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第五百二十一話 用事は済んでるし帰るよー

 主要メンバーで会議する時に使うという家にて鈴音の話を聞いたエザルタート達は、それぞれがそれぞれの反応を示す。

「思い切り暴れたいなんて理由であのジガンテに行って、短時間で攻略してしまうとか意味不明なんですけど」

 テハが言えばペドラも頷き。

「復讐を公爵家の別邸で、それも公爵の目の前で実行するというのも、何と言っていいのか……」

 分かり易く困惑する2人に、エザルタートが緩く首を振った。

「魔剣カーモスも、伝説の不死者エスピリトゥも退けられるんだから、ジガンテ攻略くらい容易いさ。何しろ神だし。復讐に関しても、エスパーダ公爵ならそういう対応をするだろうなと思えるよ」

 尤もな意見を聞いて、ペドラもテハも『確かに』と納得する。

 反対に首を傾げたのは鈴音だ。


「やっぱりあの公爵は、変わり者として有名なん?」

「そうですね。あの地位にあって、平民と関わろうなんて人はまず居ませんから。競売には探索者でも出品出来るので、他の貴族の事はサッパリでも、エスパーダ公爵の顔と紋章なら覚えてる、なんて奴も多いですね」

 エザルタートの説明を聞いて成る程と頷いた鈴音は、はたと気付く。

「っちゅう事は、侵入するのに使(つこ)たんは別の偉いさんの紋章?あの公爵のんやったら、庶民も知ってるし偽造かもしらんて警戒されそうな気がする」

 大きい独り言に不思議そうな顔をするエザルタート達へ、茨木童子が解説した。


「お前らの復讐の話やな。飽くまでも噂として、皇帝が殺された理由教えたった代わりに、残った側近について公爵に聞いたんや。ほんなら、殺されたけどどんな方法やった思う?て逆に聞かれてな。(あね)さんが『暗殺者は公爵の使者か何かに化けて、堂々と玄関から入ったんちゃうか』いう仮説立てて、公爵も否定せんかったと」

