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第五百五十二話 フォレの世界について聞こう

 葉っぱの神こと創造神フォレに興味を持ったお陰でゾンビを忘れた鈴音は、シャキッと復活しさっそく質問してみる。

「そもそも、割と簡単に死者が人界に留まれるようにしはったんは何でですか?」

「うん?だって、冥界へ続く流れに逆らって戻るくらい、やりたい事やり残した事があるんだよ?やらせてあげたいじゃないか。無理にやめさせたら可哀相だ」

 キリッと凛々しい表情はとても男前だが、言っている内容は孫を無責任に甘やかすお爺ちゃんのそれだ。

「えー。そんなん言うんやったら、“死”いう制度を作らんかったらよかったのに。それか、本人が死にたい時に死ねる制度にするとか。いつまでもこっちに()れるんやったら、死ぬ意味あらへんやん」

 呆れた鈴音の大きな独り言に、フォレはポカンと口を開ける。


「本当だ。考えてもみなかったな。増える分は減らさなきゃと思っていたけど……増やす方に制限を設けるという手もあったね」

「ヤバい、また心の声が口から出とったっぽい」

「おう、普通に喋っとったで」

 虎吉に肯定され鈴音は慌てたが、フォレが気にした様子はない。

 白猫ファンの神々は、冒険映像を通じて鈴音の口の悪さと大きな独り言に慣れているので、今さら驚かないようだ。

「失礼しました。えーと、死者が人界に留まるんは神様の御慈悲いう事で理解しました。ほな、それに対する生きてる人の反応はどうなんですか?動く死体や悪霊はやっつける対象みたいですけど、場合によっては動く骨もバラバラにして埋められるんですか?」

 シオンは、動く死体や骨をバラバラにしてあちこちに埋めに行くと言い、フォレは動く骨が警戒される事はないと言った。どう解釈すればいいのか。

 困惑顔の鈴音へ、フォレがふむふむと頷く。


「動く骨は復讐以外の目的で人界に留まった訳だけど、その目的が果たせる保証はないんだ。先程の例で言えば、母親は息子の成長を見守りたいと思っていても、息子や家族がそれを望むとは限らない。何しろ骨は喋れないから、意思疎通が難しいし」

「うわ、切ない。まさか旦那さんが泣く泣く奥さんの骨をバラバラに、とかですか」

「そうだね、骨になった妻がそばに居ても平気な夫なら、息子に言い聞かせるだろうけど。居心地が悪いと思う夫なら、狩人を呼ぶだろうね」

 淡々と語られ、鈴音は苦い物でも含んだような表情になった。

「それ、狩る方も辛いですやん……骨に悪気はないから」

 神の中途半端な慈悲のせいで、心を鬼にしなければならない人が居る。

 本来それは神から力を授かった神官の仕事である筈なのに、彼らは結界を張って遠ざけるだけ。

 嫌な役目を背負うのは、浄化の力を持たない狩人なる者達だという。

 なんという理不尽、と鈴音だけでなく虎吉も半眼になり、フォレは慌てた。


「うん、だから狩人に浄化の力を与えようかなって考えてる所で。ただ、狩人も全員が善人という訳でもなくてね、どうしたものかと悩んでいたんだ」

「そこは善人の狩人に神託降ろして組合でも作らして、所属した人にだけ力を与えたらええ思いますけど」

 あっさりと解決策を示す鈴音を見やり、目をぱちくりとさせるフォレ。

「ほんで浄化1件につき幾ら、て料金設定させるんです。暴れまわる死体は危ないから高めで、穏やかな骨は低めとか。それを破ってぼったくったアホからは、浄化の力を取り上げる」

「おお……!」

「ただ、現金のやり取りではぼったくったかどうか証拠が残りませんから、狩人側も依頼者側も嘘が吐き放題になってまいます。そこをどうするかが問題ですね」

 確かに、と頷く虎吉やシオンとは違い、フォレは不思議そうに首を傾げた。


「狩人側が嘘を吐くのは分かるけど、依頼者側はどんな嘘を吐くんだい?」

 葉っぱの神だけに温室育ちだこのお爺ちゃん、と思いながら鈴音は口を開く。

「私がぼったくられたて組合に訴えたら、アンタ浄化の力を失うんやろ?それが嫌やったらタダでやりぃよ!とか言うて、断られたらホンマに組合へ訴えます。その時に、真偽の程を確かめる術がなかったら、真面目な狩人が職を失う事になります」

