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第四十一話 大神殿まで徒歩3日?

 コラードと国王、気配を消そうとしているかのようなシェーモ、それぞれへ視線をやり、鈴音は首を傾げる。

「謀反?この人以外にもおったんですか、子供騙しに引っ掛かる困ったちゃんが」

「居たのだこれが。此奴の同僚やその部下が、此奴が持っていた偽の聖剣に触れてその力を信じ込み、与太話に乗ってしまった」

 苦虫を噛み潰したような顔をしたコラードは、大きな大きな溜息を吐いた。

「班長共がこの体たらくとは、騎士団の恥。任命した俺の責任を問われても致し方ない。『班長がおかしい』と報告に来るマトモな者が居たから良かったものの……」

 筋肉さえあれば何でも出来る等と言い出しそうな見た目に反し、実に真面目な人なのだなと感心しつつ、鈴音は思い出した事を尋ねてみる。

「街の門番がやる気無さそうやった事とか、山ん中を進む軍隊とか、謀反に関係あります?」


 その問いはコラードを大変驚かせたようだ。

「門番はともかく、山の中の事を何故知っている?陛下がお話に?」

 丸くした目を向けるコラードへ、国王は首を振る。

「ん?ああそうか、あの道で軍隊とすれちごうてからココに来たんやとしたら、時間的におかしなるん……かな?」

 上空からの映像で見ただけなので、距離感が今ひとつ掴めない鈴音に、コラードがブンブンと手を振った。

「時間も確かにおかしいが、そもそもあんな道を女が歩けるわけがなかろう」

「そっちかー。まあ、歩いてないから、どないも言われへんけども。あれですよ、上から見たんです。ほら、神様目線で」

 虹男へ顔を向けニッコリ笑う鈴音に、コラードはポカンと口を開けて三秒程停止し、再起動後おもむろに頷いた。

「上から。上。上か……。うむ、御使い様の御力をもってすればそれも可能……なのだろう」

 鈴音の説明になっていない大雑把な説明を、コラードも何となく適当に理解してくれたらしい。


「あー、ォほン。上から見たというその隊は問題無い。陛下の命で隣国の応援へ向かった者達だ。水汲みで街から男手が消える隙に現れる賊を警戒して欲しい、との要請を受けた。あちらの兵士達は井戸の掘削も担うので、街の警備に回す人手が足りぬそうだ」

「こんな状況でも泥棒とか出るんや……。いや、こんな状況やからこそ、出るんかな。火事場泥棒なんてのが居るくらいやもんね。井戸掘りなんて大変な事してくれる人らの仕事増やしなやホンマ」

 呆れた表情の鈴音に、コラードや神官長達も同じように頷く。

「ほんで、上から見た隊“は”問題無い、いう事は……」

「その通り、門番は奴らの仲間だった。何でも、革命に失敗した際の備えだったらしい。本来街の入口には最も屈強な門番が立っているから、そんな奴に逃げ道を塞がれてはかなわぬ、仲間の中から門番を出しておこう、という事だろう。はっきりせん決行日に踊らされて、何度も夜番をする羽目になり疲れた、と言っていた」

 コラードの説明に頷きながら、やる気も元気も見当たらなかった門番を思い出し鈴音は笑った。

「何から何までお粗末やなぁ。お姫様が混じっとる時点で革命かどうか怪しいけど、王政打倒言うてたから一応は革命なんかなー?民衆は望んでないどころか何も知らんと思うけどなー?」

 チラ、とシェーモを見れば、自らを抱き締めて項垂れている。

「仲間が他にも居る事、黙ってたんやね。仲間がこの場になだれ込んで来たら、どさくさ紛れに逃げたろ思てた?それともこの場を切り抜けたら、後で助けに来て貰える思てた?いやホンマあの雷見た後で、ようそんな誤魔化そ思たなぁ。まあ残念ながら、アンタを助けに来てくれる人は、もう誰もおらんみたいやね。お仲間もアンタいうより聖剣を信じてたんやろから、アンタは放っといて聖剣だけ取り戻すつもりやったかもしらんけど。そんだけ大神殿と聖剣いう名前には信用があって、力も持っとるて事がよう解ったわありがとう」