「ああ、そういう事でしたか。確かにその通りで、使ったのはエスパーダ公爵の紋章ではなく、エスクード公爵の物です」

 視線を向けた鈴音にエザルタートは微笑む。

「仰る通り、平民でも記憶している紋章より、貴族らしい貴族で皇族とも深い関わりがある人物の紋章の方が、警戒心の塊も信用するだろうと思いまして」

「やっぱりそうなんやー。けど、世に出回ってへん紋章を偽造出来るとか、今更やけど流石やね」

 鈴音が感心すると、エザルタートは嬉しそうに目を細めた。

 その時ノックの音が響き、カルテロが顔を見せる。


「ただいま」

「おかえり。どうだった?」

 後から入ってくるマホンにも視線をやりつつ、エザルタートが尋ねた。

「割といい感じだったと思う。ガキに媚びるでもねえし、上手く捌いてるように見えた。あ、給金についても軽く話しといたぞ」

 カルテロから出た媚びるという表現に、時折見かける“子供に好かれようとご機嫌取りする大人”を思い浮かべ、鈴音は小さく笑う。

「マホンさん御本人はどう感じましたか?中には捻くれた子も居たかと思いますが」

 エザルタートに問われたマホンは、何だかスッキリとした顔をしていた。

「思っていたよりも普通といいますか、近所にもあのくらいの悪ガキは居たよなぁって感じで……」

「え。いや、あの施設には2人程そこそこヤンチャなのが……ってそういやアイツら絡みに来なかったな?」

 カルテロが怪訝な顔をすると、マホンは首を傾げる。

「部屋の隅に居た子達ですよね?悪戯する気なんだろうなって分かったんで、何を握り締めてるのかなってジーッと見てたら、嫌そうに目を逸らされましたけど」

 しれっと言われ、カルテロだけでなくエザルタートも驚いた。


「悪さしようとしてる気配が分かるのか?」

「睨み合いでやり込めるなんて凄いじゃないですか」

 そんな2人を見やり、何に驚いているのか分からないといった風にマホンは慌てる。

「いえホントに、近所の悪ガキ達と変わらなかったですし。弟のシンザも小さい頃は暴れん坊だったので」

 頭を掻き掻き懐かしそうに目を細めるマホンを、エザルタートやカルテロ、ペドラにテハも『逸材だ』という顔で見つめた。

「改めて採用。というより、力を貸してくれませんか。あなたが言う近所の悪ガキは、一般的な職員では扱い切れない子達なんです」

「えっ?そんなに酷い子達なんですか?毒トゲ蛙を薄毛の爺さんの帽子に仕込んだりする類の子でしょうか」

 エザルタートの訴えに、マホンが深刻な顔をする。予想外の心配を返され、現役暗殺者が遠い目だ。


「……毒トゲ蛙を帽子に?あの、それ一歩間違えたら死にますよ?」

 やり取りを黙って見ている鈴音達は、『毒の専門家がドン引きしてるやん』『猛毒の蛙なんやな』『マホンの地元て殺し屋の街か何かっすか?』『怖い』と視線で会話していた。

「そうなんですよ。でもそのスレスレの危険が楽しいらしくて、やめさせるのは大変でしたねぇ」

 やれやれと溜息を吐くマホンを眺め、どの辺が『ぼんやり生きてきた』に該当するのか問い詰めたくなる鈴音。充分に“野生の獣”と渡り合っているではないか、と。

 ただ、傍から見れば恐るべき殺人未遂事件でも、彼の地元では子供の悪戯で片付けられていたようなので、マホンだけがおかしい訳ではなさそうだ。

 エザルタートも、敬愛する神の推薦する人物がかなりズレた感覚の持ち主だと理解し驚いたものの、寧ろ丁度いいのではと微笑んだ。

「よく分かりました。ウチの施設に毒蛙をオモチャにする子は居ないので、あなたの地元の悪ガキ達よりは扱い易いかと」

「そうなんですか、それなら大丈夫そうかな……」

 安心した様子のマホンへ、エザルタートが問い掛ける。

「僕が運営する孤児院で働いてくれますか?」

「はい、精一杯頑張ります」

 マホンが笑顔で頷き、また1人訳アリな職員が誕生した。



「一番庶民的な常識人に見えて、実は一番ズレてるヤバい奴やったんすかね、あいつ」

「んー、弟の仇討ちの為とは言え、スパッと自分の命を諦められるような人やからねぇ。虎ちゃんが浄化してなかったら、今頃は伯爵に取り込まれてる訳やし。思い込んだら一直線なんは間違いないよね」

 茨木童子と鈴音はコソコソと話し、まあ子供に害はなさそうだから良かろうと結論付けて頷き合う。

 そうして、今日はここへ泊まり明日には新居へ案内する、等とマホンへ説明しているエザルタートに声を掛けた。

「ほな私らは帰るわ」

「えっ!?もう!?」

 驚く皆に鈴音は微笑む。

「うん。本来の用事は済んだし、マホンさんも大丈夫そうやし」

 燃え尽き、孤独に耐えかねて死んでしまう恐れはもう無いだろう。

「ご心配をお掛けしまして……」

 申し訳なさそうにマホンが会釈すれば、鈴音は『こっちの勝手なお節介やし』と笑った。

「よし、外に出てから通路……」

「あ!」

 鈴音の言葉を遮ったのは茨木童子だ。

「そういやアレどないなった?ナントカ織りが有名な国の半分」

 尋ねられたエザルタートはきょとんとしてから、ああはいはいと頷く。


「セーダ織りが特産品の、セーダ王国ですね」

「それやそれ」

「上手くボスケス王国の精鋭部隊を引き込んで、帝国軍を追い出しましたよ。ですので、近い内に本格的な戦いが始まる筈です。ただ、帝国側は主力を失っていますから、勝ち目はありませんね」

 総力戦なら話は別だが、それは現実的ではない。

「そうか。ほな職人らは死なんで済んだんやな」

「ええ。セーダ王国は、ボスケス王国領セーダ自治区となり、自慢の織物でじゃんじゃん稼ぐでしょう。その内、セーダ織りに手を加えた、ボスケス織りなんてものも出来るかもしれませんね」