「うわ酷い。でもそうか、そんな事を言う者も居そうだね。皆がいい子なら、犯罪なんて起こらないもんね」

 しょんぼりするフォレに、その通りと鈴音達同様に頷いてから、シオンが提案する。

「人が嘘を吐く時の魔力の揺らぎがあるだろう?それを感知出来る道具なり神術……魔法?なりを作ればいいんじゃあないか?」

「しかもその道具なり魔法なりで嘘が判明した場合、物凄い神罰が下るようにしとけば完璧です。神なんかもう死んだんやろ?とかナメて掛かったアホが、この世の地獄を味わう姿を見て、みんな震え上がってしょうもない嘘は吐かんようになりますよ」

 悪い笑みを浮かべる鈴音と虎吉、素晴らしい案だと拍手するシオンを順に見て、フォレはうーんと唸った。


「あんまり酷い罰は可哀相……」

「そんなん言うてるからナメられるんですよ!」

「神は怖がられてこそだよ!?ただ優しいだけでは駄目だと思うけれどね!俺は!」

 クワッと目を見開いた鈴音とシオンの剣幕にタジタジとしたフォレへ、虎吉が溜息交じりに告げる。

「弱い神さんなんか嫌いや」

「ええ!?そんなこと言わないでおくれ虎吉」

「猫神様も同意見や思いますよー。猫の為に人類皆殺しにしようとした超攻撃型ですもん」

 鈴音のこれが(とど)めとなり、温室育ちのお爺ちゃんは撃沈。

「猫ちゃんや虎吉に嫌われたら生きていけない。分かったよ、嘘を吐いていたら干からびて死ぬ罰でも付けて、何か道具を作るよ」

 胸を押さえつつ辛そうに言うフォレから目を逸らし、ゾンビの次はミイラかい、と鈴音は半笑いだ。

 それには気付かず、シオンがポンと手を打つ。


「じゃあ、まずは鈴音に善人の狩人と接触して貰ったらどうかな?浄化の力が存在するんだと分からせておけば、神託も素直に受け取るだろう?」

 その意見に、成る程とフォレが頷いた。

「骸骨を連れて行って問題ないか、調査するのにも丁度いいかもしれないね」

 特訓に使わせて貰うのだから、その位の協力は当然、と思いかけて鈴音はハッと目を見張る。

「いや待って下さい。浄化の力を見せるいう事は、ゾンビに近付かなあきませんやん。絶対無理なんですけど」

 顔を引き攣らせる鈴音と、きょとんとするフォレ。

 虎吉が後を受けて説明する。

「ゾンビは動く死体な。鈴音は悪霊と骨は怖ないねんけど、動く死体はアカンのや。せやから魂が光った状態で触るとか無理やし、神力ぶっ放すにしてもあんまり離れとったら別の意味で無理やろ」

 魂の浄化が出来る程の神力を、目標が米粒くらいにしか見えない位置まで届かせようと思ったら、周辺一帯の建物なり木々なりが危ない。

 何せシオンのせいで途轍もなくパワーアップしている上、ゾンビ怖さに力加減を間違えそうだからである。

「そうか、それは困ったね」

 眉を下げたフォレに、虎吉は小首を傾げた。


「燃やしてええんやったら簡単やねんけどな」

 虎吉の可愛らしい仕草でフォレの目尻が下がる。

「ふふ。そうだったね、鈴音は金属も一瞬で消し去れる炎が使えたね。それで充分だよ?何しろ、そんな強力な魔法が使える者は私の世界に居ないから」

「けど、死体どころか骨まで消えてまうで?浄化して動かんようになったら、墓に埋めたいとかないんか?」

「うーん、動く死体は復讐者だからねぇ。その復讐が正当なものであっても、誰かを殺そうとはしている訳で。そうなると、家族も大っぴらには庇えないんだ。それに本来ならバラバラにされて別々の場所に埋められるんだから、消えてなくなる方が良くないかな」

