音が引き下がったので、狩人はホッと息を吐く。
「まあ私もほら、クズ掃除があるし。神にはもうちょい待って下さいて言うとく」
「助かる、ありがとう。ところで、依頼って何だったんだ?」
「ああ、虎ちゃんがね、お兄さんの剣捌きを見たがってたから、戻らず山で一緒に魔物狩りして欲しいな思て」
虎吉を撫でつつ何でもない事のように鈴音が言うと、狩人は薄っすら微笑んで遠い目になった。
「戻らず山って。割とっていうか、かなり結構できる限り力いっぱい本気で行かないと、入った瞬間に死ぬけど」
「え、そんな危ない山やったんや」
「じゃなきゃ、戻らず山なんて物騒な名前にならないだろ」
「成る程そういう意味かぁ。ほな依頼は取り下げた方がええね。私らだけで行こ」
「しゃあないな」
鈴音と虎吉の会話を聞いた狩人は唖然とする。
「いや、俺はそこそこ戦えるから行ける。1人と1匹で行くとか無茶はよせって」
「私の強さ忘れたん?無茶ではないよ。友達も呼ぶし。でも来てくれるんはありがたい」
見た目に惑わされ、鈴音を普通の人と同じように扱っていたと気付き、狩人が頭を掻いて苦笑いした。
「友達も強いのか?」
「うん。最強の動く骨」
「え……、そう、か。友達が動く骨に」
「ん?ちゃうちゃう。動く骨の友達であって、友達が動く骨になったんやないよ?」
訂正されポカンとした狩人は、『動く骨と友達になった……?』と心底驚いているようだ。
「因みに、お兄さんを呼ぶ時はどこへ行ったらええの?街には住んでへんやんね?」
「あ、ああ、西の門から出た先の樹海に集落がある。普通の奴は寄り付かないけど……」
色んな意味で、と言いたげな様子に成る程と心の中で納得し、鈴音は笑う。
「魔物なら蹴散らすから心配せんでええし。私は鈴音。お兄さんのお名前は?」
「ユミト。……ただ、この格好の時は呼ばないでくれると助かる」
声を潜めるユミトに頷いた。
「了解。ほな、今日はもう撤収で」
他の狩人にも視線をやりながら鈴音が告げると、小柄な狩人が近付いてくる。
「あの、これ」
少年かと思っていたら声で少女だと判明したその狩人は、小金貨を差し出していた。
「あ、それは取っといて?私が獲物を横取りしただけやし。取り返すならあの女からでしょ」
「でも女は捕まったし……」
困惑する少女を見やり、施しだと思っているなら良くないなと考え、鈴音は取り返し方を説明する。
「後で治安維持部隊の詰所に行って、肩代わりした小金貨1枚分、強制労働とは別に仕事さしてねって言うから平気。睡眠時間が減るかもしらんけど、知ったこっちゃないし」
悪い笑みを浮かべた鈴音を見て、漸く少女は納得した。
ユミトや他の狩人も笑顔で頷き、それぞれが筋力強化の魔法をかける。
「それじゃ、山に入る時は呼びに来てくれ」
「はいよ。浄化の力の事も考えといてね」
「分かった」
複雑な表情になりつつも片手を挙げて応え、仲間達を引き連れユミトは帰って行った。
あっという間に小さくなる姿を見送って、鈴音も移動しようと踵を返す。
それに待ったを掛けたのは神官達だ。
「お待ちあれ神の使い。浄化の力を狩人にというのは何かの間違い、もしくは神のお戯れと見るが、如何か」
全員の敵意丸出しな視線を平然と受け止め、鈴音は首を傾げる。
「さあ?私は神に言われた通りに動いてるだけなんで。疑問があるなら、直接尋ねたら?神官なんやから当然、神とお喋り出来るでしょ?下っ端には無理なんやったら、大神官に頼んだらええやん」
簡単よね、と笑って地面を蹴った。
「き、消えた!」
「やはり本物なのか!」
偽物だったらあの光をどう説明するんだと呆れた鈴音は、『暫く真面目にやればどうにか』『何とかして誤魔化さねば』等と聞こえてきた声に溜息を吐き、屋根を歩いて神殿から遠ざかる。
「お店が開いたら、魔物避けの材料になりそうなもん探しもって、伯爵父娘の家の場所聞いて、引っ掛け方考えよ」
「せやな。早よ悪人ヅラ拝みたいな」
ふたりして悪い笑みを浮かべながら、数多くの商店が集まる商業地区へ向かった。