 淀みなく流れる鈴音の嫌味を聞きながら、国王と神官長がそれぞれ難しい顔をしている。

「大神殿の名が騙られたとはいえ、こうもあっさりと余に不正があると信じられてしまう事に問題があるな」

「とんでもない事にございます陛下!少し考えれば不審な点ばかりが目立つ話を真に受けた此奴らが、此奴らに、問題があるのです!」

 慌てるコラードに微笑みつつ、国王は首を振った。

「神にそのような言い訳は通るまいよ。教育を怠り、不信感を抱かせたお前が悪い、と断罪されよう」

 落雷のあった庭を見る国王につられて視線を移したコラードは、そこにある神の痕跡に顔を引き攣らせる。

 大扉横にある隠し部屋で、謁見の間の様子を確認中に落雷の衝撃は味わっていた。

 けれど実際に抉られた地面をその目で見ると、圧倒的な破壊力に改めて恐怖を覚える。

「こ、今後はこのような不届き者を出さぬと、その為の策を練ると神に誓いましょう」

 身を乗り出すようにして訴えるコラードに、国王はどこか寂しげな顔で頷いた。

「そうだな、今後、があるのなら、そうすると誓おう」

 国王の言葉の意味に気付いたコラードが、勢い良く虹男と鈴音を見る。

「わ、ビックリした。何だよう」

 筋骨隆々の男が睨むように見つめて来るので、とても嫌そうに虹男は鈴音の後ろへ隠れた。

「国王様の事が心配なだけやで。けど、ちゃいますよ団長さん。国王様が言うてる“今後”は、自分の人生に今後があるのなら、やのうて、この世界に今後があるのなら、です」

 うとうとし始めた虎吉に目を細めながら鈴音が告げると、今度は勢い良く国王を見るコラード。

 神官長と神官は顔を見合わせ、何とも辛そうに目を伏せた。


「ああ、やはりそうか、二人は知っていたのだな……。御使い様、この世界に……先はないのですね?」

 神官長達の様子に悲しげに眉根を寄せ、御使い様と言いながらも国王は鈴音を見る。

「神様は、随分とお怒りですからねぇ。取り敢えず、今日明日で滅ぼすつもりは無いそうですが、御力を全て引き上げてしまわれたので、この先も雨は降らないでしょうし、動物も戻らないでしょう。神殿で病や傷を癒す事も出来ませんよね?」

 鈴音に問われた神官長は頷く。

「我々神官に備わっている力で、小さな傷くらいならばどうにか治せますが、その程度の事で人々は神殿を訪れません。人々が神殿に求めるのは命に関わる傷や病の治癒ですから、神の御力無くしてそれは不可能というもの」

「うーん、乾燥した空気に水不足による不衛生な環境、どう考えても疫病が好む状況やのに、神殿は機能していない。この先何が起こるか、嫌でも想像出来てまいますね」

 絶望的な会話を聞いたコラードは言葉を失い、呆然としているシェーモを睨みつける。

「キサマは何という……いや違う、こんな小物を痛めつけても意味は無いのだ。此奴らを焚き付けた輩をどうにか……」

 そこまで言ってコラードは我に返った。

「主犯を見つけ出して、それで気が済むのは我々だけか。神にとっては、そんな輩に気付きもせず放置し、このような事態を引き起こしたお前達全てが悪い、という事になるのか」

 ガクリと肩を落とす様子を見て、鈴音は幾度も頷く。

「そうですね。全世界の人々、生まれたての赤ん坊に至るまで、全てに等しく罰が与えられるでしょうね。というか与えられてますね、既に。それでも私は一応、主犯を探しに行きますけども。このままやとモヤモヤするんで」


 うっかり妙な希望を与えぬよう、あくまでも自らがスッキリする為だけに動くと告げる鈴音へ、神官長が素早く手を挙げた。

「大神殿までの道案内が必要ではございませんかな?」

「え?あー……」

「わ、私も参ります!大神殿の無実を証明しなければ!」

「えぇ……?」

「何を言い出すのだ、私だけで良い。そなたは神殿に戻りなさい」

「ちょ……」

「嫌です、お供します!」

「いや待って聞いて?」

 上司と部下というより、父と息子のようなやり取りに、どうにかこうにか鈴音は割って入った。

「えーと、たぶん結構な距離ありますよね、大神殿まで。お二方共、何で行かはるおつもりで?」

 二人を順番に見つめ、ニッコリ笑う鈴音。

「馬車か馬を……あッ!」

 答えかけた神官長はそこで気付き、少し遅れて神官も気付いた。

「と、徒歩ですな」

「そう……なりますね」

 この世界の動物は全て、女神サファイアが別の世界へ移してしまったのだ。

 当然、馬も居ない。

「徒歩やとどのぐらいかかります?」

「……三日はかかるかと」

 神官長の答えに、鈴音は笑顔のまま首を振った。

「無理。そんな時間かけてられません。私と彼なら一瞬で着きます」

「そんな……」


 別に意地悪で言っているのではないのだ。

 もし自身が生身の人を背負って音速を超えたら、背負われた人に何が起きるか、さすがの鈴音にも薄っすら想像出来ただけなのである。


 けれど、しょんぼりしてしまった神官長達を見ていると、自分が物凄く悪い事をした気分になり、鈴音は長い溜息を吐いた。

「私が神様なら、何かこう、膜みたいなモンで覆ってなー、圧力の類全部無しにしたりするけど、神様ちゃうからなー。いや、神様ならそもそも走らんでも、瞬間移動的な何かが出来そう。ゲームの駒動かすみたいにこっからあっこ(ここからあそこ)!とか」