 それは遺族によりけりだろう、と思ってはいるが、自分がゾンビに触れないのが原因なので鈴音は口を挟まない。

「ふーん、まあええわ。いざとなったら俺が触ってもええしな。ほんならどんな世界か見に行こか」

 何とも頼もしい相棒に見上げられ、幸せな笑顔で鈴音は頷く。


「注意事項と、お金の稼ぎ方があれば教えて下さい」

 そう尋ねられたフォレは、指を振って宙空の映像を鈴音達が見易い位置に動かした。

「この大陸にある、この山の中で影に潜む魔物が出るんだ。だからこの山を擁する国に行って貰うね」

「はい」

 映像を拡大しながらの説明に、鈴音と虎吉が頷く。

「えーと、この国だと狩人は……」

 テーブルに積まれていた書類を手元へ飛ばし目を通して、フォレは渋い顔になった。

「蔑まれているね。死体を切り刻んで金を稼ぐ輩だと、人々から随分と下に見られている」

「わーお。ほな動く死体に襲われても呼ばんといてな、て私やったら言うてまいますわ」

「俺もや」

「俺も言うね」

 鈴音も虎吉もシオンも、嫌悪感丸出しで吐き捨てる。

「そう言われても仕方ないね」

 こればかりは渋い顔のままフォレも同意した。


「それでも人々の為に働いている狩人が居るから、鈴音と虎吉には彼らと接触して貰おう」

「分かりました。因みに、その国に()る神官はどんな感じですか?」

「……堕落しているよ。神の復活を願う祭りだとかを執り行ったりしているけど、彼ら自身が私を信じていない。存在しない神より、金の方が頼りになるし信じられるという考えだ」

「シオン様の世界でそんなん言うたら、纏めて消し飛ばされますよ?」

 眉根を寄せた鈴音が言えば、シオンが当然だという顔で頷く。

「何で、死んだなんて思われるまで放っておいたんだい?それこそ神官から力を全て取り上げるなりすれば、神は健在だと気付いただろうに」

「いやー、何だか悲しくなってしまって。朝と夜に私と会話すると決めていたのに、その時間に遅れてくるようになったり、飲んではいけないよと言っておいた酒を飲むようになったりね。そんな姿を見ていたら、悲しくて声を掛けられなかった」

 肩を落として溜息を吐くフォレ。

 そんな彼を見つめるシオンは、理解不能と言いたげな表情だ。


「悲しんでいないで雷のひとつでも落とせばいい。愚かな者達から力を引き上げ、賢い者達に与えればいい。そうすれば、神官もそこまで堕ちる事もなかったし、狩人なんて大変な職業も生まれなかったさ」

 手厳しい指摘にフォレは寂しげな笑みを浮かべた。

「そうだね。人の心が分からなくなって、植物の育成にばかり力を注いでいる内に、こんな事になってしまった。だから今、こう見えてちょっと慌てているんだよ」

 パジャマ姿でベッドに居て、慌てているとか言われても。とツッコんでしまいそうな鈴音だが、彼なりの頑張りは伝わっているのでやめておいた。

「猫神様に会いに来られへんぐらい、世界と向き()うてはるんですね」

「うん、すっかり猫不足に陥っていたよ。早く世界を良い方向へ導いて、猫ちゃんに会いに行きたいね」

 虎吉へ視線をやって嬉しそうに笑ってから、フォレはまた映像を弄る。


「どこまで話したっけね?ああ、狩人が蔑まれている所までだったね。鈴音まで巻き込まれないよう、何か考えるよ。後は……お金の稼ぎ方か。私の世界では魔物はお金に変わらないんだ」

「ありゃ。探検家みたいな職業はナシですか」

「ないね。殆どが家業を継ぐか、どこかに弟子入りして手に職をつけるか、それぞれの国の軍に入るかしているよ。学者や教師はどの国でも、身分の高い者しかなれないし」

 身分制度あり、と鈴音は脳内の情報を更新した。

「狩人は、そういう枠からはみ出た者達だね。用心棒なんかもそう。実力はあるけど、軍の規律に馴染めなかったとか対人関係で揉めたとか。家業は上の子が継いだから他所に弟子入りしたけど、上手く行かなかったとか」