 微笑むエザルタートに、茨木童子もいい笑顔だ。

「腹括って進んだ道なんやし、上手い事行ったらええな」

「そうですね」

 何だか分かり合っているぞ、とふたりを眺めていた鈴音は、話が済んだようなので改めて皆に挨拶する。


「ほんなら、また何ヶ月か後に様子見に来ます。もしそれ以前に緊急事態が発生した場合は、鈴音を寄越して下さい!て神に祈ったら多分伝えて貰える思うんで」

「はい」

 素直に頷く皆を見て、マホンだけが目をぱちくりとさせていた。

「よし、帰ろ。……て、外で通路開いたら遊んでる子供らが危ないかな」

「せやな。皆を外へ出して、ここで開けたらええんちゃうか?」

「お、素晴らしい。そないしよ。っちゅう訳やから、みんな外に出て下さーい」

 虎吉の案を採用した鈴音が頼むと、エザルタート達は文句も言わず外へ出る。マホンも不思議そうな顔で続いた。

 扉は閉めずに玄関から距離を取って、エザルタートは胸に手を当て跪く。カルテロ達も同様に。

 マホンは驚いたが、鈴音は神託の巫女の友人なのだから、このように敬うのが当然なのかと思い、皆に倣った。チラリと視線をやれば、鈴音は何とも迷惑そうな表情をしている。


「そんなんして、子供らが真似したらどないすんねんな」

「神をお見送りするんですから当たり前です」

「何やもう、日に日に拗らしてってる気がする」

 遠い目をする鈴音の腕の中で、虎吉が左前足をチョイチョイと動かし空を掻いた。

 すると、家の中に凄まじい圧力を伴った渦が発生し、マホンは腰を抜かさんばかりに驚く。そして、驚いているのが自分だけだと気付き更に驚いた。

「またお目にかかれる日を、心待ちにしています」

 寂しげに言うエザルタートへ、笑いながら手を振る鈴音。

「はいはい、ほなまたねー。マホンさんもお元気でー」

 笑顔で渦の中へ消える鈴音に続き、『またな』と男前に言い残して茨木童子が、無言で会釈し骸骨が消えて行く。

 全員が入り終えると、渦は自然に消滅した。



「んななな何ですか!?何ですかあれ!?」

 今度こそ腰を抜かして大混乱なマホンに、エザルタートが怪訝な顔をする。

「神が神の国へ帰る為の道へ繋がる、入り口です」

「ええ!?何でそんな顔!?これ知ってて当たり前でしたっけ!?いやそもそも神って、神!?神がかってる強さでしたけどまさかホントに神だとか、待って神って男性だったんじゃ、神託の巫女の友人って神だから……えぇー!?」

 思考が散らかりまくりのマホンを眺め、カルテロは大笑いし、ペドラとテハは分かる分かると頷いた。

「神は神でも、あなたの思う神とは違うんですよ。夕食の後にでも詳しく話して差し上げます。という訳で、炊事場へ行きましょう」

 何がどういう訳なのか分からないまま、エザルタートに背中を押されるマホン。

「このまま夕食の準備!?どういう気持ちで居るのが正解なのか謎ですよ!?」

「神を敬う気持ちが正解です。はい、野菜切って下さい」

「えー!?」

 わあわあと大騒ぎなマホンを、炊事場に集まっている女性陣が賑やかな人ねと笑いながら見ている。

 結局何だかんだで夕食を作り、ペロリと平らげたマホンが、恐るべき破壊神の話を聞いて引っ繰り返るまであと2時間弱。




 さて神界へ戻った一行は。

「ただい、まッ、戻りましたッ」

 鈴音が白猫の頭突きを腹筋で受け止め、骸骨が拍手する。

 茨木童子はお茶会中の女神達に引っ張られて行った。

「うん、いつも通り」

 笑って白猫を撫でた鈴音は、何らかの理由を付けて力を与えようとするだろうシオンだけ警戒しつつ、テーブルへ向かう。

「猫神様に、お肉盛り合わせとか、宿屋の女将ご自慢の肉料理とかの……」

 お土産があると言い終える前に、白猫は神速で席にスタンバイ。

 流石だと骸骨共々肩を揺らしつつ、急いで後を追ってテーブルに皿を並べた。

「どうぞ召し上がれ」

 鈴音の声を聞いてから、白猫は肉に齧り付く。小皿に取り分けて貰った虎吉もまた。

「にゃー」

「んまいわー」

 幸せな顔と鳴き声で、普段通り鈴音や骸骨、神々を薙ぎ倒す。

 毎度の事なので茨木童子も少しは慣れたらしく、女神達が復活するまでお茶を飲んでのんびり待っていた。



「いやー、やっぱり猫ちゃんのにゃーは破壊力が違うねえ!」

 起き上がってモグモグタイムを鑑賞していた鈴音は、『来た』と一瞬真顔になってから、営業用スマイルを浮かべお辞儀する。

「シオン様!ジガンテではありがとうございました」

「いやいや、あれくらいお安い御用さ」

 薄紫の目を細めて手を振り、シオンは機嫌良く続けた。

「それより今回も鈴音の活躍は凄かったねえ!キミが居なきゃ幼い命が失われていたよ。感謝してもし切れない!という訳で……」

 褒美を取らせる気満々なシオンへ、鈴音が全力のお断りをしようと身構えたその時。

「鈴音、おかえりなさい。待っていたのよ?」

 袖無しのスレンダーラインドレスに身を包み、結い上げた黒髪も美しい女神ノッテが、優雅に手を振りながら近付いてきた。

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