 突然大きめの独り言を口にする鈴音に皆が戸惑う中、まるでその言葉に呼応するかの如く部屋の中央部分の床が青く光り始める。

 真っ先に神官長達が気付いた。

「あれは!?それに、この御力は……!」

 青い光から感じ取れる力に目を見開き、感極まったのか震える手で胸を押さえる神官長と、同じく目を見開いて涙を流す神官。

「神よ……まだ私達を見ていて下さったのですか」

 共に跪いて胸に手を当て、青い光に向け頭を垂れた。


「雷には無かったけど、この光にはサファイア様の神力が混ざっとるから、神官長様も神官さんも感じ取れたんかな?……ほんで、あの光は何?ワープゾーン的な?」

 自身の独り言に応えてくれたのは解ったが、あれをどう使うのか鈴音には解らない。

 取り敢えず虹男に尋ねるも、不思議そうに首を傾げられた。

「まあそうやんな、解らんわな。よし、乗ってみよ……の前に、この聖剣、虹男から神官長様に返してくれへん?私が渡すより喜ぶ思うから」

 借りっぱなしだった聖剣を差し出すと、笑顔で受け取った虹男はそのまま神官長へ近付く。

「ちょっといい?これ返すよ、貸してくれてありがとね?」

 顔を上げた神官長は、神の御使いから笑顔で聖剣を差し出され、ついに堪え切れず涙を零し両手で恭しく受け取った。

 聖剣を手に歓喜の涙を流す神官長を目にして、虹男は慌てた様子で鈴音を振り返る。

『大丈夫なの!?泣いちゃったけど!?』

『感動しとるだけやから大丈夫!喜んでるねん、嬉し涙や』

 視線とジェスチャーで会話し、納得したらしい虹男はホッと胸を撫で下ろしていた。


「ぃよし!ほな取り敢えず、乗ってみよか光の上に。大神殿まで飛ばしてくれるかもしらんし。もしそれでアカンかったら使い方聞きに行くわ」

 ポン、と右脚を叩いて鈴音が声を掛けると、神官長と神官が涙を拭いつつ立ち上がる。

「我々もお供して宜しいのですか?」

 聖剣を鞘に収めた神官長に尋ねられ、鈴音は大きく頷いた。

「神様が、連れてったれ言うてはる証拠でしょ?あれは」

 その答えに幸せそうな表情をする二人へ、人差し指を立てた鈴音が真剣な顔を見せる。

「ただ、私のする事に一切口を出さないと約束して下さい」

「それは……どういう意味でしょうか」

 何やら不穏な空気を感じ、こちらも顔を引き締めた神官長が確認した。

「大神殿に巣食うモノを明らかにする為に、場合によっては汚い真似もする、いう事です。そこにいちいち口出されたら、台無しですから。とにかく黙っといてくれるだけで大丈夫なんで。それが嫌や無理や言うなら置いて行きます。神様も、真相を知る方が優先やろから、怒らんでしょう」

 うんうん、と自らの言葉に頷く鈴音を見つめ、神官長は直ぐに腹を括った。

「私も真実を明らかにしたいので、何があろうと邪魔はせぬと誓います」

 神官長の言葉を聞いた神官は、両手を握り締め青い光を見つめてから頷く。

「私も、一切の口出しはしないと誓います」

 澄んだ目で真っ直ぐ鈴音を見る神官は、心の底から大神殿の無実を信じているようだ。

 恐らくかなり早い段階で、この純粋な人を傷付ける事になるだろうな、と鈴音は遠い目をした。

「はい、確かにお二人の覚悟は受け取りました。ほな行きましょか」

 頷いた鈴音が虎吉を抱え直し、部屋の中央へ向け一歩踏み出した時、その横を必死の形相をしたシェーモが走り抜けて行く。

 別に止めようと思えば止められたが、シェーモの目指す場所が青い光だったので、放っておいた。

 どのみち、神殺しの実行犯をどうするかはサファイアに決めて貰うつもりだったからだ。

「本気で悔い改めたら、今ならチャンス有りやったのにな」

 そんな呟きが聞こえる筈も無いシェーモは、青い光の中へその身を投げ出した。

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