「あー、そういう事情も、人から下に見られる理由になってそうですね」

 軍の施設らしき広場で、等間隔に並び剣の素振りをしている男女の映像を眺めつつ、苦笑いする鈴音。

 フォレも似たような表情で、うんと頷く。


「この国のように蔑むとまでは行かなくても、どこの国でも少し下の扱いだからね」

「やれやれ。己が彼らの世話になる事はないと、何の根拠もなく信じ切っているのかな。恨みなんてどこで買うか分からないというのに」

 冷ややかに言うシオンへ鈴音も虎吉も全面同意だ。

 困ったように微笑んでフォレも幾度か頷いた。

「本当だね。まあ彼らの立場は今後良くなるからいいとして。まずは鈴音の身分とお金だ。両方を手に入れるのに、丁度いい催しがあるのを思い出したよ」

 そう言って、大陸を俯瞰で見る映像へ切り替える。

 影に潜む魔物が出る山から遠ざかり、海沿いに大きな町がある国を映した。

「ここは周辺諸国を支配する帝国の首都。そろそろ、皇帝の前で最強の武人を決める大会が開かれるんだ」

「最強の武人」

 天下一ナントカ的なあれだろうか、と鈴音は微妙な表情になる。


「出場者は、帝国の支配下にある国々から代表が1人ずつ。そして、予選さえ勝ち抜けば誰でも参加出来る枠が1つ」

「誰でもですか」

「そう、誰でも。国の代表になり損ねた者や、支配下以外の国の腕自慢なんかが集まるよ。優勝すれば多額の賞金が貰えて皇帝お抱えの武人になれるから、軍人にはなれなかったけど狩人にはなりたくない用心棒崩れなんかは必死だね」

 えらく詳しいな、さては毎回楽しみに見ているな、と思いつつも、鈴音がツッコむのは別の部分だ。

「皇帝のお抱えになるんはマズいですよね」

「うん、力技で断ればいいよ。皇帝はお利口さんだから、無理は言わない筈だし」

 あっけらかんと酷い事を言うフォレに、こういう所は神っぽいと鈴音は笑う。

「まあ身分は保証して貰わなアカンので、皇帝のお友達枠あたりを狙いに行きます」

「ハハハ!それはいいね」

 楽しげなフォレに微笑み、他に聞く事はないかと過去の冒険を思い返してみた。


「そうや、無限袋や。何でも入る魔法の鞄とか袋はありますか?」

「あるけど、一般的ではないかな。皇帝とか国王の持ち物で、長距離移動の時とか戦争の時とかに使うよ」

 フォレが引き寄せた資料には、ボストンバッグのような物や行李のような物が描かれている。

「でも鈴音はいつも通りに使えばいい。その方がいかにも神と関わりがありそうだし」

「そっか、神が復活した?とかドキドキさせた方がええんですね」

「うん。それなのに、神官が相変わらず浄化の力を使えないのは何故?と思って欲しい。人々にも、神官にも」

 拗ねたような顔をするフォレに、肩をすくめてシオンが尋ねた。

「神官が鈴音に言い掛かりをつけたり、馬鹿げた対応をしたら?殴り飛ばしていいのかい?」

「うん?うーん……、うん」

「分かり難いよ、ハッキリしない男だなー」

 シオンが両手を腰に当て苛立ちを露わにすると、フォレは困り顔で頭を掻く。


「だって鈴音に殴られたら、堕落した神官なんか直ぐに骨折なり内臓破裂なりしてしまうよ?可哀相じゃないか。でも鈴音を怒らせるような事をする方が悪いし、とも思って悩んだんだ」

「堕落した神官なんかに存在意義はないんだから、骨の1本や2本で済むなら安いものだろう」

 創造物に対しどこか非情になり切れないフォレと、その辺はスパッと斬り捨てるシオンとの差が興味深い。同じ創造神でもまるで違うな、と鈴音は感心した。

 ただこのまま責められ続けるとフォレが機嫌を損ねそうなので、別の質問で話題を変える。

「もし堕落神官へ遭遇したら、対応はその時に考えます。それより、私みたいな魔法を使う人は居てへんそうですけど、魔法使いいう職業はないんですか?あと、呼び方は魔法と魔力でええんですか?」

 問われたフォレはホッとした様子で鈴音を見た。

「呼び方はそれであってる。魔法使いはいないなぁ。専門に出来る程、色んな魔法を使える人がいないから」

 魔法や魔力がある世界では、随分と珍しい話だと鈴音は驚く。


「あれですか、殆どの人は生活がちょっと便利になる魔法を使えるぐらいで、もう少し強い魔法が使える人は軍人になる、とか?」

 過去に訪れた異世界を思い浮かべて予想すると、フォレから拍手が返ってきた。

「その通り。普通の子は指先に小さな火を出すのが精一杯だけど、軍に入れるような子は剣に火を纏わせる事が出来たりね。でも火の魔法だけで戦える程ではない」

「ははぁ……、その程度が強い部類に入るとなると、手加減間違うたらえらい事に……」

 というより、どう頑張っても化け物扱いは間違いなさそうなので、寧ろ誰にでも凄さが分かるように、敢えて派手にやるのもアリかもしれない。

「人を殺さへんようにだけ気ぃ付けて、ドカンとぶちかます?そっちの方が良さげですね」

 ニヤリと口角を上げた鈴音を見て、虎吉とシオンは満足そうに頷き、フォレもそれは神っぽいくて良いなと頷いた。